カラスの白髪

2006年10月第4週

今週の野菜セット

夕刻の風が冷たくなり、木の葉が色づきはじめました。風が吹くたびに、紅葉も半ばの葉がはらはらと落ち、乾いた音を立てながら地面を転がります。まちがいなく季節は進行し、冬に向かっているようです。

この時期の移り変わりは、春を待つ冬の終わりとは対照的に、まるでなにかに追いたてられているかのよう・・・。日没も日に日に早くなってゆきますしね。春野菜の種は蒔きどきを誤ると、発芽しても寒さにやられて生育できなくなってしまいますから、農家は暦とにらめっこでもするように、これから空豆やエンドウ豆、あぶら菜の種を蒔きます。

だからといって早すぎると、今度は徒長して霜にやられてしまいますから、頃合いを見つけるのがほんとうにむずかしい。昔はそれでも、年寄りのいうことを聞いていればまちがいがなかったのですが、最近の天候はおじいちゃん、おばあちゃんのデータベースと相容れなくなっていますからね。そんなわけで農家がいちばん体も気も使う、たいへんな時期かもしれんません。

紅葉とはいっしょにならないかもしれませんが、最近、うちの犬の鼻先が真っ白になってきました。白髪です。近所の老犬も、昔は黒かった体毛に年々白髪が加わって、今では灰色。黒猫も若いときは漆黒の体毛がつややですが、十年もたつとごま塩になってきます。

じつはこれ、犬猫と人間だけかと勝手に思いこんでいたんですね。山羊はもともと毛が白いので、加齢がほとんどわからなかったし・・・。それが鳥類にもあるというのが、最近判明したんです。白髪ならぬ白羽が増えてくる。スズメではわかりにくいけど、カラスはそれがよくわかります。

益子からこの事務局に引っ越してきたのは六年前。このあたりをテリトリーにしているカラスのつがいがいて、わたしたちは勝手にカンちゃん、ランちゃんと名づけていました。カンちゃんはハシブトかと思うほど大柄なオス。性格もおおざっぱで、無精なところがあります。そのかわりウインナソーセージを一度に四本もくわえるという、ほかのカラスには真似のできない特技があり、彼が四本のソーセージに四苦八苦している間に、奥さんのランちゃんは一本ずつ、何度も往復して巣に運び、ちょっと夫をバカにしたような顔。

このランちゃんに白羽がありました。上からは見えませんが、飛び立とうとして翼を広げたとき、内側に数本の白いスジ。はじめのうち、これはランちゃんだけの特性。突然変異の一種かと思い、ほかのカラスと見分けるのに役立っていたのですが、年々それが増えてくる。ついにカンちゃんにも白羽が見られるようになり、そうか白髪みたいなものだったのか、と気がついたしだいです。姉さん女房だったのかもしれませんね。

無精だけれども愛嬌のあるカンちゃんとは対照的に、ソツがなく、餌の食べ方も上品で、マダム・ノアールという別名まであったランちゃんが、夏の終わりには羽がボサボサになる。ほかのカラスはそれこそカラスの濡れ羽色をしているのに、この夫婦だけ毛羽だってみすぼらしいのです。はじめは皮膚病かと思い、そのうちカンちゃんが浮気して、どっかでわるい病気でももらってきたんじゃないか、などという失礼な憶測まで飛びかいましたが、どうやらこれも加齢のせいだったようです。

いくら身体が大きくても、年齢には勝てないのでしょう。カンちゃんのにらみが効かなくなったとみえ、ご飯のときも、よそから来た若いフアミリーに追い立てられることが多くなりました。例年なら、もうとっくに子供を連れて来て、いっしょに食事をするころなのですが、去年も今年も子供の姿はなし。卵が産めなくなったのか、産んでも育つだけの力がないのか。犬猫でも放っておけば死ぬまで子供を産み続けますが、母親が老齢になってくると、子供に抵抗力がなく、すぐに死んでしまいますからね。

あと何年、カンちゃんとランちゃんの姿が見られるのか。そう思うと、秋風が身にしみて、われになく無常に思いをはせたりするのですが、かれらがハシブトだったらねえ。都会に多いカラスなら、六年もつきあっていればもっと親交が深められるのでしょうが、ハシボソはとことん人になつかない。わたしが育てた子供でさえ、大きくなるにつれ人を拒否するようになり、飛び立ってしまいました。

人に媚びない野生は厳しい反面、毅然としてうつくしい。わたしたちはそれに一喜一憂しながら見守ってゆくしかないんでしょうね。

今週の野菜とレシピ

今週は青山さんが岩手県の山中で採集、塩漬けしたボリというキノコが入ります。これは東北では、芋煮に欠かせないキノコとして珍重されているそうです。ひと晩水に浸けて、塩抜きしてからお使いください。発酵臭があっても、調理中に消えてしまいますから、安心してお使いください。

大根はまだ小ぶりですが、このキノコのために無理をいって出荷してもらいました。こんにゃくをから煎りし、油を加えてから銀杏切りにしたにんじん、大根を炒め、水または出しを加えて、里芋とキノコを煮ます。出しにはそんなに気を使わなくても、キノコからいい出しが出るので大丈夫。お好みで豆腐を入れ、仕上がりにネギを加えて・・・。ツルツル、コリコリした食感をお楽しみください。

白菜も登場しました。鍋ものがおいしい季節ですが、この白菜、甘みがあるので煮びたしにしてもおいしいですよ。加熱するとすぐにやわらかくなるので、煮すぎないように・・・。この火の通りが早いというのも、有機野菜の特徴のひとつです。

来週はいよいよ北海道からじゃが芋が届きます。大根も、今週よりひとまわり大きくなっているでしょうね。