2004年2月第2週

少しずつ日が長くなって、陽光も明るさを増してきます。でも、寒さのほうはまだまだ・・・。春にむかって長い坂道が続きそうです。

そんなときに、もう衣替えをはじめている気の早いヤツがいます。うちのユーリ君。10歳ですからもういいかげんジイさんで、白内障にもなっているのに、さっさと冬毛にさようなら。山羊というのは暦にとても忠実で、立春を境に毛が抜けはじめるのです。寒さには強いはずの大型犬だって、4月に入らないと冬毛は落とさないのにね。

うっとりと目を細めてブラッシング。土埃で汚れた下毛が抜けると、くすみが取れたように白くなって、山羊は見違えるようにきれいになります。毛づやも増して、若返ったみたい。冬枯れの中でただひとり、春を謳歌しているように見えるユーリは、じつはだれよりも切実に草木の芽吹きを待ちわびているのかもしれません。

山羊のそういうところが好きなんです。春が来ないのならひっそりと、せめて自分だけでも春になる。叫んだり暴れたりしてみたところで、ほんとうに春になるわけではないのですから・・・。戦争が終わらないのなら、そして憎しみが消えないのなら、自分の中で平和を実現。自分自身が愛になる。これってすごいことかもしれない。そういう人が百人いたら国が変わる、一万人いたら世界が変わると思いませんか?

山羊がわたしの師だと思うのは、そういうことをなにげなくやってのけるからですが、長いつき合いだというのに、弟子のほうは未だに凡愚。せめてもの罪滅ぼしがブラッシングだったのかもしれません。

先週、福田さんのホウレン草畑がヒヨドリの食害にあって消滅、という報告をしましたが、イチゴの小倉さんも自家用の野菜をみんな食べられてしまったそうです。のみならず、ちょっとでも透き間があるとハウスの中に入ってきてイチゴの食べ放題。なかなかの美食家でうらやましいような話ですが、農家は頭をかかえています。

小倉さんの家から近い好子さんの畑では、どうして野菜がやられないのか。やられてもいいように倍の種を蒔いてある、というのが好子さんの返事でしたが、これ以上野鳥が増えるようなら、ネットを張るかもしれない、とも・・・。

一方、都市部にお住まいの会員の方からは、今年はヒヨドリの姿を見ないと思ったら、そんなところに行ってたんですね。なにか異変でもあったんでしょうか、という電話。なにがあったかわかりませんが、ヒヨドリは例年になく大量に内陸部に入りこんでいるようです。

でも、わるい話ばかりではありません。福田さんのネギ畑は家から離れたところにあるため、ネギの収穫は孤独で寒い仕事だったのですが、それが一変。ネギ畑に行くのが楽しみになったといいます。なぜかというと小さなお友達が待っているから・・・。福田さんがネギを抜きはじめると、セキレイが後をついてまわるのです。たぶん土の中で越冬している虫が目当てなんでしょう。手を差し出しても逃げ出さない。それどころか今では、軽トラの音を聞きつけると嬉々として飛んでくるようになったといいます。

まるで恋人でもできたみたいにうれしそうな福田さん。図書館にも行って、彼女(?)が正真正銘のセキレイであることも確認してきました。ネギを納品するときも口笛を吹きながら・・・。音程が外れているので、わたしたちはあまり聞きたくないのですが、彼がうきうきしているせいか、ただ単に寒さのせいかわかりませんけど、ネギが甘くやわらかくなってきました。大根が凍結したり、ホウレン草が全滅したり、彼にとってはさんざんな冬でしたが、一羽のセキレイの出現によって救われた。これで流れが変わって、春野菜が元気に育ってくれるといいですね。

今週の野菜とレシピ

野菜セットにはそのネギが入りました。ネギは鍋ものや薬味にあますところなく使われますが、中途半端に残ったものは焼きネギにしてオリーブか菜種油につけておくと、香りのいいネギ油になって、肉や魚を焼くときに重宝します。エビの頭などもこんがり焼いて油につけておくと便利ですよ。

かき菜はあぶら菜の一種。油炒めやおひたしでいただきますが、湯がくときにはひとつまみの塩といっしょに油を少々、お湯の中にたらしておきます。そうすると茹であがりがきれいで、味も逃げません。鰹節と醤油でも十分に美味ですが、マヨネーズに擦り胡麻と醤油をプラスして混ぜあわせると、おひたしが若者向きになります。

ニラは鍋に入れると、体がぽかぽかして汗ばんでくるぐらい。風邪の撃退にはこれがいちばんで、ニラ雑炊ニラ玉汁がお薦めですが、おひたしや炒めものにも捨てがたいものがありますね。上記のネギに負けず劣らず甘くやわらかいニラですから、どうやっても美味。熱した胡麻油をジュッとかけるとサラダにもなりますから、白身魚やホタテの刺し身などといっしょにどうぞ。

青もの不足を補うため、高橋さんの梅干しが入りました。季節外れの感もなくはないのですが、梅肉に蜂蜜と醤油を加えたソースで、今が旬のイワシやアジのフライを食べてみてください。とても上品な味になります。拍子木に切ったニンジンを茹で、春菊の生葉といっしょにこのソースで和えてもおいしいですよ。

山羊に倣って春を先取りしたい向きには、春菊入りのオムレツがお薦め。なぜか卵といっしょにすると、春菊はまるで野草のように春を運んでくるのです。しらすぼしを加えて形を整えると和風に・・・。お好みの春を味わってくださいね。