太陽の歳時計

2007年11月第5週

今週の野菜セット

左上から時計回り

待望の初霜が降りたと思ったら、急激に気温が下がって、毎朝のように戸外は真っ白。薄氷も張るようになりました。

山々の紅葉も絵になってきて、朝、白い息を吐きながら犬といっしょに歩くのが楽しみになってきます。身を縮めながら家を出ても、歩いているうちに身体はぽかぽかあたたまってきますから、後半はのんびりと紅葉見物ができるのです。春先に新芽の中を歩くのもうれしいものですが、有終の美といいますか、木々が最後の力をふりしぼったような色彩の氾濫の中にいると、この世の贅沢を一身に受けているような至福の境地。季節の巡りのありがたさが痛感されます。

おかげで冬野菜もだんだん滋味を増し、甘く、やわらかくなってきました。青菜をたくさん食べて、身体をあたためてくださいね。

寒くなるにつれ、日時計の針が長くなってきます。日時計とは室内に射しこむ陽光そのもので、時間を計るものではありませんから、正確には歳時計とでも呼ぶべきでしょうか。

夏が終わるあたりから数ミリずつ日射しを伸ばし、この時期には室内のかなり奥まで入ってくるようになりました。手当たりしだい、冷たいフローリングの床でさえ、ぽかぽかにしてくれますから、猫どもが冬とは思えないようなあられもない格好で横たわる。人間もつい、明るさとあたたかさに誘われて新聞など広げ、さてと立ち上がったときにはなにも見えない、なんて失敗をすることがあります。

マチスの絵に「緑の部屋」というのがありますが、あれはきっとマチスがまぶしいぐらい陽が降り注いでいる戸外から、いきなり室内に入ったときに着想を得たにちがいなく、太陽の赤と補色関係にある緑色がちらつく中でわたし同様、手探りでキッチンやトイレにたどりついたにちがいありません。

それはともかく、夏の暑いさかりには太陽が真上にあるから陽が射さない。それがしだいに遠のくにつれ、気温は下がるけれども、人はより身近に太陽を感じ、ぬくもりを享受できるようになるというわけで、このあたりの自然の配慮の奥深さ。まあ、あたりまえといってしまえばそれまでですが、ありがたいなあ、と思うのですね。自然は過酷なものである反面、こうして生きとし生けるものを守ってくれている。大日如来の大慈ってこういうのをいうのかしら、なんて思ったりしてね。

ただし、そうなってくると、それまであまり気にならなかったガラスの汚れが目立ってきますから、時ならぬ大掃除がはじまったりします。家中のガラスをぴかぴかにして、これで暮れの掃除が楽になる・・・。

でも一ヶ月前、もう蜘蛛も動かなくなっただろうと、家中の蜘蛛の巣払いをしましたが、よく見るとまたあちこちに巣ができています。この調子だと、暮れは暮れでまた忙しくなるんでしょうが、ガラスが汚れるのも蜘蛛が巣を作るのも、人から虫にいたるまで、生きとし生けるものの営みが闊達であるという証。そう思えば掃除もさほど苦痛に感じなくてすみそうです。

今週末はもう師走。生活自体、それほど変わりはないのですが、やたらと周囲があわただしくなってきます。そんなムードに流されず、マイペースで年を越したいものですね。

今週の野菜とレシピ

先週にひき続きキャベツが入りますが、全セット分には足りないようなので、先週お送りしている方には白菜が入ることになりました。

少人数のご家庭では大きな白菜をもてあますかもしれませんが、煮びたしにすると嵩が減って食べやすくなります。煮びたしにするときのコツは、煮干しでも鰹節でもかまいませんから、濃いめの出しを用意すること。そして味つけは塩と酒少々だけ。よけいなものを一切省いてしまうので、白菜の甘みが生かされるのか、いくらでも食べられます。もしかしたら、白菜をいちばんおいしくできる調理法なのかもしれません。残った汁には白菜の旨みがしみ出していますので、これを雑炊にしてもおいしいですよ。

大根が立派になってきました。煮ものにせよ、サラダにせよ、大根を使うときには皮をむいてしまいますが、どんな野菜でもこの皮の部分に栄養分が凝縮されていますから、捨てるわけにはゆきません。大根の皮を3~4センチに切って塩をして、しんなりしたら水気を切ってキムチの素で和えるとカクテキよりもおいしいぐらい。

ニンジンはふつう、皮をむかないものですが、とくべつにピーラーで薄切りにして大根の皮といっしょにきんぴらにするという手もあります。さらにピーラーでニンジンを剥き続け、最後に細い芯だけになったら、それは塩をふって食べてしまい、ひらひらのニンジンを素揚げにします。揚げるとぐにゃぐにゃになりますが、それをもう一度高温で揚げるとかりっとしますから、塩をふって食卓に出すとニンジンぎらいの子供でも食べてくれます。このかりかりニンジンをサニーレタスのサラダにのせてもおいしいですよ。

毎年、この時期におすすめしているのが、牡蠣とほうれん草の簡単グラタン。さっと炒めたほうれん草を塩と胡椒で濃いめに味つけ。それを耐熱皿に広げ、その上に塩洗いした牡蠣を生のまま並べます。そこに生クリームをかけ、おろしチーズをふってオーブンに入れるだけ。牡蠣に火が通ってふっくらしたらできあがりという簡単さですが、ベシャメルソースなど使うよりはるかにおいしいのです。ひとつだけ注意していただくことは、ほうれん草に火を通しすぎないこと。根元の部分をさっと炒めたら火を弱め、残りは塩・胡椒をからめる程度にしてください。

大家族向けにボリュームをつけたいときは、じゃが芋を湯がいてスライスしたものを皿に敷き、その上にほうれん草を広げるといいですよ。ワインにとってもよく合います。

今週から玉葱は好子さんのものから北海道産に替わります。