2004年3月第2週

先週は冬に逆戻りしましたが、今週は気温が上がりそう。三寒四温ならぬ五寒六温という感じですが、こうして一歩、また一歩と野山が春の様相を呈してきます。

今週末はもう春分。太陽は真東から上がり、昼夜の長さがほぼ同じになって、さらにこれから日が長くなる。生命活動が活発になるわけです。林の中を歩いていても畑のまわりでも、モグラの塚が頻繁に目につくようになりました。繁殖期の前にトンネル網の整備をするからで、これがかれらの春支度。地上を通る人や動物、つまり犬やら山羊やらわたしによって陥没した通路を補修したり、トンネルの拡張などで押し出される土がそれなんです。歩いていると地面がなにものかに突き動かされ、躍動している感じがします。

モグラはミミズを主食とし、地下30センチほどのトンネルで規則的に4時間眠り、4時間行動しているそうです。地下生活者には昼も夜もないのかもしれませんが、体重約100グラムのモグラが年間平均2,7キロの塚を125個作るとして、その仕事量を人間に当てはめるとほぼ24トンの土を押し上げている計算で、縁の下ならぬ土の下の力持ち。トンネルの整備が終わると今度は出産、子育てという大事業です。カラスの坊やも両親のはげしい反対にもかかわらず、毎日のように彼女を連れて来ています。できちゃった結婚で親ガラスに対抗する魂胆なのかなあ。ともあれ春は生命の息吹に満ちて、どこもかしこも花盛りになりそうです。

そんな春に暗い影を落としているのが鳥インフルエンザで、終息の気配を見せないどころか、まだまだ拡大の様相。ついにカラスにまで被害が及びました。

益子GEFに卵を提供してくれている寺内さんのところでは、野外にいるクジャクのつがいと烏骨鶏たちも屋内に避難させられてしまいました。鶏たちは完全に外部とは遮断されているので心配はありませんが、万が一、ペットのかれらが感染したら、という配慮からです。

以前にもお話ししましたが、寺内さんはウィンドレスという特殊な鶏舎で無投薬養鶏に挑戦している変わり者です。なぜ変わり者なのかというと、ふつう健康な鶏や卵というと放し飼いというイメージが強く、事実それを売り物にしている養鶏場が多いんですね。でも、実際に放し飼いの現場を見ると、限られた面積で採算に見合うだけの鶏を飼育しなければなりませんから、消費者のイメージとはかなりかけ離れたものであるうえ、鶏たちは糞の上を歩きまわるので病気に罹りやすく、無投薬が困難になるのです。

一方、ウィンドレス鶏舎といったら、給餌・給水から採卵や糞の始末までオートメーション化された企業養鶏の代名詞のような存在。彼があえてそんなものに高額な投資をしたのは、放し飼いも解放鶏舎も名のみの自然だからで、徹底的な管理のもとに卵の品質と安全性を追求することに重点をおいたからです。わたしもはじめ、ウィンドレスと聞いたときには正直いってためらいましたが、現場を見て納得。これまで見ていたお世辞にもきれいとはいえない鶏舎とは別世界だったからです。通常の飼育羽数の半分というゆったりしたスペースで、めん鶏世界につきもののイジメもありませんから、羽根もきれい、臭いもない、なにより鶏たちにストレスがなさそうでした。

日本中の養鶏場に一斉消毒が義務づけられて、ついに寺内さんのところでも消毒薬が散布されることになり、100パーセント無投薬とはいえない状況になってきましたが、こういう時節です。これまで通り、卵を使うことをお許しください。心強いのは、これだけ鳥インフルエンザのニュースが流れても、会員のみなさんから卵を拒否する意向がなかったこと。これには寺内さんをはじめ益子GEF一同感謝しています。それどころか逆境に立っている卵屋さんを応援したいといって、これまで野菜だけのセットを送っていた人から、これからは卵を入れてほしいという申し出があったぐらいです。

しかし、よくよく考えたら鳥インフルエンザで何万羽という鶏が死んだといっても、それは餌にまで抗生物質が入っているような薬漬けの鶏の身に起こったことで、寺内さんのところではそういうことにはなりにくい。ただ、感染すれば鶏は無事でも、保菌者にはなってしまうわけですけど・・・。問題は鶏を生きものとも思わないような飼育法と粗悪な食べもの。カラスが犠牲になったといっても、山の中で野鳥が大量死などというニュースがないところを見ると、やられているのは家畜並に免疫を失ってしまった個体なんでしょう。カラスは人間同様、ジャンクフードがけっこう好きですからね。要するにこれも一種の自然淘汰。鶏なら鶏、カラスならカラスという身体機能やライフスタイルから逸脱したものがやられているのではないでしょうか。

そして、昨年世界を震撼させたSARSといい、今回の鳥インフルエンザといい、発生地が中国というのも偶然ではないような気がします。もちろんこれは憶測の域を出ないのですが、わたしたちが半世紀かかって成し遂げてきた変革を、かの国はこの10年ばかりで急激に押し進めてきました。50年がかりでも自然界にとっては急変ですから、さまざまな障害をもたらしたのはご存じの通り。それが加速されればどうなるか。それはもはや公害などというなまやさしいものではないのかもしれません。

自然が牙をむく。しかし、すべてのテロにはそれだけの要因があるのでした。

今週の野菜とレシピ

春大根が復活。小ぶりですが、みずみずしい大根です。大根おろしにしても甘みがあるので、今が旬のしらすぼしといっしょに・・・。短冊に切って、鰹節とポン酢で食べても美味でした。

あぶら菜の甘みとほろ苦さ。これはフキノトウやヨモギ同様、冬の間に蓄積された身体の毒を抜いてくれます。これを食べて身体を春モードに変換するのが先人の知恵。おひたしでも炒めものでも、じゃが芋とあぶら菜のグラタンなどというのもおいしそうです。

春とはいえ、まだまだ寒さも残る時期、ニラは風邪などから身を守るために食べてください。しかし風邪をひいてしまったら、無駄な抵抗はせず、ゆっくり身体を休ませてくださいね。風邪は病気というより、身体調整みたいなものですから、薬などには頼らないこと。抗生物質で散らしてしまうと、またすぐに同じ症状を出てきます。のみならず、そんなことを繰り返していると、既存の抗生物質では歯が立たない新種の菌にやられることに・・・。どこかのブロイラーなどと同じ運命にはなりたくありませんものね。