2004年5月第1週

世間さまはゴールデン・ウィーク。いいなあ・・・。こちらはざわついた日常に身を置いたまま、右往左往しています。こんなに気候がいいんだもの、ぶらーっとどこかへ出かけてみたいものですが、そんな時間があったらあったで、どっぷり畑の草むしりに埋没してしまうのかもしれません。

ふだんならスイスイ走れる道路も、益子の陶器市のおかげで大渋滞。農道に避難しますが、こちらはこちらで軽トラが並ぶ路上を、苗箱を持った人がせわしなく行き来しています。田植え銀座。先月の高温で苗の生育が早かったとみえて、田植えも例年より早いようです。今年は暑くなりますが、秋の到来も早そうなので、いつもはのんびりしている有機栽培の田圃でも、農家が動き出しました。タケノコが早かった分、夏の到来も秋風が立つのも早くなりそうです。

田圃に水が入ると、とたんに夜がにぎやかになってきます。カエルの大合唱。かれらのラブコールに誘われるように、ヘビも動きはじめます。山の斜面でうつらうつらひなたぼっこをしていたのが、平地に集まって来るんですね。山を下りるもの、そのまま山の中に残るもの、種類に関係なくふたつのタイプのヘビがいて、その差はいったいどこから来るのかわかりませんけど、着実に季節は移り、季節というのはヘビというヒモでずるずる引きずられているんじゃないか、と思うことがあるぐらい。

春になったからヘビが出てくるのではなく、かれらが吹き出し口を作るから地中の熱が漏れ出して春になる。山の中で蓄えられた微熱が集合。それがずるずると田圃に下りてくると気温が上がって、夏の終わりにかれらはまた、あたりの熱を引きずりながら山に帰ってゆくのです。それで山の木々が、かっと火がついたように赤くなる。そうして残っていた熱も地中に収められてしまうと、冬枯れがはじまるという寸法。あべこべかもしれませんが、これがけっこう気に入っておりまして、季節の移り変わりの担い手であるヘビの減少こそ、異常気象の原因ではないか、と勝手に憶測しているしだいです。

そして裏庭を棲み処にしている青大将が、年々大きくなりながら、たくましい運搬屋に成長してゆくのが楽しみで、今年も梅雨どきの脱皮に備えて、所定の位置に薪を積み変えます。かつて農耕文化圏では雨をつかさどる神聖な生きものだったのに、クリスチャンの侵攻とともに悪者にされていったという歴史があって、今なお文字どおり蛇蝎のごとく嫌われているのですが、それに加えてわたしたちが忘れたがっている意識の暗部、沼のような深層心理をかれらは体現しているのかもしれません。それを認めてしまったら、今の生活がガラガラと音を立てて崩れるみたいな・・・。

成り金が貧乏時代の話には触れたがらないようなもので、豪華な調度品に囲まれたベッドルームで寝ていても、ときおり四畳半の裸電球が夢に出てきてうなされる。隣にはしどけない寝姿の美女がいるのに、暗い沼の中から浮かびあがる古女房の乱れ髪。キャーッ!というのが、ヘビのような爬虫類だったりして・・・。どこか無理がある。虚飾やら欺瞞に加えて、見て見ぬふりをしていることがいっぱいあって、こんな生活を続けていたら破綻するのがわかっていても、今さらやめられない。それにみんなやってることだし、まあいいか。と、そこへ先住民が顔を出す。かれらはなにもいいませんが、こちらは後ろめたいことがいっぱいあるので石を投げ、ますます闇を深めてしまうんですね。教会が森を焼き払い、太古の神々を抹殺したように、世界各地で先住民が迫害され、森や資源が消えてゆきます。ごく一部の成り金がその恩恵に浴しながら、わるい夢に悩まされる。

しかし、どっちがほんとの悪夢なのかといったら・・・。

春は再会の季節でもありまして、青大将のみならず、ガマガエルも姿を見せるようになりました。山羊の柵の中にある水飲み場、古くなった浴槽を埋めこんだだけのものですが、そのあたりの茂みに古顔が1匹。これは昔、冬眠中のところを農作業中、うっかり鎌で切ってしまって慌てたことがありました。ツバで応急処置をして埋めもどしておいたのですが、夏、背中にこんもり傷痕のあるガマに再会できたときはうれしかった。でも、このガマはわたしの姿を見ると、こそこそ隠れてしまいます。出会いがよくなかったんですね。

それから、物置になっている廃屋の五右衛門風呂の焚き口を棲み処にしているのがいます。ガマというのはお風呂が好きなのかもしれません。こっちのほうが新参者ですが、不祥事がなかったせいか、わたしを見ても逃げません。体にさわられるのはあまり好きじゃないみたいだけど・・・。去年から同棲をはじめたので、こちらは2匹になりました。なんか家族が増えたような気分で、今年は子供たちにも会えるんじゃないかと、今から楽しみ。

ガマもヘビも、こちらはなにをするでもなく、ただ少しでも居心地がいいように配慮するだけ。カラスみたいにご飯のおねだりもしませんし・・・。ただ、そこにいてくれるのがうれしくて、ときおり成長ぶりを見せてくれればもっと満足。──わたしが昔、ヘビやカエルが苦手だったのは、相手をよく理解していなかったから。違和感が恐怖感になってたんでしょう。知ってみれば、どんなものでもいとおしくなる。大嫌いなあの人だって、会って話せばきっといい人なんでしょうね。

今週の野菜とレシピ

今週のメインは青山さんのフキ。これもなるべくその日のうちに湯がいてください。葉っぱを落として湯がいてから皮をむくと、アクで指が黒くなりません。濃いめの出しで煮ふくめてどうぞ。

葉っぱも傷のあるのは捨てますが、やわらかそうなところは佃煮にします。これもさっと湯がいてアクを抜き、食べやすいように包丁を入れてから酒と醤油で煮ます。煮汁がなくなったら鰹節をからめて保存。お茶漬けやお弁当の漬物代わりに・・・。間引き玉葱は上部の青いところもいっしょにきざんで、ハンバーグや炒めものに使いますが、おおざっぱに包丁を入れて炒め、味噌とミリンで調味するのがこのあたりでは一般的。それをたっぷりご飯にのせて、田植えで疲れた身体を癒すそうです。

サラダ用の京菜小松菜山東菜と今週は青ものもたっぷり。京菜は油でカリカリに炒めたちりめんじゃこをのせ、醤油をかけるとご飯がよく進みます。山東菜はさっと湯がいて芥子醤油で和えるか、一夜漬けで・・・。

パセリは一度に使いきれないようなら、きざんだものを冷凍しておくといつでも使えて便利です。また、匂いがどうも、という向きはてんぷらにすると意外なおいしさに驚かれるはず。てんぷらをするときは、かならず庭からパセリを採ってきて、たくさん揚げておきます。翌日、麺つゆか出しと醤油でさっと煮て、卵でとじてご飯にのせる。これがおいしいんです。パセリにかぎらず、かき揚げの残りものでも作れますから、お昼ご飯にぜひどうぞ。