人間と人の間

2006年12月第2週

今週の野菜セット

左上から時計回り

寒くなりました。

この寒さに拍車をかけるのが、日照時間の短さですが、ちょうど今週あたり、一年中でもっとも夜が長くなりそうです。冬至はすこし先ですが、冬至前一週間ぐらいがいちばん日が短く、冬至本番を迎えるころ、日没はかなり遅くなっているといいます。「冬至十日過ぎれば馬鹿でもわかる」というのは、実際には二十日が経過していたからですね。

一方、農家の間では「冬至十日前」という言葉があるそうで、やはり戸外で仕事をする人の体感にはかなわない、と思いました。わたしが「冬至十日前」という言葉を知ったのはつい最近のこと。ほんまかいな、と思いながら天文学の入門書をあたってみたら、ほんとうにそうだったというわけです。農家ってやっぱりすごい。どんなに寒くても、家の中にこもっていてはダメなんですね。

冬至十日過ぎるころには正月の準備に追われ、日がのびたことなど気づきもしないわたしのような馬鹿でも、松の内が明けるころには実感できます。そこでようやくほっと息をつく。日照時間が長くなるとうれしいのは、太古から脈々と流れてきた血が、体内のどこかに流れているからでしょう。

うちの犬や猫、ウサギもそれを喜んでいる。背後の山に住む鳥やイノシシも喜んでいる。休眠中の植物たちも、当然それを感じているはずで、このささやかな喜びを共有することによって、おなじ血を流すものとして一体化する。そんな幸福感はなにものにも代えがたいものがあります。

ですが、より濃厚におなじ血を共有する人間同士となると、それがどうしてこうも困難になるのでしょう。人類は一本の地下茎でつながりながら、思い思いの花を咲かせている植物みたいなものだとわかっていても、なかなか他者とひとつになれない。家族ですら、しばしば反目し合います。

人というのは支え合っているから「人」という文字になる、という有名な金八先生の言葉がありますが、あれはこじつけで、もともと「人」の二本の棒は天と地を表していたそうです。天と地の間に立って、その架け橋となりながら生きる者。あるいはその恵みによって生きる者、という意味だったんでしょうか。その伝でゆくと、「人」という呼び名がもっともふさわしいのは、今や野生の動植物のほうかもしれません。

その「人」が近代になって、個人主義が広まるにつれ「人間」に変化。すなわち人と人の間に距離ができました。と同時に天地に背を向け、あたかも天地から搾取するような存在になったんですね。

だから「人間失格」「間抜け」というのはすばらしいことで、わたしたちの人生というのは人間から人になることなんですよ、とその昔、ある人からいわれたことがありました。人になれなかった人間は、また生まれてきて人となるべく人生を送り直すんだ、とも・・・。そういえば、タロットカードでもフールは王様より上だったなあ、と思いながら話を聞いていましたが、あれから数十年、未だに人間から脱しきれておりません。

間抜けになれない。「間」というのは「魔」にほかならず、たとえばなにかをしているとき、だれかに用事を頼まれて、すぐにYESといえないことがよくありますよね。返事が出るまでにかかった時間が拒絶の度合いで、自分の都合が邪魔をしています。なにもしていなくても、なかなかYESが出てこない。それとは逆に、子供が転びそうになるとさっと母親の手がのびる。これが間抜け、すなわち愛の姿です。

自分が一日に何回ぐらい「ちょっと待って」というのを口にしているか。これは間抜けの度合いを知る手っ取り早い方法で、自我というものがどれだけ無償の愛を潰しているか、いやになるぐらいよくわかります。ほとんど口癖になっている場合もありますが、ご心配なく、わたしも知らず知らず口にして、ああ、またやってしまった、と嘆息しているようなしだいです。

これからクリスマスの準備、年末の大掃除と、家の中があわただしくなりますが、「ちょっと待って」は御法度。「忙しい」も子供の前で口にしないでくださいね。読んで字のごとく、忙しいとは心が亡くなっている状態で、慌ただしいは心が荒れる。年の暮れといえどもゆとりを忘れず、おたがい魔を抜きながら過ごしたいものです。

今週の野菜とレシピ

今週は里芋といっしょに塩漬けキノコが入っています。これはボリという雑茸の一種を青山さんが岩手で採集、塩漬けにして持ち帰ったもので、里芋といっしょに実だくさんの汁ものにするのが一般的。東北では芋煮に欠かせないキノコだそうです。

丸一日ぐらい、たっぷりの水で塩抜きしてから使いますが、ツルツル、コリコリした独特の食感が売り。発酵臭がすることがありますが、調理中に消えてしまうので大丈夫。にんじん、大根、ごぼう、こんにゃくなどといっしょに、たっぷりの出し汁で煮てください。

実だくさんの汁を作った残りの大根は、大根餅にしてみませんか。これは中国のおやつ兼軽食。消化がいいので、受験生の夜食にも向いています。材料も台所にあるもので間に合います。

まず、昆布でも鰹節でも煮干しでも、お手元にあるものでけっこうですから、濃いめの出しを取ります。その間に大根を輪切りにし、それを細かく千六本に切り、軽く塩をして余分な水分を除いてください。出しはすこし冷ましてから、同量の小麦粉と片栗粉を加えて天ぷらの衣より少しかために・・・。ぎゅっと絞って水気を切った大根を加え、胡麻油を敷いたフライパンに薄く伸ばして焼きます。芥子醤油につけながら食べますが、表面カリカリ、中モチモチでこれがなかなか。事務局の昼食時にもよく食べています。

ター菜はまずその大きさに驚かれるかもしれませんが、気候のせいでなく、好子さんのター菜はいつもビッグサイズ。これが毎朝霜にあたっていますから、見かけによらずやわらかい。炒めもの、スープにご利用ください。

来週は白菜が入ります。年末は鍋で締めくくり、というわけですが、隔週でお送りしている方は、今回が今年最後の野菜セットになります。この一年もありがとうございました。来年は1月8日から発送を開始します。