2004年3月第3週

先週この欄で、今週末はもう春分、などと書きましたが真っ赤なウソ。といいますか早とちり。今週末こそ、ほんとうの春分です。こういう勘ちがいが生じるのも、春が近い証拠なのかも・・・。もっとも、春にかぎらずポカは多いんですけどね。

戸外が明るくなって、まるで60W電球が100Wに取り代えられたような感じです。夕刻なども、ついこの間まで暗い道を帰っていたのが、夕日がまぶしくなってきました。気のせいか、今年は陽光がものすごくエネルギッシュで、夕日と青い空のコントラストなど春ではなく、もう夏かと思われるほど。去年、太陽が活発ではなかっただけに、余計そんな感じがするのかもしれません。

暑いあつい夏の予感。──そろそろまとまった雨が降ってくれないと、春・夏野菜の種も蒔けない。定植もできない状況。強風に表土をさらわれるので、耕運機も使えません。あぶら菜の葉先が枯れていたのも、ラディッシュに空洞があったのも、土がパサパサになっているから・・・。猛暑はともかく、旱魃の予感だけは当たってほしくないものです。

春の証拠・その2:福田さんのホウレンソウ畑を食いつくし、ようやく芽を出した絹サヤまで全滅寸前に追いこんでいたヒヨドリ。その際限のない食欲も、ここへ来てようやくおさまってきたようで、パン代も半分以下になりました。ということは、かれらの旅立ちも近いんでしょう。どこへ行くのか知らないけど、お達者で・・・。

それに反して食欲を増してきたのが地元民のカラスやスズメ。スズメはこの時期、ものすごい勢いで動物性蛋白質を摂取して子育てに備えます。つまり虫を食べてくれるので、秋には害鳥となるかれらもこの時点では益鳥。この害鳥・益鳥という概念自体、身勝手で破廉恥なものですから、ピラニアもどきのヒヨドリだって、実際にはどこでどう人類に貢献してくれているかわからない。わからないから、今のところは害鳥扱い。

かつて、中国が大躍進を旗印に一致団結していた時代、毛沢東がこんなことをいいました。スズメは労せずして米を食らう人民の敵である。プチブルは一掃してしまえ、と檄をとばしたそうですが、全国土からスズメが姿を消してどうなったかというと、米も麦もコーリャンも虫に食われて収穫減。そのときの餓死者が推定2千万人といいますから、日中戦争時やその後の朝鮮戦争派兵による死者をはるかに上回っていたのです。こわい話ですけど、だれもそれを責められないし嗤えない。ここまで派手じゃなくてもその手のことはどこでもやっていて、知らずしらずわたしたちもそれに類したことをやっているのですから・・・。

自然界のバランスが崩れたら、人類もまた枯渇する。そんなことはいわずもがなで、わかってはいるんだけど、実際に自分の畑に虫がわいたら薬を撒き、家の中にハエや蚊が入ってきたらシュッとやるわけです。渡り鳥がインフルエンザを媒介するといったら、愛鳥家の肩身が狭くなるし、それがカラスに感染すると、てのひらを返したように愛鳥家ではなくなってしまう。恐怖の前では理性などなんの役にも立たないようです。

その昔、冗談半分ではありますが、一発で効く風邪薬ができたらノーベル賞もの、なんていわれていたことがあります。そんなものができたところで、風邪がもっと恐ろしい病気になるだけ。それどころか、いずれ人類はインフルエンザで滅亡することにもなりかねません。現に第一次大戦直後に大流行したスペイン風邪では、戦争による死者の10倍近くが犠牲になりました。中世ヨーロッパを震撼させたペストの死者に勝るとも劣らぬ数字です。医学が進歩すれば、それに応じて病気も進化しますから、今後さらに厄介なものが出てしそうな気がします。壊滅したはずのペストや天然痘だって、虎視眈々と復活のチャンスをうかがっているんでしょうしね。

こうした病気は、いったいどうして発生するんでしょう。病気も菌によって引き起こされる以上は生き物。ただ人類を恐怖に陥れ、楽しむぐらいのつもりなら自然界のゴーサインは出ないはずです。あまたある病原菌のひとつが頭をもたげ、急激に武装しながら数を増やすにはそれなりの理由があるはずで、それはうかがい知れないけど、その目的のひとつはきっと、人類に対して謙虚であれという直訴。お手打ち御免の直訴に打って出るということは、向こうも命がけにちがいありません。

山の中で薮蚊に会ったら“ご苦労さん”と声をかける。そうすると不思議と刺されないものですが、伝染病もたぶん同じ。感謝されると危害を加えにくいのは、人も動植物も共通で、病原菌だって例外ではないと思うんです。甘い、といわれるかもしれませんが、わたしたちが風邪はひいてもインフルエンザに罹らないのは、いたずらに恐怖には陥らないから・・・。恐怖感が免疫系統を破壊します。その恐怖を破壊するのが“ありがとう”と“ご苦労さん”で、手洗いやうがいなどよりはるかに効果がありそうです。われらが害鳥・カラスたちも食欲旺盛で、かれらがいたずらに迫害などされないことを祈るのみ。わたしたちに卵を提供してくれている鶏たちもおかげさまで食欲旺盛、元気にしています。ほんとにみんな“ありがとう”“ご苦労さん”です。

今週の野菜とレシピ

雨がないと乾燥に弱い葉ものが枯れるだけでなく、危機感を抱いたものは早く花をつけ、子孫を残そうとするのか、トウ立ちしてしまうようで、春大根も半分以上、出荷不能になりました。でも、後撒きの大根が直系2~3センチに育っていますから、半月もすれば出てきます。それまでにはひと雨ぐらいほしいですね。

そんなわけでレタスも外葉が堅く、ガサついていて、人でいうなら乾燥肌。ミツバも一部、トウ立ちをはじめているようです。見かけはわるくても、畑のミツバは市販の水耕栽培ものより香りが濃厚。おつゆの青みや卵とじにお使いください。

レタスも内側はやわらかいので、さっぱりと和風サラダ。ひと口大にちぎったレタスの上に、焼き海苔をもみほぐし、酢:1、醤油:1、油:1のドレッシングをかけるだけ。レタスと焼き海苔の相性のよさにびっくりします。

からし菜はそのまま湯がけば、ほろ苦いおひたしですが、さっとお湯をかけるとツンと鼻にぬける辛みが出ます。きざんで塩もみ。一夜漬けにしてもよし、今が旬のしらすぼしといっしょに菜飯にしても食が進みます。

春菊もこまかく切ってしらすぼしといっしょに、上記のさっぱりドレッシングで食べると美味。わが家では春菊は香味野菜同様、おつゆの青み、肉料理のつけあわせに使っていますが、茸や魚介類のリゾットなどにも火を止めてからたっぷり加えるとぐっと香りがよくなります。

春は香りから・・・。それでこの時期特有のけだるさを払いたいもの。香りは魔よけでもあるんですよね。