田植えの季節

2006年5月第1週

今週の野菜セット

ゴールデン・ウイークになると、このあたりは益子で開かれる陶器市目当ての車が押し寄せ、大通りはみんな渋滞。ふだん渋滞などとは無縁の生活をしていると、ちょっとのことでも大渋滞。これが大渋滞?と、東京から来た友人たちには笑われますが・・・。

このごろはナビがあるせいか、山道や裏道まで品川や練馬ナンバーの「田舎者」が入りこんで、もたもた、きょろきょろ、迷惑この上ないのですが、もっと困るのは農道銀座をすっ飛ばす田舎者のスポーツカー。農道は広く、見通しもよく、かれらにとっては魅力的な高速道路なんでしょうが、この時期、農道は文字通り「銀座」と化すのです。

田植え銀座。両側に苗床を積んだ軽トラックがずらりと並び、ふだんはまるで航空機の滑走路のように人気のない道が、野良着を着た老若男女であふれかえります。田圃を作るのは、わたしの親の世代のような老人ですが、会社勤めをしている息子や娘、ときには孫もこのときばかりは手伝いにはせ参じるみたい。だからゴールデン・ウイークに集中するんですね。

和気あいあいとした田植え風景。そんなところによそ者が侵入し、サーキッド代わりにするなどもってのほかです。

しかし、ほんとうは5月初旬というのは田植えの適期とはいいがたく、とくに今年のように雨が多く、水は豊富にあるけれども気温も地温もまだまだ低め、という年は稲の負担が大きくなりそうです。益子GEFの田植えは中旬以降ですが、今年は下旬でもいいんじゃないか、と青山さん。米作りに関しては司令官みたいな存在で、みんな、かれに相談しながら田植えに備えます。

つい先日も、畑が真っ白になるぐらい雹が降りましたから、夏野菜の準備も慎重です。例年ならゴールデン・ウイークを境に遅霜の心配もなくなりますが、今年は先が見えません。

農家の受難?地球の温暖化、それにともなう気候変動と、マスコミは騒ぎたてますが、気候はもともと安定したものではありませんし、気候が順調なら順調で豊作貧乏なんてこともありますしね。一年前とおなじ条件で作物が育つなんてことは、ビニールハウスのような人工的な空間においてさえ、ありえないのです。

野菜作りは毎年が初体験。家庭菜園程度の畑でも、それは実感できることで、プロの農家ってなんだろうって、ときどき思うことがあります。20年間、おなじ野菜を作り続けていたら、だれもがプロだと思いますが、技術的な熟練にはほど遠く、みんな初心者。おなじ条件が続いたと仮定しても、たった20回の経験しかないのです。だから農法というのは、ほんとうの意味では確立などしようがなく、逆に自分が初心者であることを自覚している者こそ、ほんとうのプロなのかもしれません。

作物は子供とおなじで、育てるものではなく、育つものです。そして子供が母親を育てるように、作物が農家を育てる。母親があれやこれや子供の成長に口出しすると、それがマイナスになるように、野菜ものびのびしていたほうが、気候の試練や病害虫とみずから闘えるようになるんですね。母親が神経質すぎると子供もそうなりますから、農家はなにがあっても見て見ぬふり。でも、ちゃんと見るべきところは見ています。

そして母親がせっせとご飯を作るように、農家は土作りに専念し、具合がわるそうだな、と思ったら肥料を足したり引いたりするのですが、このときはじめて長年の経験がものをいうというわけです。あとはひたすら、母親が子供の衣類を洗濯するように、畝間の草を取ってやる。

と、ここまで書いてきて、女性のほうが男性農家よりいいものを作るわけがわかったような気がします。好子さん、それから福田さんの奥さんである幸子さん。この両者が益子GEFの大黒柱だったんですね。

農家にプロがいないぐらいですから、母親のプロなどいるわけがありません。いい母親もわるい母親もない。ただ唯一無二の存在があるだけです。ですからお母さんたちは思いっきりのびやかに、子供に育てられてくださいね。母親に余裕があると、子供も無農薬野菜のように強くたくましく育ちます。そんな野菜に虫がつかなくなるように、子供を狙った変質的な犯罪も、きっと避けて通りすぎるようになりますよ。

今週の野菜とレシピ

今週はフキが入ります。フキはその日のうちに、葉と茎を別々に湯がいておいてくださいね。先に湯がいておくと、皮がむきやすく、指もアクで黒くなるようなことがありません。茎のほうは鰹出しでじっくり煮ふくめて・・・。きんぴらのように炒めてもおいしいですよ。

葉っぱのほうは水気を切ってよくしぼり、縦横に包丁を入れてから、同量の酒と醤油でことこと煮ます。汁気がなくなったら、鰹節をたっぷり加えて佃煮のできあがり。これ、白いご飯にのせて食べるのがふつうですが、わたしは卵かけご飯に混ぜるのが好きなんです。人にいうと、ええっ?と変な顔をされますが、これが絶妙です。ぜひ試して、わたしの仲間になっていただけると心強いのですが・・・。

5月を目前にして、なかなか気温が上がらないので、今年は絹サヤも花をつけたまま、なかなか大きくなれません。そんなわけで、今回は天然ワカメが登場します。ひねもすのたり、のたりの海でなく、三陸の荒波にもまれたワカメ。たっぷりの水に30分ぐらいさらして、塩抜きしてからお使いください。生で食べてもおいしいので、うちではオニオンスライスといっしょにサラダにしています。

小かぶは生のまま、味噌をつけてかじると甘くて美味。二十日大根は塩ですが、かぶは味噌と相性がいいみたいです。葉っぱのほうは味噌汁で・・・。

アートグリーンはワサビ醤油入りのマヨネーズで和える、というのが港区にお住まいのNさんレシピ。わたしは芥子醤油専門だったので、今週、やってみます。

小松菜はだいぶ大きくなりましたが、ウソのようなやわらかさ。茎が太くなった分、甘みが増したように感じられます。おひたし、お吸い物で・・・。

山東菜。これは芥子がよく合います。山東菜はさっと湯がいて包丁を入れ、よくしぼっておきます。油揚げ1枚は熱湯をかけるか、火にかけて炙るかしてよけいな油分を取って細切り。これを芥子醤油で和えます。油揚げなので、芥子は少々多めでも鼻にツーンとくることはありません。そこに山東菜も加えてひと混ぜしたらできあがり。これはご飯がよく進みます。

来週あたり、絹サヤが大きくなってくれるといいですね。大根も生育が待ち遠しいところです。