月とウサギ

2005年9月第4週

ようやく秋めいてきました。

すると、とたんに蝉にかわって秋の虫の声。草むらからコオロギの羽音が立ちあがります。夕刻ともなれば、耳の中で共鳴が起こってワーンとなるぐらい、虫すだく音が響きわたり、よせばいいのに猫がそれを持ち帰ります。そのたびに家人から、おまえもたまにはコロコロ、リイリイと風流な声で鳴いてみろ、と叱られるのですが・・・。

中秋の名月も、今年は夜空が晴れてくれたので、怖いぐらいに迫力がありました。この世を映す銀鏡ですから、それがあまりに冴えていると、怖いのも無理からぬこと。こちらの深層心理を照らし出しているのかもしれませんね。

あれだけみごとに丸いものを見ていると、思い浮かぶのがπの話。とはいっても数学的なことではありません。昔、3,14で習っていた円周率をどれだけ長く暗唱できるか、友人たちと競うため、語呂合わせなどしていたことを思い出すのです。産医師異国に向かう産後厄なく産婦御社に虫さんざん闇に鳴く・・・。これを数字に置き換えるんです。√5を富士山麓で鸚鵡鳴く、とおぼえるのと同じことで、呪文などではないんですよ。でも、この妙なおどろおどろしさが満月同様、身体の奥深いところに染み入ってくるようで、数学のほうはさっぱりなのに、円周率には関心を持つようになったのでした。

そのπが、計算を簡単にするために、最近の小学校ではただの3になってしまったとか。だから子供がダメになってしまうんだよオ。しかし一方では、コンピューターを駆使し、この割り切れない数字の最長記録を競っている人たちがいて、それが更新されると新聞の第一面を飾ったりもしているわけです。極端な簡素化と、異常なまでの執着と・・・。

πが割り切れないのは、もしかしたら創造主のいたずらで、人間がいかに前頭葉を発達させても、所詮完璧な円などは描けない。要するに未完成なんだよ、ということなのかもしれません。それで納得。

でも、どこかにこれがスパッと割り切れる数学が存在するのではないか。もしも人類が別方向に進化していれば、そういうものに遭遇していたのではないか、という思いもあって、πの闇はなかなか明けそうもなく、その暗がりでコロコロ、リイリイと虫は鳴き続けます。

満月の夜にはねるのがウサギ。昔の人は、ウサギが月夜に浮かかれて踊っていると思っていたそうですが、じつは踊りなどではなく、オス同士の勢力争いだった、というのが最近になってわかってきました。だれがいちばん高くジャンプできるか。それによってオスの優劣が決まるそうです。

わが家のモモもだいぶ大きくなったので、満月の夜、はじめて外に出してみました。庭先をぐるりと一周して、すぐ室内に帰ってきましたが、未練があったのか、また出て行ってクローバーを食べ出しました。食べ終わって帰ってくるかと思ったら、今度はジャンプ。まさに月夜に跳ねるウサギでしたが、残念ながら真っ黒なので、白ウサギほど目立ちません。

そして、ふと思い出したのが上記のことで、女の子だとばかり思っていたのに、もしかしてオス?そういえば寺内さんも、オトナになるまでは雌雄の見分けがつきにくい、っていってたし・・・。オスだったら、桃太郎にでも改名するとしますか。

男の子にせよ、女の子にせよ、いたずら盛りの子ウサギは体が大きくなった分、活躍も派手になって、いろんなところに跳び乗っては鉢植えをひっくり返したり、花瓶を落としたり・・・。うかつなところに物を置けなくなってきましたが、カラスのキョロちゃんがいたころにくらべたら平和そのもの。ただ、カラスは夜になると静まりかえるのに対して、ウサギのほうは夜行性。昼間は物陰に潜んで寝ているらしく、ほとんど姿を見せませんが、日が暮れてくると活発になり、虫の声に混じって、ときおりガサゴソ、バタンと奇妙な音が聞こえてきます。

それに対して、うちのオス猫どもはいつ活動しているのか。朝、飯だ、飯だ、と人を起こしておきながら、飯を食ったらまた寝ているし、昼間もうとうと。夕刻、たまにモモの様子を見に来ても、果敢なウサギに蹴りを入れられ、すごすご退散したと思ったらまた寝床。おめえら、ちっとは働けよ。ウサギの株が上がって行くのに反比例して、かれらの株は下がり続けてもう底値。

無害であるという点だけが取り柄でした。メス猫がいるときだったら、とてもモモは放し飼いにはできなかったでしょうからね。野ウサギの子供をくわえて帰ってきたことがあるんですから・・・。怠惰も考えようによっては美徳だったのかもしれません。

今週の野菜とレシピ

ようやく背丈を伸ばしはじめた冬の野菜と、夏の名残が入り混じって、野菜セットも移ろいやすい気温の上下を反映しているよう。オクラが姿を消し、ピーマンもこれが最後になります。そして、ルッコラが出てくると初秋の気配。来週には小松菜も登場します。

胡麻の香りのするルッコラはサラダ向きです。これを2~3束ずつ、生ハムで巻いてもおいしいですし、お好みのチーズといっしょに食べるという手もあります。胡麻油でちりめんじゃこをカリカリになるまで炒め、ルッコラにのせて醤油でいただくという和風サラダはご飯のおかずにもなりますよ。

間引きニンジン。ついこの間まで爪楊枝みたいだったニンジンが、ここまで大きくなりました。ニンジンはそのままポリポリかじって、葉っぱは香草がわりにお使いください。きざんでスープに浮かべたり、ハンバーグに混ぜこんだり・・・。2センチ前後に切りそろえ、胡麻だれをかけてもおいしいですよ。すだちはこの時期、サンマの塩焼きにかけるのがいちばんでしょうか。今年はサンマが豊漁だとか。安価な上、例年より油がのっておいしいような気がします。

今週末は秋のお彼岸。これで全国的に秋風が立つようになるんでしょうか。掛け布団のあたたかさにほっとする時期でもあります。ゆっくり休んで夏の疲れを癒してくださいね。