FTA、EPAの罠

2007年8月第2週

今週の野菜セット

左上から時計回り

台風5号が日本海にそれ、強風をもたらしながら北上してゆきましたが、今回もまた、台風一過の空はどんよりとして、気温もそれほど上がっていません。今度こそ強烈な太陽と、抜けるように青い空。それに殺人的な暑さを覚悟していたのですが、また肩すかしを食らうのでしょうか。

個人的には真夏の暑さなど、けっして求めているわけではありませんが、対応に四苦八苦している野菜たちを見ていると、かれらにがんばってもらうには、こちらも暑さぐらい我慢しなくちゃ、という気持ちになるんですね。

こういうときでも、雑草だけはやたらと元気で、あっという間に畑を占拠してしまいます。野菜に元気があるときは、草も比較的おとなしく、農家の邪魔をしないのですが、野菜が疲れてるな、と思うと勢いを増すみたい。

ここ数日の強風で、わが家のズッキーニは大半がダメになってしまいましたが、なにもなかったはずの地面に、早くも草の芽がびっしり出ています。くやしいけど、かれらの状況判断の正確さ、たくましさには脱帽で、どうせ作物ができないのなら、今年はかれらに花のひとつも咲かせてやろうか、などと考えているところです。

さて、今週はFTA(自由貿易協定)について、それがこの国の農業をどのように疲弊させてきたかについてお話するつもりでしたが、調べていたら、それをもっと踏み込んだEPAなどというものがあり、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三)というところが「EPAの加速、農業改革の強化」などという報告書を、今年5月に出していたことがわかりました。

EPAとは、二国間または複数国間で経済交流を緊密化する経済連携協定のことで、関税撤廃による貿易自由化を中心とするFTAより幅広い連携強化を図るものだとか。報告書には「今後、世界各地でFTA・EPAのネットワークが急速に形成されると見込まれる中で、わが国が取り残された場合、国際的に不利な立場に陥ることについて直視すべきである」とあります。要するに、グローバリズムに立ち遅れると、工業を中心とする輸出産業に不利益が生ずるから、もたもたしてはいられない、という財界の焦りがそのまま反映されたもので、後半の「農業改革の強化」というのは、あおりを受けて衰退すると見られる農業関係者向けのものなのですが、その内容がすごいのです。

関税の撤廃によって、国内農業が打撃を受けるのはわかっているが、それに対する国の財政支援はできるだけ押さえたい。というわけで「支援対象農家については、所得の大宗を農業に依存している農業経営者を基本とすべきである」とあり、これはどういうことかというと、兼業農家はもちろん、農業所得の過半をそれ以外の所得に依存している準主業農家や、65歳未満の農業就労者がいない農家など、およそ日本の農家の80パーセントを切り捨てるという内容なのです。

こうした農家は、もともと農業収入などあてにしていないのだから、そんなものに国民の血税は使えない。いらんよ、そんなもん、と思う農家もいるでしょうが、それだけではすまされないところがこの「農業改革の強化」のおそろしいところで、土地を手放さなければならないのです。なんのため?知りませんけど、社会的利益のためであり、国民・消費者の利益のためだそうで、ま、都市部の農地を取り上げて、商工業地帯や宅地にしたいというのが本音ではないでしょうか。

こんなことがまかり通るようになれば、福田さんも好子さんも青山さんも農地を失うことになります。みんな専業農家ですが、青山さんは奥さんが働いている。好子さんのところは夫婦で畑仕事をしていますが、その半分は借地だし、福田さんは逆に土地を人に貸していますから、これもバツになりかねません。農家にとって土地というのは自分のものでなく、先祖からの預かりもの、という意識が強く、お金には換えがたいものなのですが、それをこの報告書では、農業の高齢化と疲弊を強調しながら、土地を手放さない農家を自分勝手で理不尽な存在としているのです。いったいだれが農業を疲弊させ、農業だけでは食えない状況を作り出したんだよ、と毒づきたくもなるでしょう?

ちなみに農水省の試算によると、輸出産業の利益確保のために国境措置を撤廃し、輸入品にかけられている関税をゼロ、ないしはゼロに近づけるとどうなるかというと、国内農業生産の減少が約3兆6000億円。そのうち米は現在2兆円程度の産出額ですが、このうち1兆8200億円が外国産になってしまうといいます。日本から田圃が姿を消してしまうのです。

食糧自給率の低下は、現在の40パーセントから12パーセントになるといいますが、現在の40パーセントというのだって、畜産飼料はほとんど輸入に頼っているのですから、それを考慮に入れると実質25パーセント前後。これが三分の一以下になれば10パーセントを割るわけです。

報告書にしばしば出てくる「国民・消費者の利益」とはいったいなんなのか。経済財政諮問会議は一方ではホワイトカラー・エグゼンプション(勤務時間を一定程度自由化し、残業代をゼロにする制度)など、労働分野の規制改革にも熱心ですから、これを総合すると、国民を不安定で安い労働市場にさらし、そこから出てくる経済的苦痛を安い輸入農産物でやわらげる、ということになる

わけで、それをかれらは「利益」と称しているのですから、これは詐欺みたいなもの。

第一、農地の80パーセントが消えてしまったら、この国はどうなるでしょう。最大の課題であるはずのCO2削減は挫折。逆に増えることになるでしょうし、温暖化の影響でオーストラリアの半分ちかく、カルフォニア州のほぼ全域が数十年先には砂漠化するといわれているのに、そこから永続的に食糧を得るつもりでいるのです。

こんな報告書がそのまま国会を通過するとは思えませんが、かれらが推進しようとしている路線は、格差社会を固定化するのみならず、食文化を崩壊させ、国民を飢餓にさらしかねないもので、ひとり農家だけの死活問題ではなかったのです。

FTA、EPAの加速化は、さまざまな反対に遭って開催すらむずかしくなってしまったWTO多国間交渉の次善の策で、いってみれば悪あがきです。大国・多国籍企業本位のグローバリゼーションを主導するWTOは、世界の農業と食糧問題、とくに貧困の拡大の元凶として世界中、とくに発展途上国から強い反発を受けてきました。1999年にシアトルで最初の敗北を喫して以来、メキシコ会議も、一昨年の香港会議も決裂。多角的貿易交渉の機能を失ってしまったので、困った人たちが打ち出してきたのがこれというわけ。

そんなものに荷担していたら、そのうち巨大な沈没船のあおりを受けて、こっちまでひっくり返ってしまうことになりかねません。せめて小舟や筏に自由を与えるように、小規模農家には好きなことをさせてもらいたいものです。

今週の野菜とレシピ

オクラがメニューに加わりました。ゴーヤも来週あたり、出てくはずです。

オクラは湯がくというより、さっと湯通しする程度で食べるのがおすすめ。小口切りにして、鰹節と酢醤油で食べてみてください。

茄子も先週あたりから、本来の甘みが出てきました。が、台風5号の影響で風の強い日が続いていましたから、表面に傷があるかもしれません。その部分だけ皮を剥いてお使いください。

空芯菜はニンニクといっしょに油炒めにするのがいちばんですが、火を通しすぎると味がわるくなってしまいます。強火で茎の部分を炒め、葉を加えたらとろ火にして塩、胡椒。半生ぐらいで火から下ろすと、中華料理店で出てくるような歯ごたえになりますよ。