語られなかった津波被害

2005年1月第4週

ようやく寒さが本格的になってきたと思ったら、また低気圧の影響で空気がぬるみます。まるで春先の三寒四温。冬将軍の息もずいぶん短くなったもので、もう老齢なのかもしれません。

でも、この低気圧のおかげで適度な湿度があるせいか、インフルエンザの話は聞きません。恐れられていた鳥インフルエンザも回避されそうです。その一方で、地震被災地を襲う大雪・・・。あちら立てればこちら立たずで、人の営みの脆さ、危うさばかりが実感されるようになりました。

人の営みはアリの巣みたいに脆いけど、それをカバーしてきたのが助け合いです。アリも人も、自分たちの都合だけでとんでもないところに営巣しますが、アリの巣は壊されたらそれでおしまい。ひとつの社会が崩壊します。仲間も救いの手をさしのべないし、そこは危ないよ、と警告する者もないのです。

それゆえアリは下等動物、と思われるかもしれませんが、じつは人も似たり寄ったりだったんですね。スマトラ沖地震の被害者は日を追うごとに増えていって、ついに29万人を越えました。これは広島の原爆被災者をも凌駕する数字です。津波に対してあまりにも無防備だった、と先進国はしたり顔でいいますが、その完全無欠な人たちはかれらに対してなにをしたのか?

日本はお得意の津波予知で、いちはやく危険を察知していたにもかかわらず、どこにもそれを知らせてなかった。後になってテレビに出てきて、あれやこれやいう科学者たちの破廉恥さを、殺人罪で訴えなくてもいいんだろうか、といったら行き過ぎになるかしら。

アメリカもわかっていました。でも、アメリカ政府はちゃんと危険を知らせていたそうです。インド洋上のデイエゴ・ガルシア島にある米軍基地にだけですけど・・・。あとは知らん顔。各国への地震情報の冒頭には「これは津波警報ではない」と書かれていたそうです。

アメリカはその前から、津波予知の設備をインド洋に配置することを求められていましたが、それを無視し続けてきたという経緯があります。この地域が巨大地震の巣であり、津波警報システムの構築が急がれることは科学者たちの共通認識でしたから・・・。

そのツナミーターという簡単なブイを2個、インド洋に浮かべるための費用は50万ドルで、およそ5千万円。ちょっとした家一軒分の負担にすぎなかったんです。

そのうえ義捐金まで出ししぶっている。日本は一生懸命やってるみたいだけど、遅すぎるわい、と内心みんなが思っているわけでして・・・。この国の首相は予定通りお正月休みを取り、現地の大使館も休暇に入ろうとしてあわてて撤回しましたが、着の身着のまま帰国を急ぐ自国の被災者から、パスポート再発行の通常料金を徴収したといいますから、開いた口がふさがらない。

アリを下等と見なすなら、自分のことしか考えることができない人類もまた下等動物だったんです。

これはショックでしたけど、これだけいくつも放送局があってしのぎを削っているというのに、どこもそういうことには触れなかったのにも驚かされます。津波で両親をなくした子供がかわいそうというのなら、かれらの両親がなぜ死ななければならなかった

のか。なぜここまで被害が拡大したのか、その点にこそ触れなければならないはずなのに、日本にこの規模の津波が襲ってきたらどうなるか、そんなことしか話題にならない。

もっとお粗末なのが、朝日新聞とNHKの意地の張り合いで、同じ穴のムジナ同士のせめぎあいに耳をかたむけるほど、こっちはヒマではないんですね。ウザイ、という若者言葉の一語につきるのは、どっちもどっちで、スポンサーが企業かお国かというちがいだけ。だれもあんたたちのことなんか本気で信用してないよ、といいたくなるから。

ニュースキャスターがいくら神妙な顔をしてもダメ。だいたい、どの局も報道の内容がほとんど同じということ自体、異常でしょう。物事が一方向から見られていないということですから、これはまるで非常事態。わたしたちはアリの行動ばかりか、北朝鮮のニュースも嗤えなかったのです。

鎖に繋がれている犬を見ると、かわいそうだなあ、と思ってましたけど、よくよく考えたらわたしたちの自由などというものも、犬の鎖と同じ長さしかないのかもしれません。

通勤電車で行ったり来たり。週末だけちがった行動パターンを取るのだって犬の生活。好き勝手に海外旅行に出かけていても、「ハウス」のひと声で犬小屋に帰ってきますし、一見,拘束などなにもないように見えるホームレスだって、好き勝手にねぐらを選べるわけではないのです。

でも、寝ている犬は夢を見ます。クンクンと鼻を鳴らすので振り返ってみると、寝たまま尻尾を振っていたりしますものね。自由というのは鎖の有無ではなく、頭の中にあるのだ、と実感するのはそんなときです。そして、それはだれにも侵すことができないもの。すくなくとも個人レベルでは、わたしたちは自由なのです。

でもそれは、いとも簡単に他者の自由にすり替えられるものでもあります。アンテナを研ぎすましておかないと、知らぬ間に大きな力に呑みこまれてしまいかねません。肝心なことは表面にはあらわれず、だれにも語られない。これだけは肝に銘じておかないと、わたしたちは犬より不自由になりかねませんものね。

今週の野菜とレシピ

里芋はこれが最後になりそうです。里芋のソテー。コロッケより簡単にできるので、今週はこれがおすすめ。豚ロースの薄切りか肩ロースを用意。里芋は湯がいて、皮をむいておきます。まな板の上に豚肉を広げて、軽く塩、胡椒。そこへ里芋をのせてクルクル巻いたら、1センチ前後の厚さに押しつぶし,巻き終わりを下にして、油をひいたフライパンに並べて両面こんがりと焼きます。最後に醤油と味醂、お好みで唐辛子少々をふってからめたら完成。つけあわせにはター菜をさっと油炒めして・・・。冷めてもおいしいので、お弁当のおかずにもなります。

小松菜と椎茸の塩汁。味噌汁にすると、椎茸の香りと小松菜の甘みが半減しそうなので、うちでは塩だけで調味しているのですが、これがおいしい。どんな料理にも合いますから、一度やってみてください。