おかしなおかしな農業保護
2006年11月第5週

先週末、初霜が降りました。瓶の水には薄氷が張って、ようやく初冬の兆しが見えてきたところ。寒い朝はつらいのですが、ほっと胸をなでおろしています。
これで冬野菜が冬野菜らしくなる。霜にあたったり解けたりを繰り返すことによって、青ものがやわらかくなり、甘みを増すからです。見栄えは少々わるくても、やっぱりおいしい野菜を食べたいし、お届けしたいですからね。
一方で、やりきれないニュースも入ってきます。高温が続いていたため、白菜や大根が過剰気味。そこで値崩れを防ぐために、手間暇かけた畑に耕耘機を入れ、かきまわしている映像です。
漬け物業者はそれがほしい。動物園でも、捨てるぐらいなら飼料にして、経費を節減したい。漬け物屋はともかく、赤字続きの動物園など、喉から手が出るほどほしいはずです。でも、そういうことをする農家はあまりいません。なぜか?たとえ二束三文でも収入になったほうがいいはずなのに、なかなかそうはならないのです。
これにはじつは裏があって、こんなときには1アールあたり、つまり300坪の畑につき10万円の補助金が、農林水産庁から支給されることになっているんです。値崩れするぐらいなら、補助金をもらったほうが農家としてはいいわけです。だからこんな、一見理不尽なことが起こるわけ。
名前は忘れましたが、鹿児島の離島に毎年キャベツを作って、耕耘機で潰しているところがあります。ここは東京都でキャベツが不足したとき、出荷するために指定されたところで、出荷は10年に1回ぐらい。それでも補助金が出るので、生計が成り立つというシステムです。
お上はこんなにも国民のことを考えていてくれているのか。こうやって農家を保護してるんだな、と思うと感動的でしょ。でもね、過酷な減反政策で農業を疲弊させいるのもお上なのです。キャベツの心配などしてくれなくていいから、肝心の米のほうをなんとかしてくれよ、というのが農家の本音。国民のことを考えてはいるのだけど、食糧自給率の異常な低さは見て見ぬふり。産業重視で、目先の景気ばかりが気になるようです。
上記の農業保護にも、またその裏があって、補助金が支給されるのは指定産地のみ。お隣の茨城県は白菜の産地に指定されているので、畑を潰せばお金が出ますが、栃木県でそれをやってもダメなんです。また、栃木県でどんなにいい白菜を作ったところで、指定産地ではないので価格は二束三文。
逆に栃木県の農家がニラを作れば、正当な評価を受けられますが、茨城県の人が作ってもお金にはなりません。これも変な話でしょう。
この産地指定制度は、農地をどんどんダメにしてゆくシステムでもあります。たとえばひとつの畑でキャベツならキャベツ、大根なら大根ばかり作り続けることになりますから、どうしても連作障害が出てきます。それでもほかの作物では生計が立てられないとなると、薬剤に頼るほかはなく、土壌消毒、農薬散布と年々経費がかさむようになるのです。消費者はもちろん、農家の健康も危ぶまれるようになるというおまけつき。
それでも地方では、ひとりでも多く中央に代議士を送りこんで、産地指定を取りつけようと躍起になっているんですね。目先のお金も、そりゃたしかに大事でしょうが、そんな近視眼的な政策で、地方はほんとうに豊かになれるんでしょうか。この国もそう。美しい国というのがどんな国だか知りませんが、なんか心許なく、寒々しい感じすら漂うのは、地に足がついていないから。というより、肝心の大地がなかなか豊かになれないからかもしれませんね。
今週の野菜とレシピ
大根が立派になってきました。煮物に最適ですが、少人数のご家庭では大根ステーキに・・・。フライパンに胡麻油を敷き、輪切りにした大根を並べ、両面こんがり焼きます。そこへ水と酒少々、醤油、コクを出すためにオイスターソースも少し加え、蓋をして蒸らします。箸がすっと通るようになればOK。仕上げに七味とうがらしをふって、あつあつをいただきますが、これなら残りが出る心配がありません。
ほうれん草は牡蠣と相性がいいので、いっしょにグラタンというのはどうでしょう。ほうれん草は3センチ前後に切り、油炒めしてすこし濃いめに塩、胡椒。それを耐熱容器に敷き、上に牡蠣を並べたら生クリームをまわしかけ、チーズをふってオーブンに・・・。簡単な上、ベシャメルソースよりさっぱりした仕上がりになるので、おすすめ。若者向きにボリュームをつけたいときは、塩茹でしたじゃが芋をスライスし、ほうれん草の下に敷いてください。
それに京菜と椎茸のスープ、サニーレタスのサラダがつけば冬のデイナーのできあがり。サニーレタスは歯ごたえがないので、じゃが芋をマッチ棒サイズに切って二度揚げしたものをたっぷりのせて補います。じゃが芋を揚げるのが面倒な方は、市販のポテトチップスを利用してもけっこう。お好みのドレッシングでどうぞ。
寒くなってくると、青菜だけでなく椎茸もおいしくなります。生育に時間がかかる分、味も香りも濃厚になるんですね。馬田さんは目下、椎茸のもつ抗菌性を利用。それをさらに増強して、インフルエンザを予防するだけでなく、罹ってもすぐに撃退できるようなキノコが作れないか、模索しているんだそうです。できたら心強い。昔の人がいったように、医者に金を払うぐらいなら八百屋に払え、というのが復活するかもしれません。
青菜類もそれに負けず劣らず、力がつくよう頑張ります。