建築基準・人体のほうは大丈夫?

2005年12月第3週

本格的な冬の訪れ。それが例年よりいくらか早いので、よけいに寒さが身にしみるのかもしれません。

寒いけど、心はポカポカ。なぜかというと、寒波の訪れが早いほど、遠くカナダではハドソン湾が氷で閉ざされるのも早くなる。

そうすると、夏からほとんどなにも食べていなかった白クマが海に出て、アザラシにありつくことができるからです。近年、温暖化の影響でなかなか海に氷が張らず、人家の近くでゴミをあさる白クマが増えていたといいますからね。

また、本来雨など降るはずのないツンドラ地帯に時ならぬ雨が降ると、それが凍りついて、トナカイの移動が苦難に満ちたものになるそうです。雪の綿布団とはちがい、氷はカミソリのように足首を傷つけます。トナカイが移動した跡が血痕で赤く染まり、その道をオオカミが、同じように血を流しながらついて行くなんて、想像しただけで身も心も寒くなりますものね。

というわけで、この寒さ。人間以外の動物には福音だったかもしれません。

それにしても、人はなぜ、こうも寒さに弱いんでしょう。寒がりといわれている猫だって、わたしたちほどではありませんし、犬も山羊もウサギみたいな小さなものまで、摂氏0度までは快適温度といいますから、人類が体毛を落としてしまったツケは大きい。夏の間、虫を避けて室内にいた犬と山羊が、寒くなると戸外を好み、活動的になるのを見ていると、つるっ禿げの自分の体がうらめしくさえ感じられます。

そして発情期。山羊のような草食動物は短日発情といって、日が短くなってくると発情期を迎えますが、猫の喧嘩も盛んらしく、ときおりすさまじい声が聞こえてくるようになりました。恋猫といったら、俳句の冬の季語ですが、じつは犬もそうだったんです。

わが家のドンは拾ったときの推定年齢が7~8歳。今では10歳を越えていて、とてもおとなしい犬なのですが、毎年この季節になると人が変わった、いや、犬が変わったようになります。ふだんはリードなしで散歩ができますが、リードがないとどこへ行ってしまうかわからない。滅多と吠えないのに、ひと晩中遠吠えしていたと思ったら、室内から柵を越えて土間に降り、山羊の出入り口から逃亡したり・・・。

今回のお相手は、500メートルほど離れたお宅のラブラドール。ドンよりひとまわり大きいうえ、太っていて、それが飼い主の悩みの種でもあるのですが、夏のはじめに子供を産んで、ようやく全員もらい手がついたばかり。それがもう発情期を迎えたようなのです。散歩中に出会ったりすると、飼い主の女性を引き倒し、リードを持つ手を振り払ってこちらに突進してくるしまつ。オスとして、ドンもそれを受けとめないわけにはゆかないんでしょう。避妊手術をしたいんだけど、この体重でしょ。これ以上太らすわけにはゆかないし、かといってまた子供ができたら、それも困るし・・・。

ドンにそっくりの子犬が生まれたら、こちらも困りますものね。人の恋路を邪魔するヤツは、犬に食われて死んじまえ、なんて都々逸があったよなあ、などと思いながら、飼い主同士で引き離しているのですが、どうなりますか。ドンはもう一週間も、ご飯も食べなくなっています。

それをアラレちゃんに話したら、犬の恋ってすごいよねえ。人間、どんな燃えるような恋をしていても(したことはないそうですが)メシは食うし、夜は夜で寝る。こんな一途さってないよねえ。それはなぜか。繁殖という本能に突き動かされていないからではないか、という結論になりました。人間は恋が成就しても、いざ繁殖となると避妊具なんか使っていたりするんだもの。恋愛ごっこ、繁殖ごっこ。わたしたちの生活だって、もしかしたら「ごっこ」なのかもしれません。

装飾がどんどんエスカレートして、ついに中身が見えなくなってしまった生活。体毛をすべて落として、ファッションを追い求めているうちに、すっかり脆弱になってしまった身体。昨今、マスコミを賑わしている建築基準に満たない住宅など、そういう意味では象徴的なものだったのかもしれません。建築基準に満たない人体が多くなっているようですし、この国自体が累積赤字で、建築基準に満たなくなってしまっているのかもしれませんものね。

今週の野菜とレシピ

青山さんの山芋が入ります。肥料をまったく使わず、畑の土もかたいまま。できるだけ自然薯とおなじような環境で、時間をかけ、2年がかりで育てました。だから大きくはなれませんが、自然薯に近い粘りがあります。

ほうれん草と牡蠣のリゾット。牡蠣は塩水でよく洗って、小さく切り、ほうれん草もきざんでおきます。牡蠣は半分ぐらい、飾り用に残しておいて、最後に加えてもいいですが、細かくしたのが多いほどおいしくなります。玉葱はみじん切りにして、厚手の鍋でバター炒め。生米も加えて、油分をからませます。ひたひたより多めに水を入れ、煮たってきたら弱火にして牡蠣を入れます。

ちなみにリゾットやパエリアを作るとき、米は洗わないで使ったほうがおいしくなるみたい。わたしは米をザルに取り、よくふるってから使うようにしています。米がアルデンテになってきたら、塩、胡椒で調味。水が足りないようなら足して、ほうれん草も加えます。ほうれん草はすぐに火が通りますから、仕上げに生クリームをまわしかけて完成。とても身体があたたまります。

さっぱりしたのがお好みなら、牡蠣雑炊。これも生米から、細かくした牡蠣といっしょに煮て、仕上げにほうれん草をたっぷり加えてください。この場合米は洗ってくださいね。ほうれん草と牡蠣の組み合わせが絶品です。

からし菜に熱湯をかけ、辛みを引き出してからきざんで塩漬け。それをちりめんじゃこや煎り胡麻といっしょにご飯に混ぜると、ツーンと鼻にくる大人の味の菜飯になります。辛いのが苦手だったり、小さなお子さまのいるご家庭では、椎茸といっしょに豆乳スープというのはどうでしょう。小松菜でもター菜でも、青ものはみんな豆乳とよく合いますし、クリームスープよりさっぱりしていますので、お年寄りのいるご家庭でもどうぞ。

来週はいよいよ、今年最後の野菜セット。隔週でお送りしている方は、今回が最終便。次回は1月9日~14日になります。この1年もありがとうございました。どうかよいお正月をお迎えください。