お彼岸

2005年3月第3週

早いもので、もう彼岸です。これからは、夜よりも昼のほうが長くなる。日暮れが遅くなると、なんか得をしているような気分で、なかなか家に入る気がしないものです。花壇や畑も、いつの間にか青草が顔を出していますから、それを見回っているだけでも活力が湧いてくるみたい。

暑さ寒さも彼岸まで、とはよくいったもので、ほんとうにあたたかくなりました。関東南部では、今週中にでも桜が咲くんじゃないかしら。こちらはコブシの蕾がふくらんで、今にもほころびそうな勢いです。いよいよ春も本番ですね。

冬眠中のカエルも、この時期になると地面すれすれのところまで出てきています。もちろんまだ眠っているのですが、啓蟄あたりを境に、すこしずつ地表に近づいてくるようです。わたしたちが重い冬布団から、肌がけを一枚、毛布を一枚と減らしながら、だんだん身軽になってゆくのと同じようなものでしょうか。

困るのは、あんまり地表に近すぎて、フキノトウを採っているときなど、カエルまでいっしょに出てきてしまうこと。慌てて地中にもどしますが、活発に動きまわるカエルは苦手でも、身動きひとつしないカエルというのは妙にかわいいところがあります。寝ぼけ顔がゆっくり観察できるので、親近感が湧いてくるのかな。カエルって、生理的にはともかくとして、外観はヒトにもっとも近い生き物ではないか、と思ったぐらいです。

とくに愛嬌たっぷりなのがガマで、寝顔を見ていると、背中のブツブツした突起までなにやら愛らしく見えてくる・・・。ガマは体が大きい分、虫もたくさん食べるからでしょうか、昔から庭や畑の主として大切にされてきましたが、そんな容貌もひと役かっていたのかもしれませんね。おとぎ話でも、王子様がわるい魔法使いの手にかかるとガマなどに変身させられていますから、無心に眠る顔のどこかにその片鱗が漂っているのかもしれません。

見かけによらず、ロマンテイックな生きものだったんです。しかもガマぐらいの大きさになると、ヘビに食われることもないし、猫にもやられない。そんなわけで、はじめは1匹だったのが去年は4匹まで確認できました。夏になると2組のつがいになって、それぞれが定位置におさまります。毎年、同じところにいるから同じカップルだと思うんですが、ガマっていったい何年ぐらい生きるんでしょうね。

春は再会の季節です。こちらが存在を忘れているような小さな草花でも、春になるとちゃんと芽を出すし、ツバメも忘れずやって来る。裏庭の青大将とヤマカガシ、どちらもやせっぽちだったのがずいぶん立派になりましたが、かれらも団子になってからまり合いながら、土手の斜面の奥深くから日だまりに向かって移動中。あたりまえのことなんですが、そのあたりまえがあたりまえに巡ってくるというのが、しみじみありがたく感じられます。

当然のように思っていたことが、じつはとても微妙なバランスの上になりたっているわけですから、今年も春が来たということは、かろうじて一本の綱を渡り終えることができたということ。そしてまた、新たな綱の上に踏み出すわけです。あたりまえなどと、気楽にかまえてはいられなくなりました。

災害や異常気象ばかりがあたりまえになっても困りますものね。福岡で震度6の大地震。あのあたりもこれまで地震とは無縁と思われていたところです。会員のSさんもMさんも、どうかご無事でありますように。

今週の野菜とレシピ

今週は田ゼリが入る予定でしたが、まだ小さいようなので、芋茎(ずいき)が入ります。これはヤツガシラの茎を干したもの。しゃりしゃりした食感と、ひなびた味わいが身上です。

ぬるま湯でもどし、食べやすいように包丁を入れてください。味噌汁に入れると、ふくらんで鍋からあふれそうになりますが、椀に盛るとおとなしく元どおりになって、ほのかな甘みがとてもおいしい。油炒めして、醤油と味醂で調味してもイケますよ。

あぶら菜。前回は寒さにちぢみあがっていましたが、ここへきてのびのびと手足を伸ばしはじめたようです。今回はおひたしにしてみましょうか。まず、あぶら菜を茹でるコツ。塩ひとつまみと、油も少々落として茹でます。お湯が沸いてきたら、あぶら菜を束ねて根元のほうを先に入れ、温度が上がってきたら手を離して全体を鍋に入れます。ふたたび沸騰してきたら、火からおろし、ほどよいやわらかさになるまで放置。よし、と思ったらお湯を切って、あぶら菜をまな板に広げ、うちわであおいで冷まします。あぶら菜にかぎらず、これがおいしいおひたしを作る秘訣です。

粗熱が取れたら、2~3センチに包丁を入れ、あとはどうでも。醤油をかけただけでもおいしいのですが、わが家ではそれを芥子醤油で和え、さらにマヨネーズ+すり胡麻+醤油少々のソースをかけて食べるのが春の定番。ちょっと手間だけど、やるだけの価値はありますよ。

マヨネーズといえば、きざみパセリと醤油少々を混ぜ、それを石づきを取り除いた椎茸の内側に詰めてオーブントースターで焼く。何度もやると飽きますが、たまには目先が変わります。あつあつがおいしいのですが、かじりつくと火傷をするので、ナイフを入れてから召しあがってくださいね。

やわらかい春葱は、3センチ前後に切って湯がき、ホワイトアスパラガスみたいな感覚で食べてみてはどうでしょう。アスパラガスより甘みがあっておいしいですよ。少し辛みを残したい向きは、早めに切り上げて・・・。甘みを強調する場合には沸騰後,火から下ろしてしばらく置きますが、いずれの場合も茹であがったらすぐにドレッシングをかけてください。冷める間に味がしみてゆくからです。わが家ではフレンチドレッシングに、きざみパセリと醤油少々を加え、残ったものはマリネとして後日、料理のつけあわせに利用しています。

来週はまちがいなく田ゼリが入ります。四国から新玉葱も入荷しますのでお楽しみに・・・。