春の風邪

2005年3月第2週

週末は寒のもどり。雨や雪で、花粉症の方はほっと息をついたかもしれません。このあたりも夕方から北風が強くなって、気温がぐっと下がりました。

気温の変化が激しい時期ですから、風邪にご用心。人間はコートを着たり脱いだりするだけなのに、それでも風邪をひくんです。そこへゆくと動植物はすごい。どんどん春じたくを進めながら、ちゃんとそれに対応しているのですから・・・。

冬毛を落とした犬も山羊も、風邪をひく気配はないし、ふくらみかけた木々の花芽が萎縮することもないのです。先端が桃色がかった木の芽など、見ていて気の毒なぐらいですが、こちらの心配をよそに凛とした風情。それどころか、蝋燭の灯のような小さなオーラさえ発しています。お天気がよくなると、そんな透明な炎が長く伸びて、クリスマスツリーの電飾などよりはるかにきれいでエネルギッシュ。

春を待つのではなく、みずから春になって、季節の進行を促しているかのようです。わたしもあやかるために散歩の道すがら、木の芽をつまんではほろ苦いエネルギーのかたまりを口にふくみます。そうすると、疲れなど吹き飛んでしまうから不思議。わたしの蝋燭にも火が灯り、ゆらゆらとかげろうが立つのかもしれません。ともあれ、春はもうすぐ。わたしたちの身体もバージョンアップしなくっちゃね。

しかし、野菜を発送する者としては、春先はもっとも頭の痛い季節になります。冬野菜がなくなって、春の野菜もまだ出て来ない、空白期になるからです。

山羊の食料も、じつはこの時期がいちばん乏しくなるんです。干し草はもう飽きてしまって食べないし、冬のはじめに集めておいたカシの枝葉も底をつく。柵の中もようやく青くなってきましたが、空腹を満たすほどではありません。山に入るたび、サカキやアオキを山ほど背負ってくるのですが、なにしろ山羊の身体は春モード。食べても食べても満たされないようです。白内障になる前なら、いっしょに山に入って好きなだけ食べることもできたのですが・・・。

まあ、食欲があるということは元気な証拠。若者みたいでいいのですが、柵の中にツクシが顔を出し、草が伸びてくるまでは運び屋の仕事が続きそうです。雨や雪の前なんか、それを何往復もしなくちゃならない。そのうえ生木はずっしり重いので、木の芽のパワーにもあやからなくてはならないわけです。

でも、これをやっているかぎり、わたしは健康でいられるのかもしれません。わたしが寝込んでしまったら、山羊の食糧も枯渇するわけで、そんなことを動物たちが許すわけがない。なにがなんでも元気でいろ、とエネルギーを送っているにちがいありません。

犬もそう。こちらは散歩がかかってますからね。考えようによっては、見えない糸で操られる木偶のようですが、この世に生きとし生けるものすべて、どんなにささいなことでも、なにかの役に立たないかぎり、もしかしたら生存を許されないのかもしれません。どんなに健康に気遣って、いろんな手段を講じていても、病気になるときはなりますものね。人もまた、自分のためだけには生きられないという自然の摂理に組み込まれているのかもしれない、ってちょっと大げさかもしれませんが、思ったしだいです。現にわたしの母など、寝たきりの父の世話をしているせいか、この10年、風邪をひくのを見たことがありません。ストレスはあるようですが、たぶん父親がいなくなったら、あの人はボロボロになるでしょう。子育て中のお母さんもあまり風邪をひかないし、ひいても寝込むことはない。まあ、寝ていられないという事情もあるんでしょうけど、その抜き差しならない状況そのものが生活の糧になっていて、ほっと息がつけるようになったとき、安心して風邪をひく。病気というのは、贅沢な休憩時間の一種だったのかもしれませんね。

今週の野菜とレシピ

端境期に入り、露地野菜が乏しくなってきたため、かんぴょうが入りました。軽く塩もみしてぬるま湯でもどすと、やわらかくなります。栃木県はかんぴょうの産地なので、ふだんの食事にもよくこれが出てきます。1センチ前後に切って味噌汁に入れ、とき卵をまわしいれた卵とじ。これは醤油ではなく味噌で仕立てたほうがおいしいみたい。

さらにかんぴょうと干し椎茸を甘辛く煮付けたものを卵でとじる。豚肉とかんぴょうを油炒めして、生姜醤油で味をつける、などなど・・・。春の行楽に利用する場合には、かんぴょうを冷蔵保存してくださいね。まったくの無添加なので、あたたかくなると虫がついたり、変色しやすくなるからです。

ニラは湯がくにせよ、炒めるにせよ、過熱は禁物。甘味と風味がなくなるからです。おいしいレバニラ炒めの作り方:まずレバーによく火を通し、塩、胡椒、オイスターソース少々で調味してからニラを加えます。箸を左右に動かしながら10数えたら、火を止めてあとは余熱を利用します。醤油少々で味を調整したらできあがり。レバーが苦手な方は、ほかのものでやってみてください。ニラのおいしさが引き立つはずです。

ニラは味噌汁とも相性がいいので、ほんの少し残しておいて、豆腐のおつゆの青みにしてもおいしいですよ。

サラダ菜はサラダ菜という名前がよくないのか、生で食べなくてはいけないように思われがちですが、そんなことはありません。ものすごく簡単な炒めものを紹介します。サラダ菜1株に対して、豚バラ肉:70~80グラム、春雨を20~30グラム。春雨はお湯でもどして、食べやすいように包丁を入れておきます。豚肉も2~3センチに包丁を入れ、サラダ菜はちぎってください。

フライパンに油を熱して、まず豚肉を炒め、色が変わったら醤油差しから醤油をぐるりと1周。ついで春雨を入れ、よく炒めたら今度は醤油を2周させます。春雨は無味ですからね。最後にサラダ菜を加え、ひと混ぜしたら火を止めます。ここでも余熱を利用。ガス代を節約し、なおかつ野菜の持ち味を生かしてください。

パセリはみじん切りにして冷凍しておくと、スープの浮き実やパン粉に混ぜたり、好きなときに使えて便利です。茎もラップして保存しておいて、シチューなどにご利用ください。でもね、意外とおいしいのがパセリの天麩羅。春菊の天麩羅に勝るとも劣らぬ味と香りです。

来週は青山さんが岩手から帰ってきて、田圃の土手に生えているセリを採集してくれます。これを食べたら、身も心も春モード。楽しみにしてくださいね。