春の香り

2006年3月第3週

今週の野菜セット

あたたかくなりました。

山羊のユーリが、柵の中の南斜面でなにやら物色中。ときおり口を動かしているところをみると、もうツクシが出ているんです。まだほんのすこしですけどね。そのうち一面ツクシだらけになって、食べ放題になると山羊は見向きもしなくなる。飽きたのか、そのころには牧草ものびてきますから、そっちに興味をそそられるようになるのかわかりませんけどね。

そうしてはじめて、ツクシ取りが許されるようになり、わたしたちの口に入るようになります。フキノトウも顔を出し、地面に張りついていたタンポポも小さな蕾を持ち上げはじめました。その葉先や蕾に囓られた痕跡があるのは、たぶんウサギのモモ。山羊もウサギも、そして農家も忙しい季節になりました。

わたしのような日曜農家でさえ、そわそわと落ち着かなくなってきます。待ちに待った春の到来。でも、春になったらなったで、今度は季節に追い立てられるようになる。あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、ああ、冬の間にあそこを片づけておけばよかった、という具合です。

とりあえず、ミョウガ畑をきれいにしてヌカを撒き、敷きワラを運びこみます。アスパラガスの畑も同様。その一方で、ヨモギを摘んだり、フキノトウを探したり、収穫のほうも忙しくなってきます。

それから畑のあちこちに顔を出し、これから大きくなってゆくカモミールも移動させなくてはなりません。カモミール茶の好きな方、いらっしゃいましたら野菜セットといっしょに苗を送りますので、申し出てくださいね。当方では持てあましていますので、ご遠慮なく・・・。プランターでもよく育ちます。

でも、うまくしたもので、畑仕事が忙しくなってくると、それに合わせたように日も長くなってきます。家路につくころには真っ暗だった数ヶ月前には考えられなかったぐらい、夕刻が明るい。これはほんとうにありがたく、天の采配の妙とでもいうんでしょうか、思わずおてんとうさまに手を合わせたくなります。あ、沈むのもうすこし待って、などと無理もいいますけど・・・。

早いもので、来週はもう春分。冬至からすこしずつ育まれてきた日照が、ここで闇とつり合うようになり、冬の夜長とはもうお別れ。枕元に積み上げられた本の半分も読み終わっていないので、これはこれで心残りではあるのですが、これからは昼の世界。暗がりに明かりを灯し、暖をとりながらみずからの内側に釣り糸を垂れる生活から、戸外へ向けて心身を解放し、外界と一体となる生活へと移行します。

それを円滑にするためでもあるんでしょうね。昔からこの時期には、積極的に野山のものが食されてきました。都会にいても、ちょっと郊外まで足を延ばすと、ヨモギやタンポポが生えています。それから庭先にも出てきて、小さな白い花をつけるハコベ。これは小鳥の好物ですが、人間が食べてもおいしいものです。湯がいておひたしにすると、香りがまるでほうれん草。かき揚げもなかなかのものですから、姿を見かけたらぜひ摘んで、食してみてください。

今週の野菜とレシピ

先週、食べるのがかわいそうなぐらい小さかったあぶら菜も、今週はだいぶ背丈を伸ばしてきました。これはさっと湯がいて、芥子醤油に和えるのがわが家流。お好みで、マヨネーズを添えてください。

ただし、あぶら菜を湯がくのにはコツがあります。煮立った湯の中に塩と油を少々落としておくこと。あぶら菜というだけあって、油と相性がいいのです。油も菜種油がベストですが、なければサラダ油でもかまいません。あらかじめ包丁を入れておいたあぶら菜を入れ、沸騰したら火をとめて、やわらかくなったら湯を切ってまな板に並べます。そうやって冷ますとうまみが逃げないのです。ほんのりと苦くて甘い春のおひたし。もちろん、そのまま軽くしぼって、鰹節と醤油で食べても美味です。

チンゲン菜も小ぶりですが、上記の要領で湯がいて水を切り、あつあつのうちにバターをからめて塩、胡椒。香りづけに醤油を少々落とします。バターがダメという方は胡麻油をお使いください。中華料理のつけ合わせという印象の強い野菜ですが、こうやると小さな子供でも食べられますし、ご飯にもパンにもよく合います。

来週は田園地帯の春の香り、野生のセリが登場します。これで心身を春に合わせ、バージョンアップしてくださいね。