昆虫大活躍

2006年8月第4週

夏野菜が畑に落とす影が、少しずつ長くなってきました。太陽はまだまだ意気盛んに見えますが、じりじりと後ずさりをはじめたようです。朝夕の風の中には、早くも秋の気配。ツクツクボーシの声を聞くと、わけもなく気ぜわしくなるのは、子供のころ、夏休みの宿題に追われた記憶がよみがえるからでしょうか。夏の終わりはいつも、早く秋になって涼しくなってほしいという気持ちと、いや、ちょっと待って、もうすこし...という気持ちとが交差して、微妙に揺れ動きます。

畑の中でも微妙に揺れ動いているものがいて、それはこの時期、ようやく大きくなってきたカマキリ。夏のはじめには1センチにも満たなかったのが、立派な戦士に育っています。兄弟のほとんどがカエルに食われ、鳥に見つかり、次々と姿を消してゆくなかで、何度も脱皮を繰り返し、ようやくここまでになったんですね。

それが野菜の葉陰で、風に揺れるように体を動かしながら、通りかかる昆虫を待ち伏せているのです。この大きさになるとバッタでもコオロギでも捕獲できますから、心強い味方になります。成長がほかの虫より遅いのは、実りの秋になってどっと繰り出してくる草食昆虫、いわゆる害虫に照準を合わせていたからなんですね。自然の妙といいますか、じつに巧妙な生態系のプログラミングです。

カマキリ同様、アシナガバチやスズメバチも野菜や果物の保護者ですが、どういうわけかこれらの肉食昆虫は、きわめて農薬に弱いのです。草食昆虫たちがどんどん耐性をつけてゆくのに反して、かれらは逆に消えてゆきますから、農薬を使っているにもかかわらず、害虫が増えているんですね。農薬は脅威どころか、天敵を消し去ってくれるありがたい薬剤だったというわけです。昔の人は農薬もなしに、よく米や野菜を作れたなあ、なんて声を聞くことがありますが、病気はともかく虫に関しては、昔のほうがずっと対策は楽だったと思いますよ。だって農家がなにもしなくても、肉食昆虫がバランスをとってくれていたのですから...。少なくとも昨今のように、特定の虫が異常繁殖。作物が壊滅状態になるなんてことはなかったはずです。

福田さんのトマトのハウスは蜘妹の巣だらけで、一見廃屋のようですが、かれらがコナジラミを一掃してくれるんだとか。ときおり顔面にべったり張りつくこともありますが、蜘蜂の巣パックでお肌もつやつや、というのはどうしたもんだか。酒灼けでテカっているようにしか見えませんけどね。

好子さんの茄子畑には肉食昆虫以外に、おびただしい青ガエルがいます。かれらもカマキリ同様、せっせと虫を食ペてくれます。ただ、このカエルを目当てに青大将も集まってくるので、収穫しながらギョッとなることもあるそうです。ま、しょうがないけどね、と好子さんがいうように、生態系というのは途中で断ち切ることはできないものなんです。それをこちらが勝手な都合でハサミを入れたりするから、おかしなことになる。

ちっぽけな虫たちの生存権を認めなかったばかりに、自分の命を縮めるばかりか、子供たちの未来にまで暗雲を広げることになったんですね。自分が種を蒔いて増えすぎた虫たちを「害虫」呼ばわりするなんて、どこかの国の大統領が繰欄された民衆をテロリスト呼ばわりするに似て、このうえなく愚かで恥さらし。製薬会社と兵器産業だけが潤っている、という点でも似ています。そんな人間の所業を知ってか知らでか、今日もカマキリが葉っばの上でそよいでいます。勇壮なその姿を、ありがたいなあ、格好いいなあと思いながら夏野菜の後始末。秋・冬野菜に備えて、畑に肥料を入れています。

今週の野菜とレシピ

朝夕、涼しくなったとはいえ、日中はまだまだ暑さが続きそうです。夏バテ防止には味噌汁がいちばん。じゃが芋と空芯菜、茄子とオクラ、ゴーヤと玉葱などなど、夏野菜を上手に使って...。味噌という発酵食品が体内でカを発揮するのは一年中、おなじなのかもしれませんが、夏はこちらの体カが落ちている分、それが強く感じられるみたいです。

味噌汁をおいしくするコツ。仕上がりに塩をほんのひとつまみ加えると、野菜や味噌の甘みが引き立ちます。茄で小豆や煮豆の仕上げに塩をひとつまみ。そうやって味を引き締めるのとおなじ理屈です。へタな化学調味料を使うより、ずっとおいしくなりますよ。

出汁を取るのが面倒という声もありますが、わたしは朝、出がけに鍋に水を取り、そこへ煮干しや昆布を放りこんでくるだけです。夕刻にはいい出しが出ていますから、煮干しを取り出して野菜を入れればいいわけです。取り出した煮干しに熱湯をかけ、荒熱が取れたところでもう一度火にかければ二番出しが取れますから、これは煮物用。

これなら簡単でしょ?出しでもお茶でも、いちばんおいしいのは水出しですしね。ただ、蓋をしっかりしてないと、帰ってきたとき、鍋の中の水が消えて、昆布と煮干しが数本ころがっているだけ、なんてことがあります。犯人は猫ですが、煮干しを残して水がなくなっているということは、それだけ出しがおいしかったということです。

逆に犬・猫の食欲が落ちているとき、これを与えてもいいわけですね。そのときは煮干しを多めにして、水はすくなめ。濃厚なエキスにしてやります。昆布もカルシウムをはじめ、ミネラルが豊富ですから入れてやります。エキスを取って残ったものは二番出しにして、味噌汁にすれば無駄になりませんからね。犬も猫も人間も、この出しと味噌汁で残暑対策ばっちりですよ。