2004年7月第1週

梅雨の中休みというより、まるで梅雨明けのような暑さ。先週は箱の中の野菜たちは息苦しかったにちがいありません。卵も気温が高くなると呼吸回数が増えてきます。白身に粘りがなくなり、ゆるくなってくるのはそのせい。だからといって、むきだしで冷蔵庫の卵ケースに並べてしまうと、呼吸ができなくないため、かえって鮮度が落ちてしまいます。紙パックのまま、できれば野菜ボックスのような冷気が直接あたらないところに保管してください。

今週はどうなりますか。梅雨なのに、雨が降るとほっとするというのも変な話ですが、気候はやっぱり暦どおりがいいですね。

野菜や卵だけでなく、わたしたちも暑いときにはハアハアと呼吸が荒くなります。体内の酸素量が増えますから、それを活性酸素にしないためにはあまり肉食をしないこと。焼き肉でスタミナをつけるなんて、あれは真っ赤なウソ。かえって身体を疲弊させます。動物性タンパク質はせいぜい土用のウナギぐらいにしておいて、野菜をたくさん食べましょう。

エスキモーが肉類を主食にしているのは、極寒の地ですから酸素の供給量がとても少ない。だから野菜がなくても健康でいられるのです。反対に熱帯では、めったなことでは肉を食べない。魚は日常的に摂っていても、動物の肉はごちそうで、特別なときしか口にしません。パプア・ニューギニアでもみんな豚を飼っていますが、ふだんはけっして口にせず、1~2年に1度のお祭りで大量に屠殺して、思い切り食べた結果下痢をする。欧米人はそれを非合理的だと嗤いますが、じつに巧妙な生活の知恵だったんですね。肉はうまい。だから食べたい。でも、食べたら毒になる。そういうものを禁止してしまったら、逆に食べろといってるようなものですから、日常から切り離し、特別な行事にちなんだごちそうにしてしまうのです。しかも食べすぎて下痢をするというおまけつき。体内にとどめておいてはいけなかったんですね。

じゃあ、沖縄はどうなんだ。あそこじゃ豚も山羊も食べているぞ、といわれそうですが、それ以上に野草が食べられているんです。沖縄の野菜といえばゴーヤばかりが有名だけど、じつはヨモギの消費量のほうがすごい。ヨモギには活性酸素を除去する働きがあるのかどうか。わかりませんけど、それが判明したらこちらでも一大ブームが起こるかも・・・。

ともあれ今、熱帯のそういう国々で深刻な社会問題になっているのが肥満と生活習慣病。肉類と小麦粉が欧米諸国から持ちこまれ、伝統的な食文化が崩壊してしまったからですが、それはパプアやトンガだけの問題ではありません。この国だって冬は欧米並みに寒いけど、夏はほとんど亜熱帯。つまり冬はなにを食べてもいいけれど、夏は控えめに、ということです。土用にウナギを食べるからといって、夏中それを食べていれば身体がおかしくなりますものね。肥満大陸アメリカも南部へ行くほど、その度合いがひどくなるのはそのせいでしょう。ま、夏といえばバーベキューですが、ひと夏に一度、羽目を外すぐらいにしておいたほうがいいのかもしれません。

話は変わって、先日ニュースを見ていたら、スペイン政府が一日5品の野菜か果物を食べるよう、国民に呼びかけていました。それぐらい野菜離れが深刻。農業にも暗い影を落としているそうです。その少し前、イタリアでも子供が野菜を食べないので、学校で食事指導がはじまったというのを見たばかり。母親もまじえての指導で、イタリアでは学校におやつを持ってくるそうですが、その内容まで教師がチェック。ビスケットやスナック菓子を持たせる親には、教師が家庭まで出向きます。野菜や果物の味を教えるという授業までありました。

政府がそこまで野菜の普及に力を入れるのには、農業の保護だけでなく、年々増加する保険医療の負担をくい止める目的もあるのでしょう。タバコだけに健康問題を押しつけて、後のことは知らんふり、というどこかの国とはおおちがい。はじめはヘエーッ、そんなにひどいの、と思いながら見ていましたが、よく考えたらこの国の子供たちも似たり寄ったり。途中からは、いいなあ、お国はちゃんとしているところは・・・。

それにしても人類はなぜ、ここへ来て急に野菜を食べなくなってしまったんでしょう。野菜の摂取量と生活習慣病の因果関係だけでなく、犯罪や事故との関係も調べてみたらいいのにね。親が子供を殺したり、長じた子供が親に暴力をふるったり、子供が子供を殺したり・・・。昔はふつうの人がいっぱいいて、若者はある日突然、自分もまたふつうの人のひとりであることに気がついて、軽い失望感とともにふつうの大人になったものだけど、今はふつうの人でいることがものすごくむずかしくなっている。だから世界もアブノーマル。野菜こそ人を人たらしめる、ある種の精神安定剤的役割を果たしていたのかもしれません。──野菜を食べなきゃダメだぞォ。

今週の野菜とレシピ

福田さんのレッドオニオン。これは生食用です。小ネギは薬味用。小口切りにしたものを保存容器に入れ、冷蔵しておくと1週間ぐらいは大丈夫。必要なとき、好きなだけ使えて便利です。

無農薬のピーマンは種の部分に甘みがあります。それを捨ててしまって、皮だけ食べるのではもったいない。半割りにして、そのまま天麩羅や炒めものにしてください。

好子さんのナスもアクがありません。ほんのりした甘みが身上。焼いても揚げても炒めても、あるいは生のまま塩もみしても・・・。これにはレシピなど不要ですものね。オカノリはおひたしだけでなく、天麩羅もおいしいですよ。

好子さんのトウモロコシは予定より数週間遅れ。今月中旬になりそうで、福田さんのトマトも遅れ気味。ズッキーニは台風6号の風にもまれて、大半が枯れてしまいました。ズッキーニはかなり大きな株になりますが、根元は小さく、頭でっかちなのでちょっとの風にも弱いのです。わが家の家庭菜園のズッキーニも同じ日にやられました。

福田さんのニンジンが終わって、高橋梅子さんのものが出てくる予定でしたが、これはイノシシにかきまわされて、大半が消滅。高橋さんの畑はわが家の山向こうなのですが、その山でイノシシが増えているようです。わが家の裏手にも、秋になるとドングリを食べに出てきます。さつま芋の被害も大きいようで、農家は頭をかかえていますが、山歩きをしていると見かけることが多くなった、有害鳥獣対策班と称する人たち。わたしはイノシシよりも、銃を持ったこの人たちのほうがこわい。

冬になるとイノシシの好物である山芋を採りに、人が無遠慮に山に入り、大きく穿った穴もゴミもそのままにして帰ってゆきます。かれらはだれにも責められないのに、イノシシがそれをやると許されないというのも妙な話で、それを妙だとも変だとも思わなくなっているのが人間界の不協和音の元凶ではないか。農家は気の毒だし、わたしたちも夏の間ニンジンがないのはつらいけど、そんなことを思ったしだいです。