カラスのキョロちゃん、巣立ちました

2005年7月第4週

梅雨が明けたというものの、こちらはなかなかパアーッと夏空、というわけにはゆきません。先週は曇天続き。週末には青空が顔を出しましたが、例年になく風が冷たく、人間には心地よい日が続いています。

今週はどうなりますか。過ごしやすい気候は助かりますが、田圃のことを考えると、うだるような陽気がもどってきたほうがいいのかもしれません。

ひさびさのカラス情報。みなさんからお電話をいただくたびに、用件が終わるとかならずといっていいぐらい、キョロちゃんはどうしてますか、と聞かれます。はい、キョロちゃんは元気です。体もひとまわり大きくなって、あいかわらずイタズラばかりしています・・・。そのキョロちゃんが先週、ついに巣立ちました。

怪我をして、路上をうろついているところを保護して、ちょうど2ヶ月。傷はすぐに癒え、飛べるようにもなっていましたが、親元から離れてしまったカラスの子を外界に放つのは容易なことではありません。テリトリーというものがありますからね。ヘタをすると殺すことにもなりかねません。

外界のヒナたちが親にべったりではなく、そろそろひとり遊びをはじめる頃が適期、と判断。ヒナに手がかからなくなると、オトナたちもすこしは鷹揚になっているかな、と思ったからです。そこで先週の日曜日、ついに意を決してキョロちゃんを外界から隔てていた窓を開け放ちました。

ところがキョロちゃん、いっこうに出て行こうとはしないのです。巣立つ瞬間を、どうしても見送っておきたかったので、部屋の隅に座りこんでいましたが、動き出す気配がありません。こちらの緊張感が伝わっているのかもしれませんから、寝転がって気長に待つことにしたのですが、そのうちにうつら、うつら・・・。

はっと目を覚まし、あたりを見回したら、もうキョロちゃんの姿はありませんでした。しーんと静まった、生きものの気配のない部屋って、ほんとに空虚なものです。ついさっきまで、ゴソゴソ、ガサガサ、ときにはゴトンという大きな音まで立てていたものがいなくなったのですから、これはゼロどころかマイナス。もう泣きたい気分で、しかたなしに掃除をはじめました。

キョロちゃんが動き回っていた室内の床といったら、足の踏み場もないぐらい散らかっていましたからね。あちこちの止まり木の下には糞と羽。そしていたるところにソファの中身、座布団の綿、どこで見つけたのか釘や画鋲類・・・。きわめつけがジグソーパズルで、これはわたしの好きなエッシャーの銅版画。しかも図柄がカラスとおぼしき鳥だったのですが、それを器用に額から外し、1000ピースを分解。部屋中にばらまいてありました。水浴び用の盥に浮かんでいたものもありますから、再生は不可能です。

あれやこれや拾い集めたら、ゴミ出し用のポリ袋がふたつ、満杯になりました。ついでにわたしの寝室も掃除しておくか、と足を踏み入れたとたん、バサバサバサッとキョロちゃんが飛び出してきて、なんだ、まだいたの。ちょっとがっかりしましたけど、うれしさのほうが大きかったことはいうまでもありません。

結局その日、キョロちゃんは外に出ず、翌日も室内にとどまったままでした。ここにいてくれるのはうれしいけど、少しは外に出て、慣れるようにしないとダメだよ。でも、内心ではほっとしていたのです。キョロちゃんがかなり用心深いことがわかったからです。自然界では、向こう見ずは命取りにもなりかねませんからね。

そして3日目の朝、キョロちゃんの朝ご飯を用意していると、急に外が騒がしくなってきました。カラスが集まっているのですが、いつものファミリーがご飯を食べにくるのは、6時前後。7時過ぎに騒々しくなることはありませんから、キョロちゃんが心配になりました。あわてて部屋にもどってみると、そこはもぬけの殻。今回は寝室にも隠れてなかったのです。

あの騒々しさは、キョロちゃんが社交界デビューした瞬間だったんですね。もしも排斥されていたら、負傷したキョロちゃんが残されていたはずですから、いっしょに飛び立つことができたのです。日が暮れても帰ってきませんでしたから、夜もいっしょに寝てるんでしょう。ありがとう、仲間に入れてくれて・・・というわけで、先週からカラスのご飯もグレードアップ。

それにしても寛容なファミリーです。じつはこのグループ、親戚関係らしい2~3家族が集まっているのですが、数年前、頭から布をかぶって、かれらの食事風景を子細に観察したことがありました。(もの好きでしょ)まず、1~2羽のカラスがやってきて屋根に止まりますが、食事には口をつけません。やがて全員が集合したところで、1羽が口をつけはじめたのですが、そのカラス、足が片方、足首からすっぽり抜け落ちていたのです。力の順でなく、弱者優先というわけで、びっくりするやら、感動するやら・・・。そういうグループだからこそ、軟禁状態にあったキョロちゃんを、すんなり受け入れてくれたのかもしれません。

縁もゆかりもないカラスの群に、意を決して飛びこんでいったキョロちゃんの勇気にも脱帽ですけどね。毎朝、カラスたちが屋根で食事をする間、キョロちゃんも室内に帰って来ているようで、みんなに置いて行かれないよう、大急ぎでご飯をつついた跡が残っています。あいかわらず、離乳食みたいなやわらかいものしか口にせず、気に入らないものは床にばらまいてしまうワガママ坊主だったんですが、そのうち見よう見まねでいろんなものが食べられるようになるでしょう。

この夏いっぱい、ヒナたちが本格的に巣立つまで、キョロちゃんは遅れていた勉強を取りもどさねばなりません。でも、あのグループがいっしょなら大丈夫。一人前のカラスにしてくれるでしょう。まずはひと安心といったところ。でも、キョロちゃんがドアをノックしてくれなくなったので、わたしはまた朝寝坊に逆もどりしてしまいました。目覚まし時計、キョロちゃんが壊して、そのままになってたんですね。

今週の野菜とレシピ

モロヘイア空芯菜と夏の葉ものが揃ってきました。来週はツルムラサキも登場しますが、いずれもクセがあって、好き嫌いが分かれます。大好きという人がいる反面、どうしてもダメ、という人がいるようです。そういう方は、お知らせくだされば別の野菜と交換しますので、遠慮なく申し出てくださいね。

空芯菜のほうは強火でさっと炒めると、しゃきしゃきした歯触りが楽しめます。ニンニク、豚肉などと相性がいいようです。それに対して、モロヘイアはスープにするか、さっと湯がいておひたしで・・・。沸騰したお湯にモロヘイアを入れ、ふたたび煮たってきそうになったら火を止めて、あとは余熱で調理。ぐらぐら煮ると、せっかくの風味も栄養分も半減するからです。食べやすいように包丁を入れて、鰹節と醤油でさっぱりと・・・。

トマトは生で食べることが多いのですが、スライスしたものをニンニクといっしょに両面、オリーブ油を敷いたフライパンで焼いても美味。塩、胡椒してトーストにのせ、バジルを添えると、へたなピザよりおいしいぐらいです。

インゲンは油と相性がいいので、てんぷら、または素揚げして醤油やドレッシングをまぶしても・・・。サクラエビやちりめんじゃこを油炒めして、素揚げしたインゲンといっしょに醤油で和えると、ご飯がよく進みますよ。