暦と季節

2006年2月第2週

週末は立春でした。皮肉なことに立春を迎えたとたん、ようやくゆるみはじめていた寒さがぶりかえし、真冬に逆もどり。今週はまた、あたたかくなってくれるんでしようか。

陽光は着実に春めいて、日に日に明るさを増してくる反面、室内に差しこむ光はすこしずつ後退し、猫の昼寝スペースがだんだん狭くなってきました。その都度バスケットを移動させながら、それを名づけて春の引き潮。猫に占領されるので、鉢植えには日が当たりにくくなってきました。

明るくなった日差しのせいで、暮れに磨いたばかりの窓ガラスが、もうなんとなく薄汚れたように感じられるのは、春の足音ならぬ足跡。春はいいんだけど、足の裏がきたなぐて… とぽやきながら、家人がガラスを磨いています。耳目をすますと、身のまわりのちょっとした変化の中に春の息吹が感じられます。そんなささいな変化がうれしいくせに、わざとぼやいて見せたりする。田舎暮らしをしていると、春というのは単なる季節ではなく、ある種の事件なのかもしれません。それも環境を激変させる大事件なのですから、みんながそわそわするのも無理ないんでしようね。

ともあれ立春を迎えて、ほんとうの新年になったわけで、謹んで新春のお慶ぴを申しあげます。

なんだかんだ問題はあるけれど、中国がエライと思うのは、解放政策で欧米を相手にするようになっても、ちやんと正月だけは従来通りに祝っているところ。やっば、グレゴリオ暦はアジアの風土になじみませんからね。暦が変われば、生活習慣も否応なしに変わってくる。わたしたちの肉体的、精神的な基盤が変わるということです。

グレゴリオ暦が取り入れられたのは明治維新のころですが、このあたりの農家では第二次大戦が終わってもなおしばらく、旧暦が生活のリズムになっていたようです。だからお年寄りから話を聞くと、今は季節の移り変わりが早すぎる。だから仕事が中途半端。昔は畑仕事も山仕事もみんな終えてから、ゆっくり正月が迎えられたのに・・・っていうんですね。

とくに農作業には、陰暦のほうが合っていたようです。月の満ち欠けが動植物にあたえる影響は大きいですからね。わたしたちも知らず知らず、月のリズムに動かされています。月の引力で広大な海の水が満ち引きするのですから、8割ちかくが水という人体が、その影響を被らないわけがないでしよう。旧暦のもとでは3のつく日、鉱灸も按摩もふくめた医療機関はみんなお休み。三日月のもとで治療などしても、効果がないのがわかっていたからだそうです。車で道路を走っていると、やたらと猫の死体が目につくときがあります。そんなとき、調べてみるとたいてい三日月。なぜ三日月が新月よりわるいのかわかりませんけど、心身ともに安定を欠き、なにをやっても効果が上がらないみたいですね。

それから雨の日もだめなんですって。雨の日にマッサージなどしても、そのときはいいけど、また雨が降ると元通りになってしまうといいますから、低気圧、プラスイオンなどなど、交感神経が刺激を受けやすいときにはなにもしないほうがよさそうです。

だから晴耕雨読なんていうのも、そういう視点に立てば考えもので、雨の日に本など読んでも身につくものはないもない。晴耕晴読。雨の日は家の中でごろごろしているのがいちばんいいのかも… 。でも、晴耕雪読となると話は別で、同じ低気圧にもたらされても、雪というのは雨が結晶化したものですから、プラスイオンがマイナスイオンに変換されているんです。だから副交感神経が刺激される。雪の朝、妙に目覚めがよかったりするのはそのせいで、大の大人が子供みたいにはしやいだりするわけです。

もっともそれにも程度があるわけで、豪雪ともなれば疲労困煉。最近、大雪がニュースになることはなくなりましたけど、これからが雪の本番。テレビカメラがみんな引き上げてしまった後の苦労がしのばれます。

今週の野菜とレシピ

ひさびさにさつま芋が入りました。今年は例年にない寒さのせいで、多くの根菜類に傷みが出てしまいましたが、これも例外でありません。霜焼けといって、保管しておいたものが氷点下の寒さに耐えきれず、中が黒ずんだりスカスカになったり・・・。半分ちかくが出荷不能になったそうです。

そんなわけで小ぶりの芋が残りましたが、アルミホイルで包み、ストーブにのせておくとまるで芋羊契みたいなやわらかさ。皮の焦げた部分も香ばしくて、おやつに最適です。

庭も畑も冬枯れというこの季節、わが家では春菊がハーブのかわりに活躍します。きざんだ葉をリゾットやピラフの仕上げに使いますが、スープの青みとしても利用するんです。りんごやナッッ類といっしよにサラダにしても美味。かならず使用前に葉と茎を分け、茎は茎でさっと湯がくか、妙めるかして肉料理などのつけ合わせに使います。一見、アスパラガス。でも、ハウス栽培のアスパラガスなどよりはるかにおいしく、へルシーですよ。

ター菜もほうれん草も寒さにあたって葉先が変色していますが、これは手指の霜焼けのようなもの。霜にあたって本体の滋味が増した代償とお考えください。食べても問題はありませんが、気になる方はそこだけカットして・・・。青菜は寒さに耐えれば耐えるほど、わたしたちの身体をあたためてくれるんだそうです。食べなくても、それを考えただけで胸があつくなりそうですね。