2004年9月第4週

快晴、とまではゆきませんが、秋晴れが続きます。それなりに気温も高くなるのですが、空気が乾いているせいか、もう夏の暑さではありません。夕刻には上着がほしくなるくらい。日暮れが早くなったせいか、秋の虫にまじってフクロウの声がよく聞こえるようになりました。

フクロウの姿は見えませんが、すぐ近く梢からこちらを見下ろしていそうな気配。ホロスケホウに混じって、ホーッ、ホッホッホッホと笑うような声がすると、こちらまでくすぐったいような気分になって、つい笑ってしまいます。フクロウは笑っているわけじゃないんだろうけど、気持ちよく歌っているのが伝わってくるからです。

ウクウキした気分になるのはわたしだけではないらしく、家の中にいた犬ももうもうと煙のたちこめる庭に出てきます。犬は焚き火が苦手なので、この時間帯は室内に避難してるんですけどね。枯れ草を燃やすのは、山羊のユーリがのんびり食事ができるように虫を払うという意味と、草の実をつける前に夏草を処分して牧草の準備をするため。焚き火の灰がその肥料になるという寸法です。小規模ではありますが、焼き畑農業。

一時、森林破壊の汚名を着せられ、今また二酸化炭素問題で取り沙汰される焼き畑ですが、これほど自然の恵みをうまく利用した、しかも自然を傷つけない循環型の農法なんて、エコロジーの極みといってもいいぐらい。これ以上のものがあるでしょうか。肥料など与えなくても土は肥え、牧草地は柵を隔てた菜園などより豊かなくらいです。

柵の中でも家屋に近いところに生えた木は、火に囲まれることがありませんからそれほど大きくないのに対して、毎年丸焼けにされる木は、新しい枝をどんどん広げて、夏の終わりには巨木に成長。でも、山羊の餌に枝を落とされ、丸裸になったところでまた焼かれ、黒焦げの姿で冬を耐えて春、青々と復活するのです。運悪く、山羊の柵の中に生えた木なんて、小さいうちは葉っぱを食べられ、冬には幹の皮まで食われて枯れるか、頭突きのトレーニング棒にされて折れてしまうか、どっちかなんですね。それが焚き火に巻き込まれると、無残な姿とは裏腹に不死身を獲得するみたい。

それからもうもうと立ちこめる白い煙。犬猫には迷惑でも、これが裏の林まで流れていって木の葉の虫を落すのです。幹に入りこんだ虫には効きませんけどね。草の燃える芳香に混じって、かすかに木搾酢のにおいがしますから、それが功を奏すのでしょう。山羊はこの煙の中に好んで入り、薮蚊などを払いますから、フクロウももしかしたら羽根を広げて粉ダニを落としているのかも。そしてホーッ、ホッホッホッホッホッ、ああ、いい気持ち、なんてね。その声を聞いて、こちらは一日の疲れを落とします。なぜか日が落ちるころには、犬猫もゾロゾロ出てきて、黒くなった地面のまわりを走りまわる。これも焼き畑効果ですかねえ。

これだけ人と動植物が癒される、しかも何千年も受け継がれてきた農法が、百年かそこらでひどくなった環境破壊の元凶のひとつにされるという理不尽。今なお焼き畑などやっているのは、たいてい高地に住む少数民族ですから、そういう反論の手段をもたない連中に罪をなすりつけ、自分たちはやりたい放題という連中がいるんでしょう。それをまことしやかに報道するマスコミもマスコミですけどね。

焼き畑はしかし、近代農業にもちゃんと受け継がれているのです。稲刈りの終わった田圃では、今でも半数ちかくの農家が稲株に火を放ち、もうもうと白い煙を上げながら大地を黒焦げにしています。落ち穂をスズメやカラスが食べつくすころ、うまい具合に稲株も落ち穂も乾燥しますから、それを掃き寄せながら火を誘導し、田圃を丸焼けにするのです。今では少なくなりましたが、そこにレンゲの種を蒔く人もいます。

この野火が、高速道路に面していると玉突き事故の原因になるとか、二酸化炭素がどうのこうのと、都市部の焚き火と同じように田園風景からも消えゆく運命にあるそうです。これは一大事。もしも医師から余命数カ月と診断されたら、毎日焚き火をして暮らそうと思っているほど焚き火が好き。人生の歯車がどこかで狂っていたら放火魔になっていたかもしれないわたしなど、そうなったら生きる術も目的もなくしてしまいそう。目茶苦茶な世界だもんね、そこまで理不尽がまかり通るなら、わたしも身体に稲ワラ巻きつけて、人間火炎ビンにでもなるとしますか。

そういや先日、朝日新聞の宇都宮支社から若い記者が益子GEFを取材に来ました。数時間にわたってメモを取り、畑の写真を撮って行ったのですが、栃木版に掲載された記事を見たらアホらしくなるほどお粗末で、こんなものに半日がかりの取材が必要だったのかと唖然。電話インタビューでももうちょっとマシな記事が書けるだろうに、と思うほどです。

朝日の記者といったらエリートでしょ。新米記者のお利口そうな顔を見ながら、大新聞に入社できた時点で、この若者の目的は達成されてしまったのではないか。ほどほどに仕事をしていれば身分は保証されるわけだから、記事のために命賭けになることもなければ、首を賭けて社風に逆らうなどということもないんだろうな。そんなことを考えていたのがいけなかったのかもしれませんが・・・。

マスコミがだらしなくなった、といわれます。小泉政権になってからは、とくにそれが目立つようになり、新聞もテレビ局も政府のいいなりで、権力を監視する機関ではなくなってしまいました。熱いものはぬるくされ、ほんとうにコワいものは覆い隠され、あたりさわりのないことばかり騒ぎ立てる。そんな中で焼き畑みたいな冤罪も成立してしまう・・・。益子GEFの記事など微細なことだけど、ああ、こんな風になんでもかんでも骨抜きにされていくんだな、と思ったしだい。やっぱり火炎ビンになるしかないんでしょうか。

今週の野菜とレシピ

今週は小松菜が残り少ないので、間引き大根と抱き合わせになりました。この時期の小松菜は大半が虫にやられてしまうので、好子さんは倍量、種を蒔いています。それでも8月に蒔いた分は追いつかなかったそうですが、来週には今月に入って蒔いた分が出てきます。それ以降は安定しそうなので、今しばらくお待ちください。

間引き大根はさっと湯がいて、胡麻和えかおひたし。細かく切って、ちりめんじゃこといっしょに油炒めにしてもおいしいですよ。この大根が数週間後には生育して、野菜セットに入ります。

シソの実は水に浸けてアクを抜いてから、よく水切りをして、とうがらしの小口切りといっしょに醤油漬けにします。田舎のキャヴィア。醤油はひたひたより少なめにして、シソを圧しつけるようにすると、ちょうどいい塩加減になります。漬けた翌日から食べられますが、どうせなら新米を待ちたいですね。

おかのりはフキの葉を小さくしたような葉ものですが、過熱すると海苔のような香りがします。おひたしにすると、茎にぬめりがありますが、ヌルヌルがダメという方はてんぷらで・・・。揚げることで海苔の香りが強くなりますから、かき揚げにしてさっと塩をふり、スナック感覚で食べてみませんか。おやつにも、ビールのつまみにもおすすめです。

今年の四国は度重なる台風にかき回されました。愛媛でも柑橘類はなんとかもちこたえることができましたが、水田は壊滅状態だとか・・・。すだちも例年より半月遅れで届けられました。豊漁のサンマの塩焼きにぜひどうぞ。