雪の便り、雨の恵み

2006年1月第2週

連日のように大雪の被害が報じられています。低温のため、屋根の雪が落ちてこない。その上から新しい雪が積もるので、例年になく雪が重くなる。先週末のように気温が上がったら上がったで、今度はそれが一気になだれ落ちてくる・・・。とまあ、危険このうえない話ばかり。

このあたりで雪が1メートルも積もったらどうなるか。農家が集まるとそんな話に花が咲くようになりました。1メートルといわず、50センチ積もっただけでも、このあたりのビニールハウスは持ちこたれることができないし、露地の野菜だって収穫できなくなってしまいます。鉄道も道路も機能しなくなり、屋根の雪を降ろすといっても、このあたりの家屋には雪囲いすらないのです。お手上げ状態。

都会でも事情は同じで、わたしたちの「快適な暮らし」の基盤のもろさ、「便利な暮らし」のあやうさといったら、みんながみんな、耐震も耐水も耐火もおぼつかないバラック住まいをしているようなもの。だいたい国家自体が耐震偽装マンションみたいなものかもしれないし・・・とまあ、そんなところに行き着いてしまうのですが、こんな大騒ぎをしていても、爪痕の残された現地の人以外、春になったらみんなきれいに忘れてしまうんでしょうね。

つくづく、人ってアリに似ているな、って思います。アリって、ところかまわず巣を作り、社会生活を営んでいるでしょう。周期的に耕運機が入るような畑でも、堂々と営巣し、大量の卵を産みつけている。百年周期で地震に見舞われるようなところでも、大都市が作られるのと同じ現象。それがどんどん発展してゆくところも似ています。ただ人とアリがちがうのは、アリはみずから災害の原因を作り出したりしないという点です。アリだけが守られるべき特別な生きものであるという認識もなく、ひたすら営巣し、それが破壊されても騒ぎもせず、文句もいわず、隣の畑に新天地を求めてゆくという点。ま、草むしりをしていて、吹まれることもありますけどね。

人が人だけを特別と思わず、アリと同等。生命体として、ありとあらゆる動植物に劣るものでも勝るものでもない、という認識の上に立っていれば、これだけの自然破壊は行われなかったちがいないし、ここまで天候を狂わせることもなかったんだろうな、と思うのですが、そういうわたし自身、ハエや蚊が家の中に入ってきたら、容赦なくパチンとやってますからね。人の業は雪より深いのかもしれません。

週末、こちらでは数カ月ぶりに雨が降りました。

からからに乾いた地面。それが毎朝、霜に押し上げられ、それがまた解けて、土はさらさらのパウダー状になり、すこしの風にも砂ぼこりを巻き上げていましたから、ありがたいお湿りでした。植物たちもほっとしているよう。挨だらけになって、白茶けていた月桂樹やクスの葉もつややかな色を取りもどし、山羊の好物のカシやアオキもきれいな緑になりました。

山に入ると、足もとに積もった枯れ葉がしっとり濡れて、ふだんなら歩くたびにがさごそ音を立てるのですが、それが消えてしまったせいか、そこにいることはわかっていても、なかなかお目にはかかれない動物たちに出会えました。野ウサギの走り去る姿や、キジのつがい。よせばいいのに、犬がそれを追いかけます。この調子だとイノシシにも遭遇してしまうかもしれませんが、そんな大物が出てきたら、うちの犬、追い払うどころか、わたしを残して一目散に逃げ帰ってしまうにちがいありません。

地面の枯れ葉が掃き寄せられたようになっているのは、イノシシがどんぐりを食べたところ。そういう場所がいくつもあって、家のすぐ裏手まで続いています。でも、今ごろのイノシシは子連れなので用心深く、なかなか人前には出てこないんですね。雨上がりで匂いが濃厚になるせいか、イノシシの体臭だけは残っているらしく、犬がしきりにあたりを嘆ぎまわっています。

そのくせ、キツネ、タヌキの尿の臭いは強烈すぎるのか、犬はあまり反応したがらないんですね。こちらがクラッとするような臭いにも知らんふり。あまりにも精密で敏感な臭覚であれに接すると、もしかしたら気絶してしまうのしれない、なんて思ったりして・・・。ともあれ、ひさびさに降った雨のおかげで、山も畑もよみがえり、生気を取りもどすことができ、雪国の人に申し訳ないと思いつつ、幸運に感謝しています。

今週の野菜とレシピ

寒い日が続いていますので、この冬二度目の鍋セット。あまりの寒さで畑の白菜が傷んできたため、これが最後になりそうです。白菜は新聞紙に包んで、暖房のないところに立てておくと長もちしますので、何回かに分けて使うことも可能です。というわけで、今週はあったかそうな鍋をいくつか。

ほうれん草と牡蛎の鍋

ほうれん草は3~4センチのざく切り。も適当に切って、お好みで表面に焼き色をつけておきます。牡蛎は塩洗いしたものを、酒煎りして下ごしらえ。酒少々を入れたフライパンで、牡蛎をふっくらさせますが、強火がポイント。火が弱いと、牡蛎から水分とうまみが出てしまい、まずく、みすぼらしくなってしまいます。鍋に水を張って昆布を入れ、酒煎りして残った酒も加えて火にかけ、沸騰したら昆布を取り出し、味噌と味醗で調味します。あとはテーブルで牡蛎と葱、ほうれん草を入れながら・・・。いずれも煮すぎないようにしてください。

白菜のチゲ

鍋に食べやすい大きさにした白菜を敷き、舞茸、豆腐、チャンジャもしくはイカの塩辛、その上から緑豆春雨をお湯でもどさず、そのまま4~5センチに挟で切ってのせ、さらに白菜キムチをのせ、醤油と酒をまわしかけて蓋をします。わたしは醤油のかわりに、冷蔵庫の片隅で眠っているニラ醤油の残りを使っていますが、魚醤でもOK。そのまま弱火にかけ、最後に春菊を加えて、蒸らしたらできあがり。野菜のうまみを吸った春雨がとてもおいしいんですよ。

しゃぶしゃぶや白菜の水炊きに豆乳をつかっても美味。お好みの鍋から湯気を立てて、寒さを乗り切ってくださいね。来週はひさびさに野沢さんのニラが入ります。