2004年2月第1週

おだやかな晴天続きで、寒さがやわらいだと思ったら、週明けは雨になりました。ひさびさのお湿りで、農家はずぶ濡れになりながら、それでも顔はうれしそう。

4日は立春。文字通り春が立つのか、陽光が明るさを増してきます。暮れにきれいにしたはずの窓ガラスが早くも汚れて見えるのも、この陽光のせい。労をいとわず居間だけでもガラス拭きをして、春の光を取り入れたいですね。

日に日に夕刻が明るくなってゆく。日が長くなるのって、わけもなくうれしく、得をしているような気分になるもので、体の中でちぢこまっていた活力もいっしょになって立ち上がりそう。春そのものは案外けだるいものですが、春に向かって上昇をはじめたとき、人も動植物もいちばんエネルギッシュになるのかもしれません。山の中を歩いていると、地中にうごめく目には見えない生命力が落ち葉の道を持ち上げようとしているようです。こういう力が、じつはわたしたちの活力源だったのかもしれませんね。

事務局の周囲が野鳥たちのサンクチュアリになりつつある、と前に書きましたが、隣接している福田さんの畑がかれらの集中攻撃に合っています。一面に広がっていたホウレン草が、見る見るまばらになってゆくのです。

今年は山の中が食糧不足。これまで見かけなかったヒヨドリが集まるのは、そのせいだったんですね。ホウレン草が消えてしまってはたいへん、とパンを撒きはじめたら逆効果。ヒヨドリの数が増えて、ホウレン草は壊滅状態。えらいこってす。

スズメやカラスは、こちらが餌を与えていると畑のものに手を出しません。それどころか、スズメは雑草の種や虫を食べるし、カラスなども好物のトウモロコシですら我慢して、せっせとアオムシを取ってくれたりするのです。ま、よその畑ではやりたい放題なんでしょうけどね。わたしの畑では野菜もトウモロコシも無傷ですが、隣家ではネットをかけていてもやられるといいますから・・・。ところが渡り鳥となると、旅の恥はかき捨てとでもいうんでしょうか、そういう暗黙のルールが通用しないんですね。

仁義もなければ、人情(?)もへったくれもない。今もヒヨドリが垣根にとまって、窓ごしにわたしの顔を見ています。今日はまだ配給がないのかい?──あのねえ、配給といっても、あんたたちの食べ方はハンパじゃないでしょう。食パン1斤なんて、またたく間に消えてしまうんだから。パンを出すと、今わたしの顔を見ているのがけたたましく鳴きたてて、ピラニアのごとく集まった仲間がそれをむさぼり食うのです。スズメたちは右往左往。カラスでさえ、この集団に出くわすと後ずさりするくらい。

パン屋で半額になっている食パン、ロールパン、菓子パンなどを袋にいっぱい買ってきて、乏しいポケットマネーが底をついてもそれを工面して、わたしたちってバカみたい。そのうえ、ホウレン草まで消えてしまった。だからってそれをやめたところで、状況が好転するするかどうかもわかりませんし・・・。そんなわけで、ひたすら春を待つしかないのかもしれません。まあ、ヒヨドリが貪欲なのも、そうしなければ生きてゆけない事情があるんでしょうし、一度与えてしまったものをこちらの都合でひっこめるというのも、なんだか身勝手。不用意に自然には介入するな、ということなのかもしれませんが、やっちまったものはしょうがないもんね。

一方、わが家では朝、庭先に出てみると、ときどきヒヨドリが横たわって硬直しているのに出くわします。犯人はうちの猫で、ネズミは家の中まで持ってきますが、スズメやモグラはたいてい庭先まで・・・。それに今年はヒヨドリが加わったのです。ヒヨドリの農業被害はこの周辺だけでなく、かなり広範囲にわたっているようで、そんなヒヨドリもまた、キツネや猫の犠牲になって淘汰される。狼のいなくなった森の中では、シカやイノシシが増え過ぎて問題になっていますが、人里ではペットが微力ながら生態系の循環に貢献しているのかもしれません。自然界って不思議で、重層的に入り組んでいて、なにがいい、わるいなんてうかつには口にできない。いや、善悪の物差しなど越えたところにあるのが自然界なのかもしれない、とも思いました。

そんなこんなで、春先まであるはずだったホウレン草。いちばんおいしくなる時期だというのに、先週いっぱいで終了してしまいました。ほんとうに申しわけありません。

今週の野菜とレシピ

気温がいくらかぬるんできたので、巨大大根がなんとか収穫できるようになってきました。とはいってもオトナの太ももサイズまで生育している上、切ってみないことには中がどうなっているかわかりませんから、半分にして出荷することになりました。箱詰めできなくても困りますしね。本数は十分にあると思いますが、傷み具合によっては不足するかもしれません。そのときはカブで代用させていただきますが、ご容赦ください。

畑で氷結と解凍を繰り返した大根は火の通りが早く、すぐにやわらかくなりますから煮すぎないようにしてください。過熱時間が長引くとくたくたになってしまうことがあります。その点、短冊に切ってきんぴらにすると、そんな心配がなくていいかもしれません。甘みがあっておいしいですよ。

山東菜。わたしは湯がいて芥子醤油和えの一辺倒だったのですが、一夜漬けにすると歯ざわりがよくておいしいとか、白菜がわりに鍋に入れたらおいしかったとか、いろんな声が寄せられました。煮魚のとき、残った煮汁で山東菜をさっと煮てからつけ合わせても彩りがよく、バランスもよくなります。

真冬のター菜は地面に張りつくように広がるので、大輪の花のような形になります。それでいて寒さに強く、気温が下がれば下がるほどおいしくなります。八宝菜のような中華風の料理に最適ですが、味噌汁やスープに入れても美味。冬の緑黄野菜の女王みたいな存在です。

さつま芋はスティック状に切って素揚げ。すこし間をおいて二度揚げして、熱いうちに塩をふります。さつま芋の甘さが引き立って、大学芋より簡単でずっとおいしく、さつま芋を敬遠しがちな男性もこれには手を出してくれます。冷めてもおいしいのでおやつにどうぞ。

玉葱もたまには和風に。なにかもう一品というとき、わが家では厚揚げを玉葱を煮ることがあります。厚揚げはひと口大、玉葱は大きめに包丁を入れ、ひたひたの水と煮干し、酒少々と醤油で煮るだけですが、玉葱の甘みでおいしくなります。玉葱が透き通ってきたら完成。あれば仕上がりに三つ葉を散らしてください。