2004年9月第2週

稲穂が黄金色の波になって、右へ左へ打ち寄せました。先週の台風16号。直撃はなかったもの、通過後の風が大暴れして、わが家でも栗の木が3本、かなりの大木になっていたのが根こそぎやられてしまいました。

近所のお婆ちゃんから、栗は薬をかけないと虫にやられてしまう、と再三いわれていたにもかかわらず、放ったらかしになっていたのです。しかも近所のどの栗の木より生育がよく、大きな実をいっぱいつけてくれるものですから、老婆心の忠告もよけいなお世話。クリムシという栗だけにつく巨大アオムシも発生せず、実に入りこむ虫も少なく、どんなもんじゃい、これが無農薬の底力・・・ぐらいの気持ちだったんですね。

それがボキボキ折れてしまったのは、山の斜面で風の影響を受けやすかった、というのもありますが、肝心の幹が虫にやられていたからです。よく見ると根元は黒ずみ、まるでシロアリでも巣くったように内側がボソボソに・・・。ほかの樹木は無事なのに、栗だけがやられたのも納得がゆきました。栗って実だけじゃなく、枝も幹もおいしいのかもしれません。

わたしの住んでいるところは“栗生”という字名があるぐらい、栗がどんどん出てきて、放っておいたら庭中栗だらけになってしまう。今回折れた大木だって、勝手に出てきて、勝手に大きくなったんです。そして勝手に消えてゆく・・・。しかし、後かたづけは数日がかりで、ほんとに迷惑なヤツですが、よくよく考えたら栗ご飯に栗ぜんざい、渋皮煮にモンブランと毎年ごちそうになっていたんですね。枝と幹は薪用、小さな枝葉は山羊のご飯、山のような青イガは堆肥にと、連日奮闘しています。

でも、同じように勝手に出てきて、勝手に大きくなった栗の木でも、山栗のほうはみんな健在。野生の強靭さといいますか、人手に頼ることなく生き抜く術を心得た原種って、やっぱり強い。野菜でも品種改良されたものは、たしかに口あたりはいいけれど、病害虫にはきわめて弱くなっています。

 たとえばトマト。フルーツみたいに甘い品種がどんどん作られ、市場でもそれが売れ筋になったりしますが、防衛本能みたいものは薄れてしまって、植物としてはきわめて軟弱。家庭菜園でよく作られるプチトマトが原種に近い分、病気にもならず、虫もつきにくいのと対照的です。

それと同じことが米にもいえそう。米はそれほど技術がなくても無農薬栽培ができるのですが、除草に膨大な手間がかかるため、薬に頼ることになるそうです。でも、病害虫に強く、日本の風土に適しているといっても、このまま気候が変動していったらどうなってしまうのか。これだけみんながコシヒカリばかり作ってて、なにかあったらどうするんだろう、と毎年心配するのですが、今のところ毎年事なきを得ています。

日本の米作は弥生時代にはじまったというのが通説ですが、縄文後期には意図的に混植するのが九州・四国・本州全土に定着していたという説があります。赤米、黒米、それに何種類かの稲をある一定の法則にしたがって植えていたといいますから、稲穂が垂れるころには田圃が幾何学模様に色分けされていたにちがいありません。きれいだったでしょうね。でも、なぜそんなことを?もちろん美的効果などでなく、病害虫、及び気候の変動などに備えていたのではないか、といわれています。主食が不作になったら一大事。それが単一品種では、あまりにもリスクが大きすぎます。

しかもそれを日本全土、同じ比率で定着させていたのですから、数千年前の日本にはものすごい統率力と叡知を兼ね備えた農林大臣がいたみたい。今や落ちぶれはて、消費者は食味がいいからコシヒカリ、農家は農家で値段がいいからコシヒカリ。猫も杓子もコシヒカリでは、なにかあったときどうするんだろう。福田さんのところでは出荷用のコシヒカリ以外に、早生品種や旱魃に強い品種を植えていますが、これは福田さんのお母さんの昔気質がなせる技。今でも年寄りが主導権を握っている農家では珍しいことではないそうです。が、いろんな品種があるといっても、あくまでも自家用にすぎません。こういうことをもうちょっと大規模に、お国がダメなら自治体単位でも着手できないものかなあ、などと思いつつ、今年もなんとかなりそうだ、とホッとして、またいつの間にか忘れてしまう。そんなことをもう20年もやってるんですから、凡愚のきわみ。

今また台風18号が接近中です。16号に負けず劣らず、大型で勢力が強そう。そして今回もまた、あのルートをたどりそうですから、また稲穂が大揺れになるんでしょうね。

今週の野菜とレシピ

今週は冬瓜が入りますが、大きいものなので半分にカットしてあります。煮干しか鰹節、昆布などで濃いめの出しを取り、その間に冬瓜の種をワタと取り除き、厚めに皮をむいてからスライスしておきます。出しが取れたら冬瓜を入れ、果肉が透明になってきたら塩と香りづけの醤油少々で調味。片栗粉でとろみをつけて、椀に盛ってから生姜の千切り、またはしぼり汁を少量たらしていただきます。

冬瓜スープは夏の疲れを癒してくれますが、幼児の離乳食、老人食としてもすぐれもの。八宝菜の白菜代わりに使ってもおいしいですよ。

初物の里芋は砂糖と醤油で煮っころがし。驚くほど火の通りが早いのが、好子さんの里芋の特徴です。とろとろに煮あがったところに、できれば青ユズの皮を薄くそいで入れてほしい。ユズの香りがプラスされると、里芋が格段においしくなる上、秋になったぞォという信号が体中に行き渡るんです。まさに至福の味、至福の時。

そういえば今週末は中秋の名月でした。里芋が500グラムと少量で申しわけありませんが、それまで取っておいてもいいですね。天と地で至福を分かち合えたら、気まぐれな秋の天気も落ちつくかもしれません。