2004年6月第1週

梅雨の晴れ間という感じが続いていますが、じつはこれからなんですね。今週に入って空模様があやしくなりそう。でも、まだ梅雨ではないのかな。

五月雨(さみだれ)という言葉がありますが、 もともとこれは梅雨のこと。新暦になって、五月に降る雨と梅雨が別ものになったようです。ま、野菜さえ順調に育ってくれたら、雨の呼称などどうでもいいんですけどね。

旧暦では麦秋至(ばくしゅういたる)-このあたりも晴れ間を利用して、あちこちで麦刈りのコンバインが動いていました。そして今週末が蟷螂生(とうろうしょうず)、ミニチュアサイズのカマキリが畑や庭先に出てくる時期です。子供ながらも葉っぱの陰に身を ひそめ、人に出会うといっちょまえにかわいい鎌を振りかざす。その愛らしさは昆虫界のプリンス。いや、プリンセスかもしれませんね。これに出会うと夏のはじまり。あの小さな鎌で、今年はどんな夏を呼びよせるんでしょうか。

卵の提供してくれている寺内さんのところで生まれた子馬。母親が死んでしまい、なかなか哺乳瓶になじめないようでしたが、だんだん元気になってきました。人の顔を見ると遊びたがり、ちょっと油断をしていると後ろ向きになって蹴ろうとする。子馬とはいえ、あれをまとも食らったらたまりませんから、やんちゃ坊主のお守りもたいへんになってきました。でも、これで寺内さんもひと安心。

鳥インフルエンザの脅威がなくなって、クジャクのつがいも戸外の古巣に帰ってきました。よかったねえ、と声をかけるとオスがバラバラッと尾羽を広げてデモンストレーション。おのが美しさを知りつくしているとみえ、拍手を贈ると左右に体を移動して、いろんな角度から見せてくれます。たしかにきれいですが、あんな重たいものをつけて、よく飛んだり跳ねたりできるなあ、といつも感心するのです。花魁(おいらん)が運動会に参加するみたいなもんでしょう。

 それだけのハンディーキャップと、敵の目につきやすい華美な衣装を身につけて、なおかつ生き延びることができたオスだけが繁殖に参加できる。これは見かけの華やかさとは裏腹に、かなり厳しい世界です。まあ、クジャクほどではありませんが、鶏だって オスはラメの入ったきれいな衣装。檻の中にいる鳥たちにそんな緊迫感はありませんが、美しさというのは常に死と隣り合わせ。死を孕んでいるからこそ、それが人の心を打つのかもしれません。

梅雨どきにはカラスも文字通り、カラスの濡れ羽色に輝きだします。巣でヒナが待ち受けていると見え、食欲も旺盛でフレンチトーストがよく売れます。家でも職場でも、朝一番にやることは卵とミルクにパンを浸して焼くことで、カラスもでき合いのものよりホームメイドが好きみたい。平和です。

若いころ、インドを旅してきた友人の話。民宿といっても物置小屋のようなところで、食事はじゃが芋しか入ってないカレーに、じゃが芋の皮の油炒め。そんな生活がしばらく続いて、ようやく街道のレストランらしきところへたどり着き、チキンカレーを注文。数週間ぶりにありつけた肉をスプーンで口に運ぶ前にしみじみ見ていたら、いきなり目の前が暗くなった。はっとわれに帰ったときにはスプーンの上の肉はなく、汁だけのカレーが残されていたそうな。泣きたい気分で、そのときほどカラスが憎いと思ったことはなかったそうです。よくわかります。

カルカッタの町中では人に混じって牛が行き交い、それが八百屋の店先をうろついては追われていたそうな。でね、その牛たちが主になにを食べていたかというとポスターだというんです。ポスターを貼る糊が小麦粉か米で作ってあるらしく、男たちが電柱に貼 る尻から牛がそれを食べてしまう。でも、だれもそれを気にしない。今でもインドというと、その光景が蘇るといいます。もう20年も前のことだけど、今のインドにあの寛容さが残っているだろうか、とも・・・。

金持ちになると、なぜか人はケチになるからねえ。インドもハイテク産業で金持ちが増えてるみたいだけど、地方へ行けば相変わらずかも。でも、あの牛はよかったな、人込みの中に牛がいると妙にホッとするからね。そうそう、人間しかいない町なんて逆に不 気味だもん。鶏しかいない養鶏場もいけません。その点、東京のカラスとか神戸のイノシシとか、いいよねえ、ああいうの。ああ、あれは救いです。新しい生態系。それをとやかくいうヤツは、馬に蹴られて死んじまえ、だよね。それ用の馬、わたし知ってます、まだ子馬ですけど・・・。

神代の昔から人と動物はせめぎ合い、食べものを取り合ってきたわけですが、その関係が対等であれば牛を追い、カラスを呪っても許される。人も牛もカラスも、ろくなものは食べていないのかもしれませんが、フェアな世界にいられていいなあ、と思ったしだ いです。

今週の野菜とレシピ

ご要望が多かったので、中里さんのハウストマトが再登場します。品種は桃太郎ですが、フルーツトマトのような甘みが人気。サラダでも丸かじりでも、お好きにしてください。

福田さんのきゅうりも顔を出しました。きゅうりには体のむくみを解消する働きがあるそうで、昔から梅雨どきにはよく食べられたとか。細いものはそのまま味噌かマヨネーズで、大きめのものはきゅうりもみでどうぞ。

スイスチャードは茎の色があざやかなので、サラダに使われます。色だけでなく味もさまざまで、茎の赤いものは甘く、黄色は酸味、白にはりんごに似た香りがあります。オカノリはフキのように葉っぱが丸く、それがほのかに海苔の香りに似ているところから名づけられました。茎の部分にぬめりがあります。さっと湯がいておひたしかワサビ醤油和えに・・・。山草みたいな野趣があるでしょう?

山ウド。葉先はてんぷら、茎の太い部分は皮をむいて酢のものか胡麻和えに・・・。残りの皮と茎と葉っぱは炒めてきんぴらにします。全部まとめてきんぴらでもかまいませんけどね。香りで梅雨の憂さを晴らしてください。