すごい農婦の話

2005年10月第1週

ようやく過ごしやすくなったと思ったら、日没がずいぶん早くなってきました。夕刻、山羊にやる草を刈って、ついでに生け花用のコスモスやらミズヒキ草をひとかかえ。それから夕飯に使うネギを収穫する段になると、もうあたりは薄暗がりで、だんだん手元が見えなくなってきます。あわてて懐中電灯を持参して、ウサギ用のクローバーを摘まなくてはならないぐらい・・・。

日中の気温が上がっても、朝夕は肌寒く、わが家では先週から炬燵が復活。掛け布団も厚手になりました。そろそろストーブ用の薪の用意もしなくては、などと思うと、夕刻の気ぜわしさに冬支度のそれが加わって、まるで季節の移り変わりに追いかけられてでもいるかのよう・・・。これからは加速度的に日暮れが早くなり、風も冷たくなってきます。

でも、日が短いといいこともあるんです。農家の夕飯がしだいに早くなり、夏の間、夜明けから遅い日暮れまで、畑で汗を流した疲れをゆっくり癒すことができるからです。好子さんなんか家事もあるので、睡眠時間が4時間前後だったといいますからね。ほんとによくやるというか、バケモノみたいにパワフルだと思います。

この人はたぶん、冬支度などとも無縁なんじゃないでしょうか。だって、夏も冬もおなじ服装なんですから・・・。どんなに暑くても長袖のTシャツの上にエプロンをしているかわり、どんなに寒い日も、その上に薄いジャンバーをひっかけただけの恰好。20年近いつきあいになりますが、彼女がコートやセーターを着ている姿を見たことがありません。

犬や猫でも冬毛が生えてくるというのに、彼女は寒くなると体重が2~3キロ増えるだけ。脂肪の下着をつけているからいいんだ、と本人はいいますが、もっと驚異的なのは体温で、夏、彼女の肌に触れるとひんやりと気持ちよく、冬は火照るようにあたたかく、これまた気持ちがいいんです。これが四季を通じて服装が変わらない、彼女の秘訣だったのかもしれません。

余談になりますが、この人といっしょに寝たら快適だろうな、ご主人は幸せだろうな、といつも思っているのですが、その恩恵に浴しているのは猫だけで、ご主人は別の布団に寝かされているんだとか・・・。もったいない話です。

バケモノ農婦・好子伝説その2:農作業というのは手が荒れます。それで女性ばかりか男性も、通常は軍手を着用するのですが、彼女はそれもやりません。手袋などをして植物に触れたのでは、微妙な感覚がわからなくなるからです。草むしりをするときも素手。わたしなどがそれを真似ると、ときにかぶれて後がたいへんになるのですが、彼女はそういうこととも無縁。

早朝や夕刻の農作業は蚊に悩まされるので、農家でも虫除けスプレーを使うことがありますが、彼女はもちろんそれもやりません。野菜が無農薬でがんばっているのに、作り手がそんなものを使っていては、という理由でわたしも使ったことがありませんが、

彼女の場合、もともとそういうものが寄りつかないのです。蚊に食われるということがない。まちがって食われたとしても、水をかけたら痒みなど消えてしまう。

仕事も早いんです。おまけにその持久力たるや、大の男も舌を巻くほどですから、野菜作りは彼女の天職だったんだと思います。

バケモノ農婦・好子伝説その3:かなり昔のことになりますが、ふつうの主婦だった好子さんが野菜作りに挑戦し、試行錯誤のあげく、ようやくそれが出荷できるようになり、自他ともに一人前の農家と認められるようになったころの話です。

畑で鍬をふるっていたとき、突如暗雲がたちこめ、雷鳴がとどろきはじめましたが、そんなことで仕事で中断する彼女ではありません。予定をこなさないことには、気持ちがわるくて眠れないというタイプの人ですから、仕事を続行していたそうです。そのとき間近で大轟音。見上げると、閃光が頭の真上にあったといいます。他人事のように、死ぬな、と思った瞬間、閃光が急にカーブしたかと思うと、2~3メートル先で炸裂。事なきを得ましたが、ふつうの人なら腰をぬかすところです。

さすがの彼女も仕事を中断しましたが、これが仲間内で話題になりました。当時の益子GEFは素人集団みたいなものでしたから、雷が避けて通るようになったら一人前、というおかしな定説ができあがり、夕立が来そうになると、われもわれもと鍬や鎌を手に飛び出して行ったものでした。わたしもそのひとりでしたが、雷は寄りつきもしませんでしたね。もしかしたら雷を呼び寄せるるのが、一人前のなったという証だったのかもしれません。

ちなみに、わたしたちが仕事の予定を立てるとき、今日これこれのことをしてしまおう、という目標作りになるのですが、好子さんの場合はさにあらず。今日の仕事はここまで、と決めておかないと際限がなくなって、身体に負担がかかってしまうから、というんですね。それを聞いたとき、負けた、と思いました。これじゃ雷さまもびっくりするし、作物ばかりか虫さえも彼女のいうことをよく聞くはずです。

ニンジンの間引きをしなくては、と思っていたらコオロギが大発生して、こりゃ全滅かな、と諦めかけていたら、ちょうどいい間隔で食べていってくれたから間引きの必要がなくなった、などと笑いながら話せるのも彼女ならでは。今や、益子GEFの大黒柱みたいな存在です。

収穫を1週間遅らせるから、ここで生育ストップ、といったら野菜がぴたっと伸びるのを止めてくれる、なんてことができたら、それこそ天才だろうけどね、と好子。いえいえ、そのままでもあなたは十分天才だと思いますよ。

今週の野菜とレシピ

好子さんの里芋は火の通りが早く、すぐにやわらかくなるのが特徴。今週は天然キノコといっしょにお使いください。キノコは青山さんが岩手県で採集し、塩漬けにしたものです。ボリと呼ばれているもので、東北地方の芋煮には欠かせないもの。岩手では豚肉、山形では牛肉といっしょに里芋とボリを煮ますが、肉を使わず、昆布と鰹節の出しを使い、ニンジンやこんにゃくを加えても美味。

ボリは半日ぐらい水に浸け、塩抜きしてから使います。わが家では一日目を芋煮風、翌日、出しを足して豆腐を入れ、けんちん汁にして楽しんでいます。仕上がりにネギをたっぷり入れてくださいね。

京菜はサラダや一夜漬けが一般的ですが、菜飯にしてもおいしいですよ。京菜を熱湯にくぐらせてから使うと、口あたりがやさしくなります。きざんで濃いめに塩をふり、しんなりしたらよくしぼって、切り胡麻といっしょにご飯に混ぜるだけ。上記の芋煮やけんちん汁にとてもよく合いますよ。

秋が深まってくるにつれ、あたたかいものが恋しくなります。おでんなんかもいいのですが、主役の大根が出てきてくれないことにはねえ。順調に育てば今月後半にはOK、とのことですので、もうすこしお待ちくださいね。

お知らせ

今月から新米が登場しますが、去年の米も在庫があります。スタッフが買い上げるにはちょっと多すぎる量ですし、古米を寝かせておけるほど余裕のある会社でもありませんので、原価割れ価格で放出したいと思います。ご利用いただければさいわいです。

古米ではありますが、低温倉庫に保管しているものなので、劣化の心配はありません。玄米10kg:3800円白米10kg:4000円(税別)にてお分けしていますが、在庫がなくなりしだいうち切らせていただきますので、お早めにお求めください。