2004年9月第1週

朝夕、ほんとに涼しくなりました。

稲穂が深々と頭をたれ、早くも黄金がかっています。今年はやはり、例年より稲刈りが早まりそうですね。それと同時に、このあたりからスズメがきれいさっぱりいなくなりました。ついこの間まで朝も昼も、毎日パンをねだりに来てたんですよ。それがなんの会釈も挨拶もなしに姿を消したと思ったら、わたしたちよりひと足早く新米をついばんでいるんです。──許せん!

ついこの間まで畑の虫を駆除していた鳥が、にわかに害鳥と呼ばれるようになる季節。夏の間中、せっせと働いてくれた手間賃と思うことにしましょうか。

律義といいますか、年間を通して挨拶を忘れないのがカラスですが、かれらも稲刈りが終わると、田圃に集合している姿が見られます。落ち穂拾い。人間がいつの間にかやらなくなってしまったことを、かれらが代行しているみたい。

アニエス・ヴァルダ監督の“落ち穂拾い”という映画を思い出します。ミレーが描いた落ち穂拾いの風景が、フランスでも見られなくなってしまった。でも、青物市場の残りものを拾っている若者やホームレスの姿を見て、彼女はこの映画を撮る気になったそうです。畑に放置された規格外のじゃが芋やニンジン、収穫を終えたワイン用のぶどう畑、梨やりんご園。そこに入ってくる人々・・・。

農園主にもいろいろあって、残りものを取りにくる人々を拒絶する者、容認する者。日本では畑に入ってくる者は、時節に関係なく泥棒になってしまいますが、そこに暗黙のルールがあって、それが守られているというのが印象的でした。残りものを、食べる分だけ持ち去る節度が妙に感動的だったりして・・・。なにしろ収穫前のものを根こそぎ、ごっそり持ち去るというのが昨今の風潮ですからね。

被害に合った農家には気の毒ですが、こういう仁義もなければ節度もない犯罪って、そういうものを生んでしまった土壌にも問題があると思うんです。まず、農家の側に自分の畑にはだれも入ってほしくない、という意識があります。隣近所に分けるにしたって、収穫は自分でやりたい。汗水たらして作った畑を、他人が無神経に歩きまわるのイヤなんです。その気持ち、家庭菜園を作ったことのある人ならわかりますよね。それが高じると、たとえ収穫が終わっていても、見知らぬ人はイヤだ、となります。

それに根強い不信感も・・・。農家にとって他人とは、平気で畑の中にゴミを捨てて行く人でもあるんです。道路わきの田圃や畑はほんとうに気の毒なくらい、空き缶や紙袋が散乱しているんですから。このドライバーのマナーのわるさが、農家の心を閉ざしている。でもね、よく見ていたらその農家だって、タバコの吸い殻なんか平気で小川に投げ捨てたりするんです。つまりドライバーが車や家の中はきれいにするけれど、環境にはおかまいなしというのと同じ図式。

 ゴミは巡り巡って畑に飛んで来る。人に取られるぐらいなら腐らせたほうがマシ、とばかりに抱えこんしまったものは元も子もなくなるわけで・・・。でも、わたしたちはそれを笑えない。なにかの折に人の畑で残りものを収穫する立場になっても、はたして食べる分だけで満足できるか、それもちょっと心もとないのです。突如、欲張り婆さんに変身しかねない怖いものが自分の中に潜んでいそうで・・・。

世の中には不条理な出来事が多いけど、えっ、なにそれ?と思っても、よくよく心を澄ましてみると自分の中にもそういうものの種がある。そういう種が、あたかも封印を解かれたみたいにあっちでもこっちでも発芽するようになったのは、これも食べものせい? 血液が酸性に傾いたり、体質の変化によって発芽しやすくなる種があるのかもしれません。それとも農薬のかかった野菜が奇病になるように、化学物質の過剰摂取が異様な花を育てていたりするのかあ。

米の収穫が目前に迫ってくると、益子GEFでも盗難などないとは思うけど、でも万が一・・・という一抹の不安が芽生えてきます。それがこんなことを考えさせるのかもしれませんが、今年の米はどうなのか。スズメたちがなかなか帰ってこないところを見ると、けっこういい出来みたいですね。

今週の野菜とレシピ

生落花生が入りました。これは塩茹でがおすすめ。塩加減はお吸いものより濃いめ、海水に近い濃度にして、茹であがったらそのまま冷まします。これはおやつ、またはビールのおつまみに・・・。

落花生をサヤから出して油炒め。砂糖と味噌をからめたのがピーナッツ味噌。これはご飯のおかずにもなります。

新しょうがを薄くスライスして、塩をふってしんなりさせ、甘酢に浸けると自家製のガリになりますが、甘酢が入るとそれがほんのり桜色に変化する。時間がたてばたつほどきれいなピンクになりますから、それを楽しむだけでも作り甲斐があるというもの。味のほうもお鮨屋さんで出されるガリよりずっと美味。やさしい味わいです。

夏の名残のつるむらさき。空芯菜といい、こういう夏の青ものにはミネラルが豊富に含まれていますから、夏バテの防止だけでなく、回復のためにも積極的に摂りたいものです。つるむらさきが苦手、という家人のために作って好評だったのが、エスニック風炒めもの。つるむらさきは丸ごと小口切りにしておきます。あれば青とうがらし1~2本も小口切り。とうがらしとニンニクひとかけをみじん切りにして胡麻油で炒め、サクラエビも加えてカリカリになったところへつるむらさきを入れ、火が通ったところで塩とオイスターソース少々、ナンプラー数滴で調味。これをご飯にかけますが、納豆に混ぜてもおいしいですよ。

空芯菜をおいしく食べるには、できるだけ短時間で調理すること。フライパンをガス台にのせたら強火にしてしばらく放置。油を入れたらすぐに泡立つぐらいの温度にしておきます。それからニンニクを入れ、空芯菜も入れ、数回かきまぜたところで火から降ろして塩、胡椒。それをすぐに食べたら、あ、うまい!となること請け合い。熱帯地方の野菜というのは、調理人もできるだけ暑い思いをしないですむようにできているのかもしれません。

8月30日正午現在、台風16号が九州沖を北上しています。大型で力の強い台風ですから、直撃が避けられても風雨の被害は広範囲に及びそうです。みなさんのお住まいになっている地方でも、当地でも、この大清掃が災害となることがありませんように。