盛夏の朝

2006年8月第1週

ようやく梅雨が明けそうです。北関東にも夏空が広がり、気温もそれなりに上がってきました。なかなかいい感じ...。いくら過ごしやすくても、このまま冷夏では困りますものね。

例年なら7月後半にもなると稲の花が咲き、田圃の近くでは香ばしいというか、日向くさいような花の香りに包まれるのですが、今年はさっぱり。わが家の周辺でも、ちょっとした異変が起きています。裏庭に住み着いているへビが、今年はなぜか家の中に入りたがるのです。うちには猫がいるので、そんな危険なところにわざわざ入ってくるなんて、今までは考えられなかったんですけどね。猫さえいなければ、ソファの上にのたっと横たわっている青大将なんて、涼しげな絵にはなると思うのですが...。

もうひとつ。庭先や薪小屋で脱皮をするセミの数はおびただしく、毎年それがバケツいっばい集まりますが、今年はそれも家の中で見られます。どこから入るのか、窓際の障子がいつの間にか水玉模様になっている。それも日に日に増えてゆくので、よく見たらセミの抜け殻といった具合で、日照不足や低温と関係があるのかどうかわかりませんけど、これまた一風変わったインテリアではあります。

雨が続くと、家の中にまで青ガエルが入ってくるので、へビはそれが目当てなのかもしれません。それが証拠に、ドアを開けておくといつの間にかいなくなってしまいます。わからないのがセミで、幼虫がどういう経路で侵入するのか、そして成虫になったものがどうやって飛び立っているのか、謎なんです。家の中でセミの姿は見かけませんからね。ただ夜毎、抜け殻だけが増えてゆくという夏の怪。

それはそうと、セミの抜け殻というのは、漢方では皮膚のトラブルに煮出したものを飲むそうです。ご入り用の方には差し上げますので、いつでもどうぞ。

セミといえば、日中のセミの羽音は暑苦しく、まるで暑さをかき立ててでもいるように聞こえますが、夕刻、そこにヒグラシが参入。'カナカナカナというセミ時雨の中にいると、火照った空気が一気に冷やされて行くようで、ほっとするものです。ひとしきり羽をふるわせ、あたりが暗くなってくると、ぴたりと鳴り止み、今度は夜明け前、空がいくらか白みはじめたころ、合奏がはじまります。

真昼でもにわかに空がかき曇り、冷たい風が吹きはじめるとカナカナカナがはじまりますから、ある種の光センサーのようなもので動いているのかもしれません。これがいっせいに鳴りはじめると、冷気のみならず、なにやら霊気のようなものまで漂いはじめるから不思議です。山の中などでこれに包まれると、ちよっと怖くなりますよ。

でも、明け方ちかくにふと目覚め、これを聞くとなんだか得をしたような気がするものです。布団の中では、霊気も清涼剤になるんでしようか。それどころか、臓腕とした意識でセミ時雨の中にいると、この世の雑事から解き放たれてゆくような気がするんですね。それに続いて、近所の鶏の関の声。鶏に負けず劣らず早起きのカラスの声。コケコッコー、カアカアで現実に引きもどされるのですが、そのうちヒグラシの羽音が消えて、昼間のセミのジーッがそれに取って代わります。アブラゼミほど暑苦しくはありませんが、このジーッは太陽を持ち上げ、気温を上げる機械音のように響きます。

そうして、スズメがさえずりはじめるころには、ふたたび夢の中。農家はそのころには起き出して、畑に出ているというのに...。犬もこの時間に散歩させたら喜ぶんだろうな、と思いつつ、あいかわらず惰眠の快楽を責っているしだい。年を取るといやでも早起きになる、というのはウソでしたね。

今週の野菜とレシピ

ひさびさにじゃが芋が入りますが、春先からの長雨で収穫後、大半が腐ってしまいました。今回お送りするのはその生き残りですが、見かけはきれいでも中に問題があるものがないとはいえません。なにかありましたら、お知らせください。

きゅうりが復活。茄子、トマトとならんで、夏の食卓に欠かせない野菜です。きゅうりは生食というイメージがありますが、豚肉や魚介類といっしょに妙めても美味。その際、ショウガもいっしょに妙めるのがコツで、わが家では水溶き片栗粉でとろみをつけたものが好評です。

日光とうがらしは香りがよく、辛さもひかえめなので、小口切りにして素麺の薬味にしたり、漬け物に混ぜたりします。妙めものに加えてもおいしく、茄子の味噌妙めにこれを入れると彩りもきれいになります。

空芯菜も夏の定番。にんにくといっしょに強火でさっと妙め、塩、胡淑しただけで本格中華の味と香り。できれば胡麻油を使ってください。茎の部分が空洞になっているので、食感がしゃきしゃきして涼しげです。暑い日にうってつけ。昼間の疲れを癒してくれますよ。