山の幸・文明の素

2005年6月第5週

先週は、梅雨の中休みというより真夏。皮肉なことに、本格的に梅雨入りしたとたん、雨が降らなくなってしまいました。

畑はからから、水を撒いてもすぐにからから、少しぐらい雨が降っても、ちょっと鍬を入れると地中はからから。地中にいられなくなったミミズが、苦しまぎれに地上に這い出し、それが天日で干されて折れ釘みたいになっています。

でも、山に入ると去年の落ち葉が湿り気を帯び、それに覆われた地面はしっとり水気をふくんでいます。今までの経験からいうと、庭や畑がからからでも、山の中に水分があるうちは植物もなんとか持ちこたえます。でも、落ち葉がからからになり、山道も乾ききってしまうと事態は深刻。

山は水桶だったのです。それを潰して、巨大な溜め池を作るだけがダムではなかったんですね。

当然のことながら、山道には傾斜があります。雨が降ると、落ち葉といっしょに腐葉土が流されて、くねくねと曲がった道のあちこちにそれが蓄積されるのです。わたしはそれを「文明の素」と名づけています。

ナイルでもユーフラテスでも黄河でも、大雨が洪水を起こすたびにそういう山の幸が河口付近に蓄積され、豊かな農地ができたんですね。それがカルチャー、すなわち農耕を生み、文明の礎となったわけです。しかし、前世紀あたりから文明は衰退期に入ってしまいました。なぜなら、洪水を避けるため、大きな河には護岸工事、曲がりくねった川はまっすぐにされ、肝心の山々も開発やら植林でやせ衰えてきたからです。それどころか、この国では山がゴミ捨て場になりつつある・・・。

わたしは犬といっしょに山に入るとき、飼料袋やらスーパーのポリ袋を持参してゴミ拾いをする一方、ちゃっかり山の幸も持ち帰ります。「文明の素」を集めてまわり、それを畑に入れるんですね。腐葉土は夏の間、作物の根元に敷きつめて草よけを兼ねた乾燥対策。秋になると肥料として土の中に入れ、冬野菜の種を蒔くという寸法で、農家のように堆肥を作る必要がありません。

ある意味、手抜き。それでいて、ささやかな文化を担っているという自負がありますから、ごっそり堆肥がたまっている場所などあると興奮します。そんなとき、手提げ袋の持ち合わせがなかったりしたら、くやしくてたまらない。かといって、拾い集めたゴミをぶちまけるわけにもゆきませんしね。明日はこの宝物を持ち帰ってやるぞー、と鼻息を荒くしながら帰ってくることになるのです。

そんなわけで、今朝もいっぱい「文明の素」を下げてきました。犬の散歩も、こう暑くなってくると山の中がいちばんですからね。天然のクーラーみたいな樹木の中で、朝一番、光合成でできたばかりの酸素を呼吸しながら、古代文明の担い手になるのですから、土の重みも気になりません。山羊のユーリのお土産もどっさり抱えてるんですけどね。

でも、山を下りてきて、木陰から出たとたん、ドワーッと熱気が押し寄せてきて、手荷物も急に重みを増すのです。毎日、ほんとに暑いですねえ。今週あたり、いいかげんに降り出してほしいものです。

今週の野菜とレシピ

今週はキャベツが入ります。春キャベツが虫にやられて、メニューに入ることができなかったので、今回は防虫ネットを張りめぐらせました。モンシロチョウの幼虫なら、外葉を食べても中まで入りこむことはないのですが、ヨトウガの幼虫、いわゆるヨトウムシは新参者のせいか、平気でルール違反をするんですね。今回も気をつけてはいますが、万が一、侵入者がいた場合には、よく叱りつけてから処分してください。

茄子ピーマンズッキーニと夏野菜も揃ってきました。ズッキーニを炒めるとき、これがあるとないとでは大ちがいという、香り高いニンニクも入ります。ニンニクと、できればアンチョビも低温のオリーブ油でじっくり炒め、スライスしたズッキーニを加えてください。バジルがあれば最高ですが、なければ春先に冷凍しておいたパセリを散らして・・・。それもなければ、ニンジンの葉をきざんで代用してくださいね。

来週は好子さんのトウモロコシが入ります。トマトも早く色づいてくれるといいですね。

お知らせ

先週のメニューにあったグリーンピース。さやが変色していたり、輸送中にカビが生じたりしていたようです。中の豆はきれいだったのですが、商品としては問題がありましたので、先週、ご迷惑をおかけした方には代品をお送りします。寺島一朗さん(山形)のおかひじき。さっと湯がいて、しゃりしゃりした涼しげな食感をお楽しみください。