ムクドリ

2005年2月第4週

先週、春一番が吹き荒れました。

作物がなくなり、草もまだまばらな田圃や畑からは砂煙が舞い上がります。それが強風に流されてゆくさまは砂嵐さながらで、目も開けていられない。どこもかしこも、室内の意外なところまでまでザラつくのは困ったものだけど、田畑からは肥えた表土が失われてゆくわけです。

塵も積もれば山になるといいますからね。どんなにいい土でも、家の中ではただのゴミ。掃き捨てられるのですが、一軒あたりは微量でも、それが積もれば家庭菜園のひとつやふたつ、できるんじゃないかしら。毎年、春が来るたびにどこへともなく運び去られ、蜃気楼のように消えてゆく家庭菜園。そこにいろんな野菜や花を並べてみると、ちょっとせつない気分になります。春の土埃は植木鉢に入れてやるとしましょうか。

春とはいえ、風はまだ冷たく、インフルエンザも流行っているようです。秋風が吹きはじめるころ、夏バテが出てくるように、春の日差しにほっとしたころ、風邪をひいてしまうことが多いようです。まだまだ冬は続きますから、おたがいに油断は大敵。気をひきしめてゆきましょうね。

春を目前にするころが、じつはいちばん野菜が不足するとき。野鳥もこの時期になると、食欲が旺盛になってきます。入れ替わり立ち替わりやってきて,ばらまいたパンをきれいに啄んでゆきますから、けっこうたいへん。ただでさえ乏しいポケットマネーが底をついて、こちらの食い扶持まで削られそうな勢いです。

かれらの名前がわかりました。ギイギイ鳴くのでギイギイドリと呼んでいたのはヒヨドリ。食べ方が乱暴なボウボウドリがムクドリで、モズもどきのモックンがツグミ。モズとは似ても似つかないのですが、セキレイを浜千鳥などと呼んでたぐらいですから、なんでもありなんです。インターネットで調べまくって、今ではちょっとした野鳥愛好家気分。だれもが知っているような鳥の名前がわかっただけで、専門家みたいな気分になれるんですね。

でも、電線にとまっているのを見ると、ムクドリと識別できるのに、間近で見るとわからなかったというのが、ちょっと驚き。群としては認識できても、個体になると「あんた、だれ?」になってたんですね。ふつう、逆でしょう。近くにあれば判別できるものが、遠くになると見分けがつかない。これがノーマルだと思うんです。ところがムクドリというものを、わたしは十把ひとからげのかたまりとしてしか見てなかったんですね。スズメよりシルエットが大きいみたいから、たぶんムクドリ、ぐらいの感じです。

その感覚、われながらちょっと怖いと思いました。ムクドリをイラク人に置き換えてみると、その構図がわかりやすくなるでしょう。イラクにかぎらず、わたしたちがメデイアを通じて知っていることは、すべてこれだったんだ、と身をもって知らされたしだいです。知ってるつもりでなにも知らない。いや、なにも知らないくせに知ってる気になっていること。これほど愚かなことがあろうか、ってね。

ムクドリが春になったらどこへ行くか、たとえ知っていたとしても、それはあくまでも情報にすぎず、わたしたちがムクドリのことを知らないという事実はそのまま。見慣れているというだけで、スズメのことすらろくに知らないわけでして、本気になって知ろうとしたとき、かれらは絶滅危惧種になっているのかもしれません。春風の冷たさが見にしみるわけです。

気分転換に、カラスのファミリーにも触れておきます。

気になっていた脚のわるい坊やのことですが、今年のヒナが巣立った後、昔のように親鳥といっしょにご飯を食べに来ています。

坊やのねばり勝ち。親もようやくあきらめたようですね。

3年前の子供ですから、もう立派なオトナですが、脚が不自由なので若者集団にも入れず、親元に帰ってきては追い返されていました。去年は彼女同伴で姿を見せていたのですが、営巣には至らなかったらしく、今年はまたひとりぼっち。アラレちゃんが不憫がって、坊やのために食事を出すので、両親とかち合わないように来てたんですね。

それがめでたく親子同伴。今年のヒナが生まれるころには、また距離を置くようになるのかもしれませんが、今しばらくはほほえましい姿が見られそうです。

今週の野菜とレシピ

ター菜が入ります。これは本来もっと大きく、小ぶりの座布団ぐらいに広がっているのですが、だんだん周囲が枯れてきて、こんな形になりました。繰り返し霜にあたっていますから、みかけよりやわらかく、炒めもの、スープの青みなどで冬野菜の本領を味わってください。

今週のメインは舞茸。ほんの少量、お吸いものに加えるだけで、香りが濃厚。いい出しになります。てんぷらもおすすめで、これで天丼を作るときにはアナゴもエビも不要。舞茸の味と香りを堪能してください。

山東菜は湯がくと嵩が減ってしまいます。上質の油揚げを網で香ばしく焼いてから細切りにして、芥子醤油にからめます。湯がいた山東菜をそれで和えるのですが、芥子は多めがおいしいですよ。油揚げを豚しゃぶで代用してもけっこうです。

京菜はこれが最後です。豚バラ肉の薄切りといっしょにはりはり鍋。ちりめんじゃこをカリカリに油炒めしたものと合わせてサラダ。これを焼きそばに入れてもおいしいんですよ。スライスしたニンニクと豚肉を炒め、京菜、そばの順で加え、味つけは塩と一味とうがらし、オイスターソース少々。オトナ向きの焼きそばで、ビールにも合いそうです。

じゃが芋もこれが最終便。大事に使ってくださいね。