2004年3月第1週

寒のもどり。

先週のぽかぽか陽気は、やはり長続きしませんでした。冬にも意地というものがありますから、そう簡単に春になられても困るんでしょう。なかなかの頑固者。そして知恵者です。春の熟成は低温で、ゆっくりと・・・。事を急いで中途半端に仕上げると、春がすぐに初夏になって、腐りやすいことを知っているのです。まるで老練の杜氏みたい。農家の肥料作りも同様です。

しかし、今月5日はもう啓蟄。極寒のとき蟄居していた虫たちが土の中から出てきます。家の中でも家具や敷居のすきまで越冬していたカメムシが、夜になると羽音を立てるようになりました。薪のつぶやきもしだいに大きくなってきます。

そう、薪はつぶやくというか、ぷちぷちと泡のはじけるような音をいつも立てていて、夜がふけるにつれそれが大きくなるのです。犯人は薪の中にいるカミキリの幼虫たち。正確にはつぶやいているのでなく、薪を食べているんですね。ストーブのわきで寝ていた猫が突然起き上がるのは、それが羽化して動き出したとき。猫のおもちゃになりますが、ほとんどの幼虫はそうなる前にストーブの中に放り込まれてしまいます。

かわいそうな気もするのですが、外には乾燥中の薪が山とあり、その中で幼虫が育つとまた薪に卵を生み、それらがまたぷちぷちと内側を食べるのです。薪は微量とはいえ確実に痩せてゆきますが、かれらが食べた後はジグザグの溝になって、それが火のまわりをよくするみたい。ちゃんと役に立っているんですね。

その薪の山はもう少しすると、冬眠から覚めたヘビたちが暖をとる恰好の隠れ家になります。春はもうすぐ。そろそろ畑の準備、庭木の手入れ、雑草対策などなど、春の支度にかからねばなりません。やっぱり春はのんびり、ゆっくりがいいですね。

先月、福田さんのホウレン草畑を丸坊主にしたヒヨドリは、あいかわらず精力的で、今度は事務局から少し離れた畑に集合。ようやく芽吹いて、葉をつけはじめた絹サヤに狙いをつけているそうです。絹サヤは春先のだいじな商品。どこから来たのか知らないけど、そろそろ帰り支度をはじめたほうがいいんじゃない?

最近では午前中にパンが出てないと、ヒヨドリが事務所の中を覗きこむ。そうそういつもパンが用意してあるとはかぎらないので、アラレちゃんが買い物にでかけます。そうすると納得して彼女の帰りを待っていますが、それでも配給がなかったら窓ガラスに体当たり。実力行使に出るんです。すごいでしょ。

そういや昔、ヒッチコックの“鳥”という映画があったけど、あれ見た?見た見た、あれはカモメとカラスだったよね。カモメはよく知らないけど、カラスがあんな行動に出るなんて考えられない。でも、ヒヨドリならありうるかも。うん、あるある、このヒトたちなら簡単に暴徒化するかも・・・などといっていたのですが、知り合いの獣医師の話だと今、西日本ではペットの鳥が獣医のところに持ちこまれ、対処しきれなくなっているそうです。鳥インフルエンザが怖いから、ペットを処分するというんだそうです。

なんじゃ、そりゃあ?鳥インフルエンザが怖いから、ペットを屋外から遮断するというのならわかるけど、怖い、じゃあ捨てる、というんじゃあまりにも無責任。節操のかけらもありません。せめて自分の手で絞めるぐらいの気概がほしいものですが、当然そんな度胸もない。ヒッチコックの映画が現実のものになっても、少しも不思議ではないような状況です。

いや、それはすでに鳥インフルエンザという形で実現されているのかもしれません。しだいに北上してくる伝染病の恐怖。伝播の理由がさだかでないからといって、なんでもかんでも渡り鳥のせいにするのも考えもので、BSE同様、鳥インフルエンザもまた、家畜の自爆テロと捉えたほうが理にかなっているのではないでしょうか。自分たちがもはや生命体とも見なされず、紙切れ同然の貨幣以下の値打ちしかないとわかったとき、かれらは絶望したのです。そのうち渡り鳥だって、いいかげんにしてくれと怒りだしてほんとうに病原菌の運び屋になる。一見ぬくぬく暮らしているようだけど、飼い主の都合でどうとでもなるペットたちも、今に反旗をひるがえしかねません。

災難というけれど、その大部分はよく考えてみたら人災。ただ、なにかあったとき、寺内さんのように鶏を大事にしている農家まで巻き添えを食うのでは気の毒です。現に鳥インフルエンザのニュースが拡大するにつれ、卵を買いにくる人が減っているそうで、それもどうかと思います。ことあるごとに農家の姿勢やら責任が問われますが、消費者はいつも被害者に早変わり。食べものなんだから安心できるものを、というけれど、その安全性のために10円でも農産物が高くなるとそっぽを向く人たちです。そんな身勝手こそ、農業をここまで疲弊させた元凶だったかもしれませんよね。

今週の野菜とレシピ

里芋はこれが最後。まだまだ寒い日もあるでしょうから、煮っころがしや豚汁で、冬にしっかり別れを告げておきましょう。冬が充実していなければ、春になっても思う存分それをエンジョイできないような気がするんですけど、まあ、なんでもおいしく食べろっていうことなんでしょうね。

小松菜も今回あたりで越冬組は終わりになりそう。緑がぎゅっと濃縮されたような色合いはダテではありません。ミネラルもビタミンも濃縮されていますから、茎のほうまで無駄なくご利用ください。

小松菜と厚揚げ炒めもの:干し椎茸3~4枚をぬるま湯につけ、厚揚げ1枚はひと口大、小松菜は3センチ前後に切っておきます。生姜を親指の頭ほど、千切りにして油炒め、厚揚げ、小松菜と加えながら炒め、最後に千切りにした干し椎茸をもどし汁ごと入れて塩、胡椒、オイスターソース少々で調味。片栗粉でとろみをつけます。こうすると加熱時に小松菜から出るミネラル類も無駄なく食べられます。

レタスはサラダ用の野菜ですが、じつは炒めたほうが美味。簡単でボリュームもあるのが春雨を使った炒めもので、レタス1個に対して春雨は50グラム。豚バラ肉70~80グラムを用意してください。春雨はお湯でもどして包丁を入れておきます。レタスは適当にちぎり、豚肉は薄めにスライスしたものを大きめにカット。フライパンに油を熱して豚肉を炒め、火が通ったら醤油をまわしかけます。次いでレタスも加えて、しんなりしたらまた醤油。最後に春雨を加えて、今度は味を見ながら醤油を加え、お好みで一味とうがらしを振ってできあがり。とっても簡単、うちの息子が作れる唯一の料理がこれなんです。

先週、好評だった春大根。来週には生育して再登場します。そろそろあぶら菜も大きくなってくるでしょうね。