百年の誤読

2005年2月第3週

冷たい雨が雪に変わりそうな空模様。でも、これからはひと雨ごとに気温が上がり、春めいてくるんだそうです。お天気のいい日には、地肌がむきだしになった畑から湯気が立ちのぼり、それが霞のようにたなびきはじめます。

日差しも明るくなりました。いつの間にか梅がほころび、庭の隅ではスイセンが芽を出しています。山羊と犬の毛が抜けはじめ、またブラシかけが日課に加わりそう。息をひそめていた雑草が、いきなり繁茂しはじめて、畑を覆いつくしてしまう時期でもあります。

春の気配を感じると、なんとなく気ぜわしくなるもので、おちおち読書などしていられない気分なのですが、人に勧められて手にしてみた「百年の誤読」があんまり楽しかったので、みなさんにもお勧めしたくなりました。

ぴあ発行。岡野宏文と豊崎由美というふたりの本読みが、この百年間にベストセラーになった本を再評価する対談集。というとお堅いみたいだけど、読み出したら抱腹絶倒。けっこう分厚いのに、あっという間に読破して、ああ、もっとしゃべくってちょうだいよ、といいたくなる本です。

書評をなりわいとする両氏の脳裏に去来する思い。それは「ベストセラーの正体って、もしかして、ひょっとして、万が一・・・ヘナチョコ?」というもので、それならいっそ、この百年間のベストセラーなるものも一気にまとめて検証してみたらどうだろう、というのがこの本の成り立ちですから、まあ、読んでいて胸のすくこと、「へえ、そうだったの」と、「よくぞいってくださいました」の連続なんですね。わたしだけがへそ曲がりというわけでは、けっしてなかったんだ、と安堵できる本でもあります。これで百年分のベストセラーを読んだ気になるもよし、再読しようと思うもよし。

わたしも再読してみなくっちゃ、と思った作家が数人いたのですが、それよりなにより気になったのが前書きのこの部分。本の世界には、昭和35年に謎があるというのです。1960年のフォッサマグナ。このたった一年を境に、ほとんどスウィッチを切り替えるように、読書傾向が「だらしな派」に切り替わってしまった、というのですね。

ベストセラーがトンデモ本であるというのは、べつに大発見でもなんでもなく、みんなうすうす感づいていたことで、話題になってるんなら読まなくてもいいや、とわたしのように思う人も大勢いたにちがいありません。でも、このフォッサマグナ云々というところはびっくりで、ベストセラーなんかどうでもいいからこっちに主軸をおいてくれよ、といいたい気分になったほどです。

戦前・戦後という節目などでなく、フォッサマグナという環境変化に人が大きく影響されていた。これもみんな、うすうす感づいていたことではあるのでしょうが、こうまではっきり出ていたなんて、これはやっぱりショックでしょう。戦争や飢餓という悲惨な状況を経験すると、人の意識は大きく変わるけど、無意識までは変わらないのかもしれません。だから同じことが繰り返される。

でも、それが地球規模の変化となると、知らぬ間に根底からひっくりかえされてしまうのです。たぶん人の水面下、無意識部分が修正されるからでしょう。わたしたちの意識など、いってみれば無意識の奴隷みたいなものですから、いくら意志や願望が強くたって、そんなものは砂上の楼閣。基礎は、土台は大地が握っていたんです。

ね、ショックだったでしょ。でも、心地よい無力感に包まれたことも事実でして、つまーんない映画にかぎってヒットするのも、テレビドラマの白痴化も、そうか、あのフォッサマグナがいけなかったんだ、って諦めがつきますもん。そんな脱力感を残りの対談、ベストセラー評で笑い飛ばすというのも手ですから、機会がありましたらぜひどうぞ。

今週の野菜とレシピ

昭和35年を境に、野菜はどう変化したんでしょうね。もしかしたら、あのころから化学肥料が主流になって、野菜がどんどんまずくなってしまったのかもしれません。そうして人は野菜を離れて肉食中心に・・・。でも、その肉だって、ずいぶん質は落ちてるんでしょうけどね。

野菜のおいしさを再発見してください。山東菜は別名・しろ菜とも呼ばれ、クセのない味が受けて、レタスの代用にもされています。油揚げといっしょに味噌汁にしたり、白身魚を煮たときなど、最後に煮汁でさっと煮てつけあわせたり、出番の多い葉ものです。

かぶはまだ小ぶりなので、一夜漬けか、味噌汁やスープに入れて・・・。葉っぱもご利用くださいね。スライスしてそのまま塩をふっても美味。甘みがあります。

ニラもほんとうは甘い野菜です。ニラ玉を2種。半分は味噌汁に入れてかき玉に・・・。味噌汁でかき玉というと意外に思われるかもしれませんが、ニラは香りが強いので味噌仕立てのほうがマッチするんです。

もう1品は炒めもの。今が旬のサクラエビ、なければ豚肉でもいいのですが、強火でよく炒め、カリカリになったら火を弱くして塩、胡椒、オイスターソースで濃いめに調味。ニラを加えて、数えながら10回混ぜたら味を見て醤油をたらし、溶き卵を流し入れ

ます。ニラを炒めすぎないのと、卵を半熟に仕上げるのがコツ。サクラエビとニラの香り、エビのかりかりと卵のふわふわ。そのコントラストが絶品です。

春を先取りするかのように、あぶら菜が出てきました。ほのかな苦みが身体においしい。菜種油で炒めるとおいしいのは、両者が親子関係だからでしょうか。おひたしの要領で湯がいたものに芥子醤油をからめ、そこにマヨネーズ+煎り胡麻+醤油少々のソースをかけてもイケます。身も心も春モードに変換されますよ。