プロの農家

2006年10月第1週

今週の野菜セット

日暮れが早くなりましたけど、夕空はきれいですね。思わず車を止めて見入ってしまうような夕焼けに、このところよく遭遇します。夕焼けのピンクと空のブルーが縞になって、西の山際から扇状に広がっている光景など、この世のものとは思えないほど。天空のキャンバスに、どんな絵筆を走らせるんでしょうね。

そして地上に目をやると、赤トンボの乱舞。ゆっくり車を走らせてもフロントガラスに当たるほど、今年はトンボが大量発生しています。家の中にも、油断していると入ってくるぐらい・・・。柿も栗も今年は不作ですが、トンボがそれを補ってくれているようです。

益子GEFの稲刈りも、ようやく終わりが見えてきました。今年はただでさえ、稲の成熟が遅れているところへ、稲刈り時期に雨に祟られたりしたものですから、とうとう十月の声を聞いてしまったというわけです。

まわりの田圃はとっくに収穫を終え、きれいになっているのに、有機栽培のところだけ稲が残っているというのも、周囲の農家には間抜けにしか見えないらしく、いろいろ意見をされるそうです。それがいちばんの悩みだそうで、家人にまでせっつかれるようになると、もうお手上げ。田植えと収穫の時期には、いい年をして家出してしまいたくなるそうです。

好子さんの小松菜も、この時期にはけっこう虫に食われ、穴ぼこだらけになっていますが、野菜が虫に食われることよりも、近隣の農家の干渉が悩みの種だとか。彼女が有機栽培をはじめたころは、今よりもっと虫が多かったので、親切に農薬をかけてくれる人までいたそうです。畑が使えなくなってしまって、またはじめの一歩からやり直し。何度かやめてしまおうかと思ったそうですが、あれから二十年。ようやく近所にも家人にもわかってもらえるようになった、と安堵しているのかと思ったら、状況はそれほど変わっていないようです。

有機栽培の敵は虫でもない、病気でもない。周囲の無理解だ、とみんな口をそろえたようにいいますが、それでも益子GEFの面々は幸運な方。だって受け入れる側の理解があるんですから・・・。その理解にひと役買うのがわたしたちの務めですが、農家がそれに甘んじて、無農薬なんだから出来がわるくてあたりまえ、みたいにならないようにするのも大事な仕事。これがまた、口でいうほど簡単なことではないんですけどね。

農家にヘソを曲げられたり、最悪の場合には決別に至ったり、いろいろありましたけど、今のメンバーになってからは以前よりずっと楽になっています。いろんな農法がありますけど、やっぱり作物の出来を左右するのは農家の人柄、といいますか家族関係。好子さんの野菜にソツがなく、いちばん安心していられるのは、彼女ひとりの力ではなく、夫婦仲がいいからなんですね。いつも通信には登場しませんが、ご主人の喜久一さんの内助の功がじつは大きかったんです。

ま、たまに彼女が種を蒔いたばかりのところへ、知らずに耕耘機を入れてしまったりすることはありますけど、一介の主婦にすぎなかった好子さんを農業に目覚めさせ、二十年がかりでプロに育てあげたのも喜久一さん。元は農協の職員でしたが、数年前に退職。以来、奥さんの助手に徹していますが、この助手に徹するというのが簡単そうで、じつはなかなかできないことなんです。なんにせよ、自分の意思や意見を口にせず、人に従うというのはむずかしいことですからね。

有能な農家ほど、自分の技術が確立されてくると、そこに「我」というものが入ってきます。その「我」が野菜の味をわるくするのですが、いったん自信をもってしまった農家はなかなかそれに気づくことができません。好子さんといえども、農家としてここまで成長してくると、いつそれが頭をもたげてくるやもしれません。そこにブレーキをかけているのが、無我の境地で助手に徹する喜久一さんではないか。というわけで、ここへきて彼の株が上がっています。

福田さんの野菜を支えているのは、奥さんの幸子さん。彼女がいなければ野菜セットが成り立たないぐらいですから、影の力というのは偉大です。

今週の野菜とレシピ

今週は原木栽培の舞茸が入りました。雑木林の中で栽培しているので、天然ものにきわめて近い味と香りです。舞茸は捨てるところがほとんどないので、やわらかい布か刷毛でゴミを取ったら、そのまま適当な大きさに裂いてお使いください。てんぷらが絶品でした。

米が2~3合なら舞茸ご飯にすることもできます。舞茸は細かく裂いて油炒めします。米の量を増やしたいときは、増量剤として油揚げも細かくきざんで混ぜてもOK。味醂と醤油で濃いめに味をつけ、炊きたてご飯に混ぜてください。

里芋は煮っ転がし。先週のゴボウが残っていたら、けんちん汁もいいですね。こんにゃくをから煎りしたところに胡麻油を入れ、ニンジン、ゴボウを炒め、濃いめに取っただし汁をたっぷり注ぎます。里芋をひと口サイズにして加え、塩と酒、醤油で調味。まず一日目はこれに豆腐とネギを加えていただきます。二日目には京菜を入れて、オイスターソースも少々加えて感じを変えて・・・。一見、手がかかるようですが、こういう汁ものを大鍋に作っておくと、数日楽しめる上、夕飯の支度がとても楽。みなさんもいろいろ工夫して、オリジナルスープを作ってみてください。