2004年10月第4週
西日本を中心に甚大な被害を出した台風23号。おかげさまで栃木県は今回も事なきを得ましたが、みなさんのところは大丈夫だったでしょうか。
どんな自然災害に遭遇しても、益子GEFの会員のお宅は被害を免れるという、ありがたいジンクスがあるのだそうです。当事者でさえ首をかしげたくなるようなジンクスですが、会員の方からそういわれると、なるほどそうかという気がしないでもない。そういえばこの20年近く、おびただしい台風が日本列島を通過しましたし、10年前には関西・淡路地震もありました。心配になって当地に電話を入れるのですが、いずれの場合もみなさんご無事。
これは野菜のなせる業?そう思いたくもなりますが、そんなことを思ったとたん、ありがたいジンクスもなにもかも消滅してしまいそう。そうではなく、これはみなさんの野菜に対する思いが作り出したもの。みなさんの意識が野菜に力を与えている、といったほうが適確かもしれません。
新潟で大きな地震がありました。数軒のご家族とはまだ連絡が取れませんが、ここでもそんなジンクスが生きていてほしいもの。とはいっても、会員の無事だけを祈るわけではありませんが・・・。
台風一過の青空はすがすがしいものです。地震の後も同様で、被災地でこれを見るのは逆につらいものだと思います。地上の惨状と対照的に澄みきった空。それがうつくしければうつくしいほど、残酷にすら感じられるもの。
昔、わたしはこれを勝手に「メルヴィルの空」と呼んでいました。メルヴィル作の「白鯨」の凄惨なラストシーンで、あまりにもうつくしい空が強調されていたからで、ひとり棺桶につかまって生き残ったイシュマエルがそれを眺めていたのでした。子供のころから「白鯨」が大好きで、長じてからもエイハブ船長さながらモウビ・ディクにとり憑かれていたもので、その光景が焼きついてしまったんでしょうね。
以来、この世から隔絶されたというか、神々しいような空に遭遇するたび、ああ「メルヴィルの空」だと思い、うっとりと見入りながら、逆に心の中では憎悪のようなものをたぎらせていたのでした。だって、地上ではどろどろと人の営みが血を流しているというのに、そ知らぬ顔であのうつくしさでしょう。当時、戦火に見舞われていたベトナムの、信じられないくらいうつくしい夕焼けの写真に出会って、さらにそれが強まったのでした。
益子の秋空もきれいなものです。夕刻ともなればしばしば「メルヴィルの空」が出現し、たぶんわたしはそれを恨みがましい目で見ていたのだと思います。が十数年前、やはり夕刻、仕事を終えてスーパーに向かっているとき、そういう空に出会ったのですが、そのとき突然「受容」という言葉がすっと降りてきたのでした。はらはらと涙を流しながら、空のあのうつくしさは非情ではなく、無関心でもなく、すべてをあるがままに受け入れるものだったんだ、と思ったのですね。いわれのない憎しみが感謝に変わった瞬間です。
野菜セットが誕生して五年ぐらい経ったころでしょうか。あれで人生が変わったような気がします。どうして今になってそんな話をするかというと、度重なる災害で家族を失ったり、家財を台無しにされた人たちにもそういう経験をしてもらいたかったから・・・。失意の中に光明を見出してほしかったからです。
わたしたちは天と地の間に立つもの。そのわたしたちが受容の精神を忘れてしまったから、こんなにも空が荒れ、大地が揺れるのかもしれません。
今週の野菜とレシピ
好子さんの大根が入りました。でも、まだ小ぶり。このあたりでは9月も後半にならないと大根の種が蒔けないので、毎年11月までお待たせすることになるのですが、今年は快挙。好子さんがダメもとで何度も種を蒔いてくれました。一度目の大根は発芽直後に大半がとろけ、二度目も虫にやられて肌がボツボツになりました。これは三度目の大根。三度目の正直とはよくいったものです。
オータムポエムもうれしいですね。これは秋採りのあぶら菜で、茎が太いことからアスパラ菜とも呼ばれています。さっと湯がいて、すり胡麻+醤油+マヨネーズで和えると美味。炒めものにも適しています。
京菜は葉先をサラダ。茎の部分はきざんで、納豆に混ぜてもいいですし、ネギとろ用のマグロを使ったカルパッチョが簡単なわりに美味。横長の皿にネギとろ用のマグロと、細かくきざんだ京菜の茎を並べて盛ってオリーブ油をかけるだけ。塩をふりながら京菜とマグロを混ぜ合わせていただきます。味つけは塩だけ。ここでは醤油はいけません。ガーリックトーストにのせて食べると絶品で、ワインや日本酒にもよく合います。
馬田さんの椎茸の生育が遅れているようなので、今週はしめじが入りました。しめじは石づきの部分を取り除き、ザルに広げて半日ぐらい日に当てて、表面がしわっとしてきたところで醤油に浸し、炊きたてのご飯に混ぜると香りがよく、うちではこれを貧乏人の松茸ご飯と呼んでいます。先週のすだちが残っていたら、それも絞って混ぜこむと香りがさらにアップ。しめじにかぎらず、キノコ類は半日も日にあてると栄養・香りともに倍増しますので、機会があったらお試しください。