2004年2月第4週

おだやかなポカポカ陽気に春の嵐。

紅梅、白梅が殺風景な山の中や庭先を飾りはじめたと思ったら、もう桜まで開花しそうな勢いで春だ、春だ。ホントかなあ、と懐疑的なのはわたしたちだけ?植物たちもこのバカ陽気を真に受けたものかどうか、戸惑いがちにそろりそろり、木の芽の錠を外しにかかっているようです。うっかり騙されてしまったら、せっかく花を咲かせても遅霜にやられてしまい、実を結ぶことができません。かといってあんまり用心深くても、ほかの樹木に遅れをとってしまいますから、ここは思案のしどころです。一世一代の大博打かもしれません。

風を読む。それを誤れば、すべての動植物が存続を危うくするのですから、みんな全神経を集中させて風を嗅ぎわけているのでしょう。でも、その風の情報自体がこのところきわめていいかげん。海中では潮の情報が撹乱されて、クジラが行き場を失ったり、ある種のクラゲが大量発生してみたり・・・。まるで別世界の出来事みたいに聞いているけど、じつは地上でもクラゲさながら、行き場のない生命体がそこらじゅう浮遊しているのかもしれません。そんなのがあっちをフワフワ、こっちをユラユラ、交通事故の原因になるのやら、人の五感を狂わすものやら、見えないだけに海中のクラゲよりタチがわるいけど、そういうのってあっちこっちにいそうじゃない?

そんなクラゲの餌になるのが人体から漏れだしてくる化学物質、欲求不満、怒りや嘆きや不信感・・・。そんなわけで、空気中の情報などアテにはならない。天気予報が当たらないのも、予報士がでたらめというのではなかったのですね。信じられるのは自分の五感だけ、ということになりそうですが、この陽気、ほんとにもう春なのか、そうでないのか。春の博打にはまだまだ波乱がありそうです。

しかし春風が吹けば、それが本物であろうとなかろうと動物界は恋の季節。事務局のおかかえガラス、親子3羽にそろそろ異変が見えはじめました。

子供の巣立ちはとっくの昔ですから、本来なら夫婦2羽というところなんですが、去年の子供が巣立つと同時に一昨年の子供が出戻りしました。わたしたちが“坊や”と呼んでいるその子は脚を傷めているんですね。電線にとまっても不安定だし、歩くのも不自由だからスキップするように跳ねるんだけど、それが意外にスピーディーでそのうえとても愛らしい。しかしどんな仕草が愛らしくても、仲間内に受け入れてもらえなければそれまでで、結局彼は親元に帰ってきたというわけです。

帰ってきた当初、両親ともに頭をふくらませて怒っていましたが、やがて根負けしたのか、自分たちにも責任があると思い直したのか、今年に入ってからは3羽そろってご出勤。仲良くご飯を食べるようになりました。ところが先日、それが4羽になったからさあ大変。坊やが彼女を連れてきたのです。

まず、オカアチャンが激怒:あんただけでも大変やのに、なんでわたしらがあんたの女まで面倒見なあかんのよ。それになんやの、あの女、図々しいというか気がきかんというか・・・。わたし、ぜったい2世帯同居はごめんですからね。ねえオトウチャン、あんたからもはっきりいうたってよ。

オトウチャン:(ボーッとしながら)若い女っちゅうのは、やっぱええもんやなあ。オカアチャンもええ女やけど、性格キツイからなあ。2世帯同居じゃ、嫁が大変なんやろけど、息子もあんな体やし、なんかええ方策はないのかいな。

問題の若い女:あんなキツイお義母さまとは、わたくし、いっしょには暮らせません、といったかどうか、翌日から姿をくらましていましたが、ときおり姿を見せているところを見ると、まだ坊やに未練がありそう。アラレちゃんは“財産”目当てだというのですが・・・。たしかに彼女が毎日調達してくる食料品、パンやメンチカツや鶏の唐揚げといったものは自然界ではなかなか入手できないものですから、若いカラスにとっては魅力的。坊やがここを離れがたいのも無理はなく、両親が死守しようとするのも当然。ここはいわば三つ星マークの、極上のテリトリーなんですね。

体が大きく、不精でおっとりしたオトウチャンと、働き者だけどなかなかきつそうなオカアチャン、それに体が不自由な分、頭がよく働く坊やのファミリー。そこへ親の大反対に合ってしまった恋人が加わって、この野外のホームドラマはどうなりますか。オトウチャンとオカアチャンも恋の季節に入ったらしく、最近いちゃいちゃしていることが多くなりましたから今後の展開が楽しみです。2世帯で子育てがはじまるといいですね。

今週の野菜とレシピ

急に春めいてきたせいか、予定より半月も早く春大根が登場しました。見るからにやわらかそうな春大根。これが出てくると薄めの短冊に切って、鰹節とポン酢で和風サラダ。もっと細かく千六本に切り、納豆をからめてもおいしいですよ。

白菜は好子さんが自家用に保存してあったものですが、先日スーパーへ行って白菜のあまりの高値にびっくり。使えそうなところだけでも出荷してもらうことになりました。ただ、数量が十分ではありませんので、足りないところは福田さんのレタスで補わせていただきます。レタスも予定では来週からの出荷でしたが、このところの陽気で生育が早まっているようです。

小松菜は霜にやられた外葉を取り除くので、こんな姿になっています。見かけはわるくなっても味は寒さに叩きこまれますから、これがほんとの寒修業。修業を終えた小松菜には、ハウス栽培には真似のできない滋味があります。炒めもの、スープや味噌汁の実など、ほんの少し加えるだけで彩りもよく、全体のバランスがよくなります。

一見ミツバのようなスープセロリ。これはセロリの香りがしますので、サラダや肉料理に添えたり、文字どおりスープに浮かべたり・・・。豆腐を少し大きめのサイコロに切って揚げ、あつあつのところにスープセロリを盛り、醤油と一味とうがらしで食べたら美味でした。豆腐を揚げるのがめんどうなら、油揚げをカリカリに焼いても・・・。もうすぐひな祭り。ひな祭りといえば五目寿司とはまぐりのお吸いものが定番ですが、それに五目サラダも加えてみてはどうでしょう。大根、ニンジン、さつま芋は5ミリ前後のサイコロにして湯がきます。アボカドとりんごもさいの目に切って、レモン汁をからめておきます。それを全部合わせてマヨネーズで和えるだけのサラダですが、色合いがひなあられによく似てきれい。ほんのりした甘さも子供たちに人気です。

今年はひさしぶりにお雛様を出しました。お雛様には厄よけの意味もあって、毎年、今年こそはと思いながら、ついつい不精。お人形の恨みをかっているようで、なんとなく押し入れから遠のいていましたが、飾ってみるとなんともいい気分。お雛様も喜びますが、わたしたちの中に眠っていた“女の子”が目をさまし、いっしょになって喜んでいるみたい。まだ出していない方、この週末あたりいかがですか?