虫の話

2006年3月第2週

今週の野菜セット

先週は前半が春のあたたかさ。でも、後半は寒さのもどりで、一時的ではありましたけど、雪も舞ってふるえあがりました。今週はまた、春の陽気になるんでしょうか。

陽気がいいと、畑の草が急成長します。ああ、今年も草むしりの季節になったんだ。春の草は4月になると繁茂してしまうから、3月中に手を打つべし、と好子さんから教えられたとおりに精を出していたら、目の前をくるくると舞う小さな黒い虫。なんと、こんな季節にもうブユがいるんです。

ブユというのは蚊より小さく、すばしっこい虫で、蚊とおなじように血を吸いますが、蚊のようなストロー状の口は持たず、囓りますから腫れかたも尋常ではありません。皮膚のやわらかい瞼を狙ってきますから、痒いなと思っているうちにだんだん視界が狭くなってきて、鏡を見るとお岩さん・・・。

畑を作りはじめたばかりのころ、よくこれにやられたもので、みんなから怖い、こっちを見ないで、などといわれていました。初心者を試していたのか、それとも体育会系のしごきみたいなものだったのか、あるいはただ単にこちらの心がけというか、波動が低いだけの話だったのかもしれませんけどね。山羊も体調がわるくなると、ブユや蚊に食われ、ノミにもたかられます。

ともあれ、最近は滅多に食われることはなくなりましたけど、それでも年に1度や2度はやられることがあります。そんなときは、あ、今ちょっと低調なのかもしれない、と身をひきしめる。心身のバランスメーターのようで、ありがたい存在ではあるのですが、目の前でくるくるやられると、やっぱりイライラしてきます。イライラすると波動が落ちるので、そこでやられる。

だから蚊やブユが出てくると、ありがとう、ご苦労さん。何度も口にしているうちにだんだんその気になってきますから、虫のほうもこいつは食えないと思うのか、姿を消してしまいます。虫の駆除はこれがいちばん。虫のみならず、目の前の障害物や外敵、すべてのイヤなものに対処するにもこれ。抵抗すればするほど、攻撃的になればなるほど、泥沼に足をとられるように絡めとられ、身動きできなくなってしまいますから、これしか対処法はない、というのは世界情勢を見てもわかりますよね。

野菜の虫も活動しはじめます。カメムシのように越冬するものもあれば、冬の間、卵の中で息をひそめ、春になるとゾロゾロ這い出してきて、旺盛な食欲を見せるものも・・・。ヨトウムシのように、幼虫が土の中にいることもありますしね。

いずれにしても農家の敵、野菜の敵なのですが、だからといって殺虫剤を散布したのでは、いたずらに虫の遺伝子を進化させるだけ。さらに強力な殺虫剤、いやいやそれにもめげない虫、といたちごっこが続いたあげく、農薬の毒性が強すぎるのでロボットを使うような事態まで・・・。怖いでしょう。お金がかかりますから、農家の負担も増える一方です。

ブユが人体のバランスのバロメーターであったように、アオムシもまた野菜の健康のバロメーターなんですね。だから無農薬野菜などというものが存在できる。虫は天然の検査官で、動物が口にすると問題がありと判断したら、それを駆逐する役割を負っています。だから化学肥料などを使うと、びっしりアブラムシがまつわりついて真っ黒になるんです。有機肥料を使っていても、窒素過多になるとおなじ現象が見られます。

うちの畑でも、毎年エンドウやソラマメを作っていますが、自家用なので少量です。それでもかならず数本はアブラムシにやられます。豆科の植物は根粒バクテリアによって空気中の窒素を固定するので、肥料は極力おさえるようにしているのですが、それでも過多になるところが出てきます。それはプロも同様で、好子さんのようなベテランでも、ときどきアブラムシにやられることがあるといいます。

そんなとき、どうするの?と聞いたら、好子さんの答えは簡単明瞭で「放っとく」でした。手を出しても、アリはどんどんアブラムシを連れてくるだけ。放っておいても、それ以上広がることはないからなにもしない。小松菜にヨトウムシがついても、キャベツにアオムシがついても、たくさんの中にはできそこないがいてあたりまえ。だから放っとく。そのかわり、種は多めに蒔いておく、という話でした。

この余裕。けっして慌てず、じたばたもせず、静観する姿勢が虫をそれ以上拡散させず、残りの野菜を無事に生育させていたのか、と感心したものです。わが家の豆類も「放っとく」農法に切り替えたとたん、数本を真っ黒にしたまま、残りが大きく育つようになりました。どうしよう、とおろおろしていたときは、アブラムシの被害に遭わなかった苗もあまり大きくなれなかったんですよ。萎縮していたのかもしれません。

今年もソラマメの苗が出そろいました。まだアブラムシの姿は見えませんが、もうすこし大きくなったら出てきます。でも8割は大きくなって、たくさん豆をつてくれるはず。好子さんも秋の終わりにソラマメの種を蒔いています。そんなわけで5月あたり、ひさびさに野菜セットにソラマメが入りそう。3年ぶりの登場ですのでお楽しみに・・・。

今週の野菜とレシピ

今週はじゃが芋が入りますが、寒いとはいっても確実に季節は進行中。小さな芽がつんつん顔をのぞかせはじめました。使わない分は冷蔵庫の野菜ボックスに入れてくださいね。

発芽がはじまると、じゃが芋は甘みを増しておいしくなります。それは発芽という一大事業のために、体内のでんぷんがアミノ酸に変化するからで、じゃが芋がもっともエネルギッシュになるときでもあります。とはいっても、芽は有毒。それは新しい生命を命がけで守るための戦略ですから、わたしたち搾取する側としては慎重に取り除かねばなりません。でも、新芽さえ取り除いてしまえば味は最高。芽が伸びだして、芋の表面がしわしわになってくると、水分が抜けた分、うまみも増しますから、見かけがわるいからといって捨てたりせず、大事に使ってくださいね。次回、じゃが芋が入るのは、新じゃがが登場する6月下旬になりそうです。

春の到来を告げるあぶら菜も、ようやく食べられるサイズになってきました。花芽が摘めるようになるのは4月以降。じゃが芋とあぶら菜の味噌汁なんて、この時期、いちばんのぜいたくかもしれません。甘みを増したじゃが芋と、ほろ苦いあぶら菜の取り合わせが絶妙。あぶら菜のかすかな苦みが、冬の間、高カロリーな食事にかたむきがちだった身体の毒抜きをするそうです。

京菜は霜にあたって枯れていましたが、陽光が春めいてくると、根元から新芽が出てきます。菜っぱとは思えないような再生能力。そのたくましい生命力をいただくという寸法です。やわらかいのでサラダにできます。もちろんスープにしてもおいしいですよ。