アリの社会

2006年6月第5週

今週の野菜セット

梅雨はなかなか明けそうにありませんが、それでもこのごろ、中休みが多くなったような気がします。思えば、春先からずっと梅雨のようなお天気続き。低気圧もいいかげん、息切れしてきたのかもしれません。

ちょっとでも晴れ間がのぞくと、庭先には忙しそうなアリの姿。畑でも、営業を開始しています。アリはアブラムシを運搬する以外、とくにこれといった害はないのですが、虫たちの活動の目安になります。つまりアリが目立つようになってくると、野菜につく虫も動きはじめているというわけです。

農作業中、たまにアリの巣を壊してしまうことがありますが、そんなとき、あの小さなアリたちが果敢にも立ち向かってきて、手足に噛みつきます。それがチクチク、ヒリヒリといつまでも痛痒い。それが人に嫌われるいちばんの原因かもしれませんが、それにしてもどうしてそんなところに営巣するのか。人手の入りにくい無難な場所はいくらでもありそうなものなのに、わざわざ玄関先や作物の根元などに巣を作る。それも毎年・・・。

呆れながらも憎めないのは、それが人の営みにどこかしら似ているところがあるからかもしれません。わたしたちだってよく考えてみたら、数十年、あるいは数百年に一度とはいえ、定期的に自然の手でかきまわされている場所に好んで集まり、営巣しているんですから・・・。活断層の真上に原発を作るなどという、アリもびっくりしそうなことまでやってのけるんですからね。

働き者であるという点でも似ています。犬や猫をはじめ、たいていの生きものが捕食という活動時間を除いたら、寝てるか遊んでいるか、というのとは大ちがい。貯蓄という手段を知ってしまった生きものは、必然的にワーカホリックになるのかもしれません。

でもね、わたしたちのみんながみんな、勤勉な働き手とはかぎらないように、アリの中にも怠け者がいるんだそうです。これは研究者の地道な調査の結果明らかになったことですが、100匹の働きアリのいるグループがあるとすると、意外にもいつも働いているアリは全体の2割、つまり20匹にすぎず、働いたり働かなかったりというのが6割、まったく働かない遊び人が20匹という構成になっているんだそうです。

アリが働き者に見えるのは、そういう群れだけが人目につきやすく、巣穴や草むらでごろごろしている連中はわからないからなんですね。けしからん、と怒るなかれ。この働き者2割、怠け者2割、中間6割という配分こそ、集団がもっとも正常に機能する構造だというのですから。

たとえば、大きな群れから働き者だけを抜き出して別グループを作ったとします。いってみればエリート集団ですが、たちまち働き者は2割に減ってしまい、2割は怠け者に、6割は中間派になって、凡庸な、しかし正常な配分に生まれ変わるんだとか。逆に怠け者だけでグループを作らせても、結果はおなじで、アクシデントでグループから働き者が失われても、すぐにだれかが生まれ変わって、この2:2:6という均衡が保たれるんだそうです。

もしもわたしたちのイメージ通り、アリのグループ全員が働き者だったらどうなるか。そうなると巣に集められる食糧が増えるので、一見いいことのようですが、食糧が必要以上に多くなると、余った分を消費する個体を増やさねばなりません。巣も拡張しなければならないし、当然テリトリーも広げなくてはならない。そうなると隣接するアリ集団と衝突するようなり、戦争勃発。血で血を洗う抗争が繰り広げられるというわけです。

地上のおよそありとあらゆるところに営巣しているアリのことですから、それぞれのグループが適正規模を維持してゆかないことには、平和共存できません。そのため、アリは繁殖を抑制する方法として、労働力を制限。同量の働き者と怠け者、それに中間層を置くというシステムを作り上げたんですね。

働き者と怠け者が半々でもよさそうなものなのに、両者を最小限におさえて、大多数の中間層を置いたところがミソなんです。もしもこれが半々だったら、相反する者同士の拮抗が生じてしまいます。そこでどっちつかずの中間派を最大勢力にして、ひとつひとつの巣穴の中でもちゃんと平和が維持できるようになっていたんですね。

自然の摂理のすばらしさ。おそらく人間界も、本来はそういう構造になっているんだと思います。ただ、政治家や企業のトップにいる人たち、それから教育現場にいる人など、いわゆるリーダー的立場にいる連中が少数派の働き者グループなので、中間層までがワーカホリックにされているというだけで・・・。

アリといえばもうひとつ、わたしの友人の話があります。彼女の家のまわりはアリが多く、床下にまで営巣されているようで、毎年悩まされていたそうです。そこであるとき一念発起。アリコロリという薬を家のまわりに撒いたんですね。これはアリの好む匂いや味がついているそうで、それを巣に持ち帰ると一網打尽。ひとつの社会を丸ごと消滅させてしまうという代物です。

ほんとうにそれを撒いたら、たちまちアリが群がって、競ってそれを巣に持ち帰りはじめました。しめしめと思いながら見ていましたが、ふと、アリはエサを巣に運ぶとき、つまみ食いなどしないんだろうか。みんなクソ真面目に運んでいるけど、わたしなら途中でひと休みして味見ぐらいするだろうな、と思ったそうです。

そうしてつぶさに観察してみると、いるわ、いるわ、ところどころエサを持ったままひっくりかえっているヤツが・・・。なんか妙にうれしくなって、それからじわーっと罪悪感。食い意地の張ったアリたちが、急に他人とは思えなくなってきたそうです。

以来、アリを毒殺しようなどという陰謀を企てることなく、共存共栄で行こうじゃないか、という路線に切り替えたといいますが、その彼女、今ではこんなことをいっています。アリって、どんな大群が家の中に入ってきても、時間がたてばいなくなるんだよね。おまけにきれいさっぱり、猫の食べこぼしから、夜食につまんだスナック菓子のかけらまで、みーんな持ってってくれるのよ。おかげで夏の間は掃除機いらず・・・。寝ている間に、手足をアリに刺されることもなくなったといいます。

今週の野菜とレシピ

新じゃがが入りました。三ヶ月ぶりのじゃが芋ですが、やっぱりこれのない生活は不便ですね。ニンジン、玉葱、じゃが芋はキッチンの三種の神器といえるかもしれません。

そのニンジンもひさしぶりに入りました。葉つきですが、間引きのようにやわらかくはありませんので、かき揚げか、スープ用のブーケガルニとしてご利用ください。

ズッキーニ茄子は今週も収穫量が安定しないため、どちらか一方ということで・・・。そのかわり、きゅうりは先週から5本ずつに増量しました。

ズッキーニも茄子も、輪切りにして素揚げ。あつあつのうちに、きざみニンニクをのせ、醤油をかけるとご飯にもパンにもよく合います。

取れたてのフレッシュなニンニクは、上記のように使うほか、スライスしたものをマグロやカツオの刺身にのせ、カルパッチョ風にしても美味。小ぶりのものは丸ごと素揚げにして、塩をつけながら食べると甘くておいしいですよ。