菌の世界と人の世界

2005年1月第3週

本格的な寒さが到来。毎朝、戸外は霜で真っ白になり、日陰には霜柱が立ち、午後には風が強くなります。とはいっても、体感温度はそれほどでもないから不思議です。

たしかに今年は雪も多く、あちこちで路面が凍結していたりもするのですが、風が妙になまぬるい。身を切るような冷たさがないのです。例年ならこの時期、犬の散歩はもっぱら山の中。農道のように見晴らしのいいところを歩いていると、冷たい風で耳がちぎれそうになるからです。暖冬といわれている年でもそう。ところが今年は、そういうことがないんです。

寒さがほんとうでない証拠に、本来なら南のほうに移動しているはずのサギの姿を、今年はけっこう見かけます。去年は1羽だけ取り残された幼鳥がいて、大丈夫だろうかと気をもんだものですが、それが何羽も残っている。幼鳥だけでなく、成鳥の姿もありますから、苦労して渡りなどしなくても、十分に生きてゆける環境ができあがりつつあるのかもしれません。

見えないところで異変が起こっているようです。

突然、毒性を持つようになったスギヒラタケが話題になりましたが、それとおなじようなことがわたしの身辺でも起こっています。じつは今週、野菜セットに青山さんが岩手で採集、塩漬けしたキノコが入る予定でした。東北ではボリと呼ばれているもので、芋煮会には必要不可欠。ツルツル、コリコリとおいしいキノコです。

ファンも多かったのですが、先日、塩抜きする時間を確認するため袋を開けたところ、異様な臭気。半分ちかくが水の中でとろけてしまいました。つまり腐っていたのです。わたしは昨年、自家用に確保したものを後生大事に持っていて、あんまり大事にしすぎたせいか途中で失念。夏が近くなったころ、慌てて調理したのですが、なんの問題もありませんでした。それが今年は腐っているのです。

菌の世界に異変が起こりつつあるのかもしれません。などと簡単にいってしまっていいんだろうか、と躊躇するぐらい、これは恐ろしいことなんですが・・・。もしそうだとしたら、発酵食品だけの問題ではないからです。土壌菌が連動すれば野菜だって毒性を持ちかねない。常住菌と呼ばれる、わたしたちの身体をすっぽり包みこむ、本来ならわたしたちを守るはずの菌だって、ある日突然反旗をひるがえすことになるかもしれません。

ただの大腸菌がO-157という猛毒菌に変化したのは記憶に新しいところですが、なんでもない無害なものが突如牙をむくところがこの世界のこわさです。空中も土中も、わたしたちの体内外もいたるところ菌だらけ。いってみれば菌を呼吸しながら暮らしているようなものですから、事は深刻です。

人心が荒廃するのも、犯罪や事故が多発するのも、案外そんなところに原因があったのかもしれません。だって菌が凶暴化すれば、否応なしに動植物も影響を受けるわけですから・・・。

だからといって敵対視したり、雑菌に対して神経質になる必要はないと思います。菌に対して「テロとの闘い」をしかけても勝ち目はないでしょうし、過剰な防御は逆に反動を大きくしかねません。相手がなんであれ、こちらが生き残るには共生という手段しかありませんものね。

あくまでも個人的な見解ではありますが、そもそもO-157のような変態菌を誕生させたのは、現代生活に浸透した異常なまでの除菌・殺菌ではなかったでしょうか。まず薬物によって菌界のバランスが崩れます。つまり人体を保護する側の菌が無力化して、免疫力が低下。そこへ存在すら認められず、排斥されるばかりの菌が造反するわけです。小悪党でも武装すれば大悪党に変身します。

過剰防衛が敵を増やし、武力を行使すれば敵もまた強くならざるを得ないのは、人間界も自然界もおなじこと。そうして菌によるゲリラ戦がはじまるのですが、まちがってもそんなものを敵にまわしたくはないものです。だから除菌などぜったいしない。薬も飲まない。野菜が無農薬でがんばっているんだから、わたしたちもそれを見ならわなくては・・・。

キノコの一件はショックでしたが、これが益子GEF内の小事件で終わってくれれば良しとしなくてはならないのかもしれません。

今週の野菜とレシピ

かぶのような形をしたのが紅芯大根。厚めに皮をむいてスライスし、生食します。甘みが強いので、中国ではおやつにするそうです。

広げると大輪の花のようになるのがター菜。葉がやわらかく、炒めものに適しています。味噌汁やスープにしてもおいしいですよ。

ニラは湯がいてからでは包丁が入りにくくなるので、食べやすい長さにそろえてから茹でてください。水が沸騰したら、塩ひとつまみとニラを入れ、ふたたび煮立ったらすぐに火を止めます。おひたしでニラの甘みを味わってください。煎り胡麻と醤油、それに少量の胡麻油でナムル風にしてもイケますよ。

露地のにんじんはこれが最後。少量ですが、大事に使ってくださいね。さつま芋の高橋さんが畑を変えて、冬用のにんじんを作ってくれましたが、それもイノシシに見つかってしまったようです。さつま芋の被害も甚大だとか。そういえばわが家の裏手も、イノシシにキツネ、タヌキと山の住人が活発に動きまわっているようです。キツネ、タヌキはおしっこの臭いが強烈。イノシシは落ち葉の中のどんぐりを食べているらしく、地面に鼻をつけた跡が筋状に残っているのでそれとわかります。

山のキノコがお送りできなくなったのは残念このうえないのですが、これに懲りず、今年の秋も青山さんはキノコ採りに出かけてくれると思います。次の冬にご期待くださいね。