2004年4月第2週

春爛漫。

事務局周辺の桜は満開、山の中腹に位置するわが家では三分咲き。桃と桜が今年はほとんど同時に開花しました。ピンクの濃淡があざやかで、つい見入ってしまいます。田圃の土手や庭先で草避けに植えられる芝桜。こちらのほうも白、ピンク、薄紫と色とりどりの絨毯を広げ、ポップアートさながらの光景です。

山羊の柵の中も牧草が背丈を増して、ユーリは日がな一日忙しそうにしています。土や埃に汚れた下毛が抜け落ちて、新しい毛が生えてきますから、その白さがまぶしいぐらい。春は動植物がもっとも輝きを増すときですが、毛色のせいか、山羊はそれが顕著なんですね。新緑の季節になると、その白が薄緑に染まります。今はきっと桃色気分。春をいちばん満喫しているのも、彼なのかもしれません。

花とは縁のなさそうな山間の、昼間でも薄暗い窪地を歩いていても、春だというのはわかります。それは冬の間しんとして、水の流れもなかったところがいたるところ小川だらけになるからです。それがサラサラ、チョロチョロと心地のいい音を立てて、小学唱歌に“春の小川”というのがあったけど、あれはこういうことだったのか、と今ごろになって納得したしだい。小川なんて春でなくても流れてるんじゃない?などと、かわいげのない子供は思ってたんですね。

日向に出れば桜もコブシもキイチゴの白い花も咲いているのに、どうしてそんな陰気臭いところを歩くのか。冬場、そういうところにはユーリの好む常緑樹が多いから。それに歩いていれば犬も喉が渇いてくる。でも、いちばんの理由はそういうところこそ、ゴミの溜まり場になっているからです。花見客が投げ捨てる弁当箱、ジュースの缶に酒瓶やらが斜面を転がり落ちてくる。加えて家電に産業廃棄物、古タイヤや農業資材まで山と蓄積されているわけで、ひとつの谷がきれいになっても、隣に行けばまた同じ光景。年代物のゴミたちが樹木の根元で、何年たっても風景に同化できないおのれ自身を恥じるように身を寄せ合っているのです。

ゴミの山をかたづけ出して5~6年になりますが、はじめのうちは自分がゴミを見たくないばっかりに。それがゴミと呼ばれはしても元は商品。消費社会の落とし子みたいなかれらを救済するような気分になって、同時にゴミがなくなったとたん、林の中が一変するのに気づきました。ただ単に異物がなくなったというのでなく、空気がすっと垂直に立つ。つまり、淀みがなくなるのです。足元がきれいなっただけのことなのに、空気や気配までが透明になるというのが不思議でした。

そして最近、思うようになったのですが、ゴミの溜まる場所というのは霊のようなものも集まりやすいのではないか。山の中はとかくそういうものが多いそうですが、ふつうの人には見えません。わたしもふつうの人なので、そういうことはわかりませんが、気配はだれでも感じ取れます。なんか暗い、なんかイヤな、なんとなく足を向けたくない気分。たぶん犬や山羊はわたしよりも敏感なんでしょう。そういうところに降りて行くのをためらったりしますからね。そんなところが、足を止めてくつろぎたくなるような空間に変わるのです。

谷底に埋もれていたゴミを取り除いただけで、あたり一帯が見ちがえたようになる。ゴミ拾いが浄霊になるのかどうか、ほんとうのところはわからないけど、それで林や茂みの中に鬱々とわだかまっていたものが消えるんならお安い御用。といいますか、今や趣味の領域かもしれません。足場のわるい急斜面で大きな荷物を持ち上げるのはけっこうきついけど、それもストレッチみたいなもの。重たいもので足腰を痛めることがあっても、続けているうちに消えてしまいます。いちばん恩恵を受けているのが、拾っている本人だったのかもしれませんね。

今週の野菜とレシピ

春大根がようやくお目見えしましたが、まだ小ぶりです。お薦めは大根おろし。大根おろしにポン酢を混ぜて、わが家ではソース代わりに使っています。とんかつもこれで食べるとさっぱりしておいしいですよ。白身魚や鳥の唐揚げにかけても美味。もちろん、今が旬のしらすぼしをのせてもご飯がよく進みます。

紅菜苔。聞き馴れない名前ですが、茎が赤紫色のオータムポエムといったらいいでしょうか。湯がくと赤みがかった色素が抜けて、緑色に変身します。芥子醤油和え、すり胡麻入りのマヨネーズなどでどうぞ。

葉先がちぢれているのがあぶら菜ですが、正確にはアートグリーンという名前。でも、意味不明のカタカナ名にはなじめないので、ありふれた名前を使っています。あぶら菜は種類がとても多いんです。なんであれ春、あぶら菜がおいしく感じられるのは、ほのかな苦みのせい。この苦みが冬の間、高カロリーになりがちだった食事で蓄積された毒を抜くからです。炒めもの、おひたし、一夜漬け、いずれにしても身体が求めていますから、おいしく感じられるはず。

でも、薬効という点ではヤーコンのほうが一枚上かもしれません。これは青山さんが試作したもの。評判がよければ、今年からメニューに入ります。さて、その薬効ですが、ヤーコンはフラクトオリゴ糖の王様とも呼ばれ、野菜や果物の中でいちばん含有量が多いそうです。フラクトオリゴ糖には虫歯を抑制する効果のほか、ビフィズス菌を活性化する整腸作用があり、さらに血液中の総コレステロール、血糖値を下げ、血圧を安定させる働きがあります。また、ポリフェノールも赤ワインと同等量含まれているといいますから、動脈硬化の原因となる活性酸素を抑制、血管の詰まりを除去し、強化するなど、いいことずくめ。

問題は料理法ですが、まず皮をむいたらちょっとかじってみてください。甘くてサクサクして、まるで梨のよう。そのままサラダにすることもできますし、きざんできんぴら、スライスしててんぷらにすることもできます。いろいろやってみましたが、わたしがいちばんおいしいと思ったのは煮物かな。甘みが強いので、濃いめの出しと塩だけで煮ふくめてみましたが、過熱してもサクサクした食感はそのまま残ります。薬効もさることながら、いろいろ遊べて食材としてもおもしろいと思いました。

田ゼリも入ります。先週、かき揚げにした方は、根も葉もいっしょにきざんで油炒めして醤油で調味。それに煎り胡麻をたっぷり加えて常備菜にしてはどうでしょう。炒めると甘い春の香りが立ちますから、てんぷらとはまたひと味ちがいます。

玉葱は今回から愛媛産の新玉葱が入ります。やわらかい新玉葱はスライスして生食がいちばんです。春先になると小アジが出てきます。それをからっと揚げて、玉葱をたっぷりのせて甘酢で食べる。これも春の味なんでしょうね。