王子さまにならなかったカエル

2008年3月第2週

今週の野菜セット

左上から時計回り

今週はうららかな陽気が続きそうです。思わぬ寒のもどりがあるかもしれませんが、春の到来が実感できるかもしれません。

こちらでも朝夕の冷えこみは続いていますが、梅が満開。畑に面した南斜面では、もうツクシが顔をのぞかせました。これが出てくると俄然、気分がハイになってくるんですね。日が長くなったとはいえ、まだまだ早い日暮れどき、迫り来る夕闇に追われるようにツクシを摘むのが日課になりそうです。

今年もまた春が来る。そんなあたりまえのことが妙にうれしいのは、地下で動きはじめた植物たちの躍動が、こちらにも伝わってくるからでしょうか。

啓蟄も過ぎました。

啓蟄に地中の虫が動くというのは、どうやらほんとうのことらしく、この時期、地球の内部にもエネルギーが満ちてきて、低周波が大きくなってくる。それが最大になるのが、だいたいそのころなんだそうです。

人の耳には入らない低周波ですが、寝ているヘビやカエルたちには、目覚まし時計のように響くのでしょうか。この時期から、かれらはうるさい地中を避けるように、地表近くまで移動してきます。畑では冬眠中のヘビに遭遇することはありませんが、カエルはしょっちゅう目にするようになります。

草をむしると、その根元にカエルが眠っていることなどザラで、うかつに鎌など使えなくなってきます。一度、そんなことなど露知らず、鎌でガマガエルの背中をざっくりやってしまったことがあります。十年以上も前の話ですが、当時はガマガエルなど触れたこともなかったので、おっかなびっくり血がにじみ、脂肪の層まで見えている背中の傷に唾をつけて、そっと土をかけておいたのですが、なんとも寝覚めがわるかった。

ガマガエルというのは片手では持てないぐらいの大きさですから、存在感も並みのカエルの比ではありません。じつはそれまでにも、アカガエルというのでしょうか、茶色い小ぶりのカエルの脚など切ったり、罪なことはさんざんやっていたのですが、ごめんで済ませていたのでした。ごめんで済むどころか、カエルが片脚を失ってしまったら、生きてゆけなかったかもしれないのですが、横着をしてあんな浅いところで眠っていたヤツがわるい、ぐらいにしか無知なわたしは思わなかったんですね。

大きいだけでなく、おそるおそる持ち上げたガマガエルの寝顔が、なんともおだやかで、のみならずけっこう男前だったので、とっさに思い出したのが王子になったカエルの話。いくら王子さまでも、カエルだった人と結婚するなんて、お姫さまはイヤだっただろうな、と思っていたのが、いや、そうでもなかったかも、という風に180度転換したのでした。そんな淡い恋愛感情みたいなものが、その後の罪の意識につながったのかもしれません。

ガマガエルは王子さまにはなってくれませんでしたが、夏になってひょっこり姿を見せてくれました。背中の傷が癒え、コブのようにもっこり盛り上がっていましたから、まちがいなくあのカエルです。この再会は小躍りするほどうれしかった。やっぱり王子さまなんかより、このままのほうが男前は上かもしれない、と思ったぐらいです。

翌年には奥さんとおぼしき、ひとまわり小さいガマガエルを伴っていました。それから数年、毎年夏には姿を見かけていたのですが、ガマガエルの寿命ってどれくらいなんでしょうね。ここしばらく、それらしき姿は見ていないのですが、ガマガエルは滅多なことでは人前に姿を現しません。夜行性で、昼間は縁の下とか草の陰といった、湿気の多いところに潜んでいます。それがあの男前にかぎって、毎夏、かならず一度は姿を見せてくれた。それも至近距離まで来てくれるのですから、そのほうが今となっては不思議なぐらいです。

こちらが気にかけていたものだから、むこうもそれに応えてくれたのか。それとも、あれはやっぱり異種間恋愛みたいなものだったのかなあ、などと勝手な想像をめぐらせているのですが、この春もそういう出会いがあるといいんですけどね。もちろん、傷害事件は抜きにしての話です。

今週の野菜とレシピ

今週はルッコラが出てきますが、まだ小さいのでサラダ菜と合わせ、サラダセットにしてみました。

生野菜の命は水切りにかかっています。野菜を洗って水気をつけたままカットすると、水溶性のビタミンはどんどん流出してしまうからです。手で振ったぐらいでは不十分なので、ほんとうは遠心分離器みたいな水切りを使えばいいのですが、あれってけっこう場所ふさぎ。邪魔になるので、ペーパータオルや布巾でていねいに水気をふき取ってもいいでしょう。

水分を落としたら、できるだけ包丁ではなく、手でちぎること。それを大きめのボウルに入れ、油を少量たらしてかき混ぜます。油はサラダ油でもオリーブ油でもお好みで・・・。プロはサラダ用のサーバーをすばやく上下させながら混ぜますが、素人がそれをやるとあたりに野菜が散らばるので、わたしは手で全体に油がなじむように混ぜています。

手間はかかりますが、こうやって下準備をしておくと、時間がたっても野菜の鮮度が落ちず、栄養価が失われる心配もありません。しかもドレッシングに油が不要になるのでカロリーも抑えられそう・・・。ぱらぱらと塩をふって、レモン汁をかけるだけで、フレンチレストランなみのサラダになります。

ごぼうを洗うときの注意は、けっしてタワシなど使わず、ていねいに布巾か手で汚れを落とすこと。ごぼうはビタミンもミネラルもほとんど皮の部分に集中しているため、これを落としてしまったら繊維分しか食べられないことになるからです。アク抜きもほんとうはしなくていいのですが、それをしないと気がすまないという向きはできるだけ短時間で・・・。

ぶつ切りのごぼうを梅干しと醤油、砂糖少々でじっくりことこと、やわらかく煮ます。そのまま食べてもおいしいのですが、わが家では半分ぐらいは残しておいて、翌日、小麦粉、溶き卵、パン粉の順にくぐらせてカツレツにしています。ソースは梅干しを叩いてどろどろにしたものに、醤油と蜂蜜を加えたもの。ごぼうとは思えないぐらいふわふわのカツレツに、ほんのり甘酸っぱいソースがよく合います。

先週より大きくなった山東菜は、おひたしに・・・。鰹節と醤油でさっぱりと食べてください。

椎茸はまちがっても水洗いなどしないでくださいね。キノコ類は全般に洗う必要がなく、山で採れたものなども筆のようなやわらかいもので汚れを落として使います。香りが落ちるから、というのですが、失われるのは香りだけではなさそうです。使いきれない分は、半日ぐらいザルに広げておいてから石づきを取り、使いやすいように包丁を入れてから冷凍しておきます。干すことによって香りが増し、さらに冷凍することによって味が濃厚になるからです。実際、冷凍庫から出した椎茸を茶碗蒸しやお吸い物に入れると、ほんの少しでぐーんと味がちがいますから、これもお試しくださいね。