肉食動物と草食動物

2006年9月第4週

今週の野菜セット

さわやかな気候になりました。

秋の虫もにぎやかです。ときおり、夜の宇都宮を歩く機会があるのですが、繁華街の虫のすだく音に満ちているのにはびっくりします。つまりですね、人や車が絶えず行き来する、大きなビルの林立する通りでそれが聞こえてくるんです。それもかなりの音量で...。

自動車道路わきでも草むらには事欠かないこのあたりならともかく、あんな草一本も生えていないようなところにもコオロギはいるんですね。街路樹にでもたむろしているんでしようか。宇都宮というのは栃木県の県庁所在地。地方都市の底力というか、活力の源泉みたいなものが感じられて、ちょっと感動的でした。ゴキブリとドブネズミしかいない街より、ずっと風流ですしね。

このコオロギ、畑では害虫ですが、それでも虫一匹いない畑より、バッタもいればコオロギもいる。草むらに一歩入れば、キリギリスが飛び出すような畑のほうが活力があるみたい。そういうところには当然、かれらの天敵・カマキリやスズメバチがいる、カエルもいるというわけで、食うか食われるかの闘いが日夜繰り広げられているのです。

キツネ・タヌキもこの時期は昆虫を食べますから、夜中にこっそり来ているようで、朝、畑のそばを通ると体臭なのか、おしっこなのかわかりませんけど、特有の臭いが残っています。虫はいいけど、ウサギは食べるなよ、と林に向かっていうのですが、ウサギもバカではありませんからね。日中、トンビが上空を旋回しているときは姿を隠していますから、夜間もそれなりに自衛しているんでしょう。

小さな畑でも、これだけスリリングなドラマがあるのです。この緊迫感が野菜にも伝播して、虫と闘う姿勢を育んでいるのかもしれません。わたしたちの目には、平和そのもの。のどかな風景なんですけどね。

でもまあ、キツネ・タヌキ、たまにイノシシが加わったところでかわいいもので、アラレちゃんの近所にいるブラジル人の話によると、川沿いの畑にはあたりまえのようにアナコンダが出没するそうです。もちろん、畑の作物を狙って来るわけではありません。かれらの狙いは畑に出没する動物ですが、そこには農夫も入っているといいますから、あな恐ろしや。

アナコンダはご存じのように巨大なヘビですが、毒はありません。力持ちなら畑から引きずり出すこともできるのですが、アナコンダと目を合わせたら最後、催眠術にかかったように身体の自由がきかなくなって眠りに落ちてしまうんだとか。だからひとりで畑仕事をするのは禁物で、どちらかがうっかりアナコンダと目が合って気を失ってしまったとき、呑みこまれる前に救出しなくてはならないのです。

魚釣りもかならずだれかと同伴で...。釣りをしていると、川面からアナコンダが頭だけ出して、じーっとこちらを見るんだとか。無視していれば無害なのですが、凝視されればつい目が行ってしまいますものね。目が合ったら最後、そのまま気を失って餌食となる...。近所の歯医者さんがひとりで釣りに行ったまま、帰って来ない。手分けして探していたら、変な形をしたアナコンダがいる、というので捕獲。腹を割いたら、変わり果てた歯医者さんが入っていたという事件が子供のころにあったそうです。

アナコンダが逃げまどう人に襲いかかる、などというハリウッド映画は真っ赤なウソだったわけで、その伝でゆくとサメなどというのも、ほんとうはおとなしい動物なんだろうね、などと話していたのですが、どうして人というのは敵を作り、恐怖を作り上げるのがこうも好きなんでしよう。自分が他者の領界を犯していることは棚に上げて、正当防衛に出たものを悪者扱いするのも得意ですしね。

でも、催眠術の話には感動。わたしたちはにわかにアナコンダファンになったのでした。トラやライオンに襲われ、九死に一生を得た人の話によると、襲われた瞬間、まるで魔法にでもかかったように気持ちがよくなったというのですが、相通ずるものがあるのかもしれません。恐怖感は苦みとなって肉の味をまずくします。だからある種の催眠術を武器として使うんでしようが、大蛇といえども大きな獲物を呑みこむには、かなり時間がかかるでしようからね。毒で獲物を麻庫させることのできないアナコンダには、そういうテクニックが必要だったのかもしれません。

人間ももともと肉食なら、そういう知恵を身につけていたんでしょうが、歯の構造からもわかるように、もとはといえば植物食。だからでしょうか、屠殺場などという最悪の環境で、生きものを恐怖と絶望感まみれにして、わざわざ肉をまずいものにしています。生活が文化的になればなるほど、食べものがまずくなる傾向がある。野菜もよせばいいのに、高価な薬でまずくしてますしね。ちなみにアナコンダの肉っておいしいんだそうです。農場や魚の養殖場に入って来たものは、運がよければ放り出されるだけですが、そうでなければ食べられるという・わけで、大蛇をやってるのも楽ではなさそう...。でも、アナコンダがいるかぎりブラジルの川は健在。年間に数人が食べられたにせよ、人が生きる大地もまた健在というわけです。

今週の野菜とレシピ

今週は好子さんのキャベツが入る予定でしたが、土中の線虫に根をやられているらしく、なかなか葉が丸まらないようです。もうすこし気温が下がって、線虫の勢いがなくなるまでお待ちください。

というわけで代品として、かんぴょうが入りました。青山さんが作ったものを、おじいちゃんとおばあちゃんが加工。漂白剤も防腐剤も使っていませんので、冷蔵庫に入れてください。

栃木県はかんぴょうの産地なので、ふだんの食卓にもよくこれが登場します。代表的なのがかんぴょうの卵とじで、かんぴょうは塩でもんでからぬるま湯でもどします。やわらかくなったら食べやすい大きさに切って、味噌汁の中に入れ、溶き卵を流し入れるだけ。ミョウガかネギを薬味に散らします。

新ごぼうといえばてんぷらですが、今回はちょっと趣向を変えて...。ゴボウは皮が取れないように、そっと洗ってひげ根を取ります。それをまな板に寝かせ、ピーラーで長く薄くそぎ取ってゆきます。そのひらひらのリボン状のものに衣をつけて揚げ、塩をふるとスナック菓子風のてんぷらになり、子供はもちろん、老人にも食べやすくなります。

ただしピーラーを使うと、どうしても2~3mm、切れない部分が出てしまいます。それは包丁で斜めに薄く切り、同量の酒と醤油にまぶしておくと、てんぷらを揚げている間にしんなりとして即席漬け。これは箸休めにしてください。

シソの実は水に浸けてアクを抜き、小口切りのとうがらしといっしょにぎゅっと絞って醤油に漬けます。これぐらいのシソの量なら、とうがらしは1本で十分。翌日には食べられますが、新米を待って、炊きたてご飯にのせて食べると絶品。田舎のキャビアです。

キャベツは来週もむずかしそうですが、その代わり原木栽培の舞茸が出て来そう。野菜セットには初登場です。天然にちかい味と香りをお楽しみに。