2004年5月第4週

台風2号が海上を駆け抜けてくれたおかげで、こちらの被害はゼロ。むしろここ数週間の日照不足のほうが、案外影響しているかもしれません。

それに加えて低温続き。今年は夏が早まるはずだったのに、どうなってるんでしょう。定植された夏野菜は苗のまま現状維持。中途半端に大きくなってしまったものはかじかむように葉先を丸め、それが雨に打たれる姿は哀れを誘います。

野菜セットを発送する上では低温はむしろ好都合なのですが、かんじんの野菜がちゃんと育ってくれなくてはね。今週はどうなりますか。太陽が出てくれますように。

こんな空模様では動植物の活動が鈍りますが、人もまた怠惰になるようです。年に何度か、まめにビデオを借りてくる時期があるのですが、それは梅雨どきと秋の長雨の時期なんですね。それから、これは滅多とないのですが雪が積もったときなど。

せっかく日が長くなったのに、夕刻の草むしりもできない。犬も散歩に出たがらない。そんなときは夕飯が早くなるので、雨の日の夜長。テレビはつまんないし、かといって本を読むほどの気力もない。となると、ビデオでも借りてくるか、となるのです。ぐうたらの友とでもいいましょうか。

で、今回数本見たビデオの中で秀逸だったのが、アッバス・キアロスタミ監督のイラン映画“桜桃の味”──自殺願望の男がそれを幇助する人を探すというストーリーで、ひたすら車を走らせる単調なシーンが続き、ドラマティックな展開はないし、男がなにに絶望しているのかすらこちらにはわからないのですが、見終わった瞬間、どーんと大きな波が押し寄せてきて、自分を取り巻く風景が一変し、すべてに感謝したくなる。そんな映画です。

そこには工事現場で働くアフガン人、兵役についているクルド人、博物館勤務のトルコ人など、さまざまな国籍の男たちが登場しますが、みんな敬虔なイスラム教徒たち。イスラム教といえばすぐに“目には目を、歯には歯を”という言葉を思い浮かべるわたしたち異教徒の先入観、誤解やら偏見やらを払拭する恰好のテキストにも使えそう。

主人公の男の要求はこうです。谷底の大木を指しながら、あの根元に大きな穴がある。あしたの朝、その穴まで来て男の名前を2回呼び、返事がなければシャベルで土をかけてほしい。報酬はいくらか忘れましたけど、かなりの大金です。登場する人物はみんな貧しく、借金があったり家族に仕送りしていたり、お金は喉から手が出るほどほしいはずなのに、だれもウンとはいってくれない。これが日本だったら、若者たちはふたつ返事で引き受けるんだろうな、と思いました。べつに人を殺すわけではないんだし、すでに死んでいる人に土をかけるだけなんだから・・・。

結局、白血病の娘を持つトルコの老人が引き受けることになりましたが、彼は最後まで男の説得をやめません。この老人の長話がこの映画の主題みたいなものなので、ここには書きませんが、トルコの笑い話というのをひとつ。──ある医者のところに男が来て、体中が痛くてたまらないという。脚をさわれば脚が痛い。腹をさわれば腹が痛い。どこもかしこも痛いとこだらけの男を診察した医者は、あんたはどこもわるくない。ただ、あんたの指が折れているだけだ、といったそうな。

病んだ目で見るから世界が病んでいる。これは笑い話などではない、と思いました。目からウロコ。そんなつもりはなくても、所詮わたしも経済効率一点張りの世界の垢にまみれてたんだ、と・・・。そして翌朝、犬といっしょに散歩に出たら、雨上がりの景色のうつくしかったこと。見慣れたはずの風景が一変し、まるで別世界に迷いこんだようで、ああ、こんなうつくしい世界にわたしは住んでたんだ、と再確認。たまに雨が続くのもいいもんだ、と思ったしだいです。

今週の野菜とレシピ

今週は田植えを終えた青山さんが例年通り、岩手の安比高原に山菜を採りに行ってますが、4月半ばに雪が降ったかと思ったらいきなり高温。そしてまた低温続きとあちらも天候不順だそうで、お目当てのタラの芽は望めそうもありません。今年の山菜はこごみだけになりそうです。これはてんぷらにするとモチモチした食感になって美味。

スナップエンドウも生育が遅れ気味なので、120グラムしか入りません。これはスジと取ってから、さっと湯がいてマヨネーズで食べてもよし。炒めてもかき揚げでも、濃厚な甘みが堪能できます。

オカノリはフキに似た丸い葉を持っています。東南アジア原産の葉ものですが、茎の部分にぬめりがあって、野草に近い味わいを楽しめます。さっと湯がいて、鰹節をかけておひたしにしてください。

間引きニンジンは、ニンジンそのものよりやわらかい葉っぱに値打ちがありそう。先週、かき揚げにした方は今週あたり佃煮にしてみてはどうでしょう。フライパンに油を多めに敷き、ちりめんじゃこをカリッとするまで炒めます。そこへ細かくしたニンジン葉を茎のほうから入れて炒め、一味とうがらし少々と醤油で味つけ。仕上がりに煎り胡麻をたっぷりからめます。佃煮というよりふりかけみたいで、梅雨どきのお弁当作りに重宝します。

新玉葱はスライスして、鰹節とポン酢でオニオンサラダ。うっとうしい季節にはこれがいちばんで、体がしゃきっとしてきます。ただし保存の際は、水分が多いので冷蔵庫の野菜ボックスに入れてくださいね。