2004年1月第1週

あけましておめでとうございます。

お正月は全国的に崩れ気味で、初日の出は拝めそうにないという予報でしたが、いいお天気が続きました。うららかな三が日でしたが、今週に入ったとたん、寒さがぶり返しそう。今年はどんな年になるんでしょうね。

去年の世相から一転して、いきなり明るい年などというのは無理だとしても、個人レベルでは理不尽などというものからすこしでも自由になって、足元をすっきりさせたいもの。自分にふりかかる理不尽は、すべて自分が作り出したものだと思ってしまえば、いたずらに脅えたり、備えたりする必要はありませんものね。世界中が防御という服で着ぶくれになる中で、逆に一枚ずつ脱ぎ捨ててゆくというのは心地のいいことで・・・そんなわけで、今年の目標はすっぽんぽん。生まれたときの無防備な状態にすこしでも近づいて、身軽になること。ふにゃふにゃの赤ん坊こそ、母なる大地にしっかりと守られるんですものね。

そんなふにゃふにゃの赤ん坊に近い鳩が、年明けを待たず、暮れのうちに飛び立ってしまいました。ピイちゃんです。

はじめての野外で猫に襲われてから、自分の生活の場は屋内と決めこんだかに見えたピイちゃんですが、突然天の声でも聞いたのか、自然の懐に飛びこんで行ったんです。それまでは外に出るといっても、家から近い林あたりまで。わたしが呼ぶと、かならずどこかで返事をしたものです。それが呼べど叫べど姿を見せない。距離にすればそれほどでもないのでしょうが、わたしの手の届かないところへ行ってしまいました。

前兆らしきものが、そういえばあったんですね。山鳩はデデポッポーと鳴いて、自分の縄張りを仲間に知らせます。実際にはクークードゥードゥーと聞こえるのですが、わたしが山羊のユーリのところにいると聞こえてくるのです。あたりに鳩の姿はなく、どうやらそれは室内から・・・。あわてて室内にもどってみると、ピイちゃんはクゥクゥとしか鳴きませんが、わたしが外に出るとまた大きな声でデデポッポーと聞こえてきます。一人前のオス鳩になっていたんですね。

猫に襲われた傷もすっかり治り、半分になっていた尾羽もきれいに生えそろって、寒くなって羽毛が増えたせいか、体もひとまわり大きくなっていました。傷を負ったときに飲ませた酵素も、ピイちゃんの筋力増強にひと役かっていたのかもしれません。暮れの大掃除、ピイちゃんの趣味は掃除の手伝いというか、邪魔をして歩くことですから、いつもより念入りにお掃除ごっこ。わたしが布団を干すために開け放った窓際でうたたねしている間中、肩の上にとまっていました。それが“さよなら”だったんですね。わたしが母屋の掃除を終えてもどってきたとき、ピイちゃんの姿はもうそこにはありませんでした。

山歩きをしていると、林や薮に残雪のように白い羽毛が散らばっていることがよくあります。子細に見ると、羽毛の下に埋もれているのは山鳩らしい羽根の色。おそらくキツネかタヌキのしわざでしょう。でも、ピイちゃんは家の中にいるから大丈夫。──ところが今後はそれが、もしやピイちゃんでは・・・に変わるのです。ああ、イヤだなあ。おまけにピイちゃんのいない部屋で寝るわびしさといったら・・・。朝もわたしを起こしてくれる鳩時計がないのです。山鳩を自然に帰すなどと口ではいっていても、ほんとうはそのまま室内鳩でいてほしかったんですね。そんなわけでめでたいような、さみしいような正月でしたが、ここはやはりピイちゃんの門出を祝うべきでしょう。どんなに危険に満ちていても、やっぱり自由がいちばん。それがピイちゃんにふさわしい居場所なのです。今ごろ裏山のどこかで、つがいになって巣作りしているかもしれないピイちゃんのために、今年がよい年でありますように。

そしてもちろん、みなさんにもよい年でありますように。

今週の野菜とレシピ

秋の高温で大きくなりすぎた大根。オトナのふともも大に育ってしまった大根は、抜くこともできないまま、地上部が霜にやられているそうです。代わりにかぶが登場しました。大根が煮るものなのに対して、株は蒸すもの。擦りおろしたかぶに塩ひとつまみと卵白を混ぜ、百合根や銀杏、変わったところではアボガドなどを入れてもおいしいのですが、それを椀に入れて蒸します。昆布と鰹節で濃いめにとった出しをお吸い物よりすこし強い味つけにして、片栗粉でとろみをつけ、蒸しあがった椀にたっぷり盛って、三つ葉かユズの皮を散らします。これは身体があたたまりますよ。風邪ひきの方にはとくにおすすめ。

山東菜はさっと湯がいて包丁を入れ、油揚げといっしょに芥子醤油で和えると美味。煮魚の煮汁でさっと煮て、魚に添えてもおいしい菜っ葉です。

バター炒めしたシメジに、湯がいて2~3ミリに切ったじゃが芋をからめて塩、胡椒。そこに生クリームをかけてオーブンに入れたグラタンは、簡単な割においしいんです。これはじゃが芋の甘みが決め手。じゃが芋をスライス、それをマッチ棒ぐらいに切って炒め、塩、胡椒しただけでもおいしいですよ。

今年もおいしく、やさしい味のする野菜がお届けできるよう、農家は休み中も頑張っています。冬は肥料作り、土作りの季節でもあるからです。たいへんといえばたいへんですが、肥料といっしょに夢もふくらむ、これは楽しい作業でもあるんですね。農家が仕事を楽しんでいなければ、野菜はおいしくなりません。料理もそう。──農家もわたしたちも、そして受け取る側のみなさんも、野菜のためにもいい一年を・・・。今年もよろしくお願いします。