晩秋の光景

2006年11月第3週

今週の野菜セット

暖冬気味ですが、それでも雨が降ると冬の気配。気温が上がらず、濡れ落ち葉は寒々しく地面に張りつきます。雨が上がると木枯らし一番が吹き、それもきれいになくなりました。

寒さで動けなくなったヘビに遭遇するのがこんなとき。路上で見つけるとわきへ寄せてやりますが、いつまでも夜更かし(?)してるからこんなことになるんだよ。早く寝床に入ったら、というのですが、冬眠場所に向かっているところだったのかもしれません。

うちの青大将とヤマカガシは品行方正。不良ではありませんので、とっくに姿を消していますが、冬眠に入ったかどうかは不明。案外、薪の山の中に隠れているのかもしれませんからね。ヘビの正確な冬眠時期は謎に包まれたままですが、どのみち今月中にはぬくぬくした穴の中に入るんでしょう。

冬眠中のヘビは多種多様。いろんなヘビが寄り集まって団子になるといいますから、家の周辺のヘビたちもひとつの団子になっているはず。ふだんはテリトリーを厳格に守っているヘビたちが、冬眠中だけ家族になって身を寄せ合っている・・・。そんな姿を想像すると微笑ましく、こちらまであたたかい気分になってきます。

おやすみなさい、寡黙な平和主義者たち。春、あなたたちが目覚めたとき、この世界がなにひとつ変わっていませんように。

ついこの間まで、あたたかい日中にはカエルの声が聞こえましたが、それもぴたりと止み、畑にいたガマもトカゲもいつの間にか姿を消しました。ときおり窓ガラスにしがみついて、中に入れてくれ、といわんばかりなのが大小のカマキリで、小さいのがオス、大きいほうは産卵を終えたメス。どちらも尾羽打ち枯らし、疲れ果てて一夜の宿を求めているようです。

中に入れて食事をさせます。ひと夏、畑で働いてもらったのですから、ありあわせの動物蛋白質を与えると、むしゃぶりつく者、いや、休むだけでけっこうという者、いろいろですが、肉のかけらをおいしそうに食べていても、たいていこれが最後の晩餐。翌朝には本棚やテレビのわきで死んでいるのが見つかります。

カマキリといえば交尾後、メスがオスを食べ、産卵に備えるので有名ですが、中には逃げ果せるオスもいるようです。そしてこの時期、オスとメスが遭遇しても、もうメスはオスを食べようとはしません。どちらも戦い終えた戦士のように、思い思いの死に場所を探して落ち着く。どちらも夏、畑の中にいたときよりみすぼらしくなっていますが、輝きがなくなった分、ある種の気品に満ちています。

ひとかたまりの泡のような卵から百ちかい数の子供が生まれますが、その中で無事に大きくなれるのはほんの数匹。生存競争に勝ちぬいて、次世代に橋渡しをしたという達成感がかれらをそうさせるのでしょうか。尾羽打ち枯らしても凛として、わたしなどヘヘーッと這いつくばって拝みたくなるような風格があるんですね。

かれらの姿が消えてしまうと冬の到来。ひとり、またひとりと顔見知りが消えてゆく晩秋は、同時にいつか来る老年期を思わせるものでもあります。

でもね、老年期ってそんな侘びしいものなんでしょうか。物忘れがひどく、すでにその兆候が現れているにもかかわらず、わたしなど、それがまだまだ遠くの風景にしか見えない。だからそんな心許ない、うらさびしいものにしか見えないのかもしれませんが、じつは未曾有の冒険なのではないか。だれもがはじめて経験する、思いもかけない世界。それが老年期というものの実体なのかもしれません。

けっこう楽しみにしているところもあるのですが、けっこう裏切られている部分もあって、ふつう、わたしぐらいの年齢になると、いやでも早起きになるものですが、低血圧のおかげでパス。これは20代のころからあこがれていたことなので、ほんとうにがっかりしています。相変わらず目は覚めないし、相変わらず寝起きがわるい。

わたしは子供ころ、身体が弱く、大人になってからも体力がなかったので、人より加齢を感じることが少ないのかもしれませんが、この仕事をするようになって力がつき、さらに40代、畑を作るようになって持久力もついてきたので、年を経るにつれ、肉体というものは強靱になる。この調子でゆくと老年にさしかかるころには飛べるようにもなるかもしれない、などとけっこう本気で思ったりしたものですが、さすがにそれはなさそうで、持久力も低下しました。

これがどんどん低下してゆくと、20代、10代を経て子供時代にもどってしまう・・・。年を取るということは、どんどん幼少期にもどってゆくということなのかもしれない、と最近では感じています。この野菜セットを20年ちかく送り続けている方々も、わたしとおなじ感慨を味わっていらっしゃるかもしれません。でも、加齢のマイナスイメージにとらわれると、ほんとうにそうなってしまいかねませんから、あくまでも前向きに・・・。気楽に行きましょうね。

今週の野菜とレシピ

今週は白菜が入りますが、前回の早生とはちがい、丸々太った冬白菜。株が大きいので半分にカットしてもらいました。その分、日持ちがわるくなりますが、鍋もので残った分はスープにして・・・。白菜と肉団子を干し椎茸といっしょに煮て、そこに春雨もそのままハサミで切って入れます。塩、胡椒、オイスターソース少々で調味。片栗粉でとろみをつけ、仕上げに胡麻油をたらすと中華風スープのできあがり。肉団子を作るのが面倒なら、豚バラ肉に生姜醤油をからめ、さっと炒めてから加えてもけっこうです。

もっと手間を省きたければ、ザー菜と白菜のスープ。ザー菜も白菜も細かく切って、酒少々を加えた水で煮るだけ。ザー菜からいい出しが出ます。塩分もザー菜から出ますから、塩は最後に少し足すだけ。これも春雨を入れ、最後に胡麻油をたらしてください。

ほうれん草が登場。これが出てくると、冬だなあ、という感じがします。例年どおり日本ほうれん草ですが、今年はまだ霜が降りないので、まだ特有の甘みが出てきません。ま、今回は冬の香りを楽しむということで、おひたしや炒めもので・・・。

ルッコラはサラダ用ですが、どうもこれが苦手という向きはおひたしにしてはどうでしょう。胡麻の香りのするルッコラを、胡麻和えにしても美味。既成概念にとらわれず、いろいろ挑戦してみてください。

来週は青山さんの山芋と、福田さんのサニーレタスが入ります。