星空と闇
2008年5月第2週

左から時計回り
- 春キャベツ
- 小松菜
- キュウリ
- ルッコラ
- 山東菜
- フキ
新緑の季節です。山の中はもちろん、町中を歩いていても、つややかな若葉が目に入ってきます。晴れた日には、まるで若葉が発光しているようにまぶしく、雨が降ったら降ったで、樹木の淡い色合いが濃くなって、うつくしさが強調されるかのよう。
エネルギッシュな発芽の季節もいいけれど、芽吹きどきというのは、強すぎる精気が人の体調をも左右しかねません。それに対して、たおやかな新緑が作る木陰は、癒しの空間といった感じがします。
そんな若々しい緑のトンネルを山羊を連れて歩いていたころ、葉緑素が降りそそぎでもしたように、山羊の白い体が緑色に染まっていたことを思い出します。試しに写真を撮ってみたら、ほんとうに全身、淡い緑になっていましたから、目の錯覚ではなかったようです。
それはこの時期だけの現象で、夏になると木陰はただの日よけになってしまうようですから、森林浴なら今がおすすめ。若葉から降りそそぐのは、葉緑素だけではないのかもしれません。これは勝手な想像ですが、滋養やら薬効成分やら、もしかしたら未知の物質をも含む粒子が、皮膚から吸収されているのかもしれない、なあんて・・・。
そんなわけで、山羊がいなくなった今でも、暇さえあれば山の中をうろついているのですが、若葉の中には山羊の好物だったものがたくさんあります。そういうのを目にすると、山羊の不在が痛いのですが、未だ新しい出会いはなし。
十数年前、山の中に捨てられたオスの子山羊が、ふらりとわが家に現れたのがちょうどこの季節です。無性に裏山を徘徊したくなるのは、そういう期待があったからかもしれませんね。
ま、滋養はともかくとして、朝、光合成によって生まれたばかりの新鮮な酸素を浴びながら、新緑を愛でて歩くのは気持ちのいいものです。強風も紫外線も樹木が大部分を吸収してくれますし、暑さ寒さも緩和されます。ゴールデンウィーク中に都会からやって来る友人たちも、山の中に入るとほっとして、生気を満たして帰ってゆくようです。
そんな友人たちのひと組が、帰りがてらに夜空を見上げて、わあ、満天の星、と感激しているのにつられて、わたしもひさびさに星空を眺めました。星がきれいに見える、と喜ぶ友人たちのかたわらで、こちらは逆に、いつの間にか見える星が少なくなっているのに意気消沈。はじめて益子に来て、鼻をつままれてもわからないような漆黒の闇の中から見上げた夜空は、こんなものではなかったからです。
セキヤ彗星で有名な関谷氏が、栃木県北部の那須にあった観測所を捨て、北海道に移住したというニュースを耳にしたのが二十年ぐらい前。ああ、このあたりの空も汚れてきたんだな、と思いつつも、夜空を見上げるとプラネタリウムさながら、無数の星がまたたいていたものです。それを見て、わっ、蕁麻疹みたい、といった人がいたぐらい。
その蕁麻疹がいつの間にか、吹き出物になっていたというわけです。大気汚染も元凶のひとつなのでしょうが、いちばん大きいは地上の明るさ。田舎の夜も、昔のように真っ暗ではなくなったということなんでしょうね。そういえば懐中電灯で足元を照らしながら歩いている人の姿など、最近、あまり見かけません。真の闇を体験しようと思ったら、山の中にでも入るしかないのでしょうが、好んでそんなものを体験したがる人も、あまりいないのかな?
でも、キャンプなどという不便な遊びにあいかわらず人気があるのは、この闇に対する欲求が、身体のどこかに潜んでいるからではないでしょうか。明るいのは焚き火のまわりだけ。周囲の闇には樹木があり、物の怪もひそんでいる。そんな状況を好んで求めるのは、電磁波で麻痺していた五感が眠りから覚めるだけでなく、星が見えても見えなくても、意識下で宇宙と交歓しているような気がしてくるからかもしれません。
地上から見えても見えなくても、星は確実に存在するのですから、星が少なくなったと嘆くことはないのかもしれませんが、地上からどんどん闇が失われてゆくことは、わたしたちの感受性もそれにつれて鈍くなってゆく。そんなことを意味しているような気がしてなりませんでした。
今週の野菜とレシピ
今週のメニューにざっと目を通すと、青山さんのフキを除くすべてが好子さんの野菜です。収穫して出荷するだけでもたいへんそう。田植えや夏野菜の準備をしながら、これだけのものを作るのですから、脱帽、そして感謝です。
春キャベツはすこし前、愛媛から送ってもらいましたが、今回のはやわらかさといい、甘みといい、それより勝っているはずです。野口さんには申しわけないのですが、彼は本来が柑橘農家。野菜の専門家にはかないませんよね。
フキは葉を落としてから、大きめの鍋で湯がきます。そうすると皮が剥きやすく、指先がアクで黒ずむこともありません。鍋におさまらないときは、半分にして湯がいてから、食べやすい大きさに切って煮てください。
葉っぱのほうも利用します。茎を湯がいたときの湯を捨てず、そこに葉っぱを入れて湯通ししてから縦横に細かくきざみ、ぎゅっと絞って水を切ります。それを酒:1、醤油:2ぐらいの割合で煮ると、おいしい佃煮になります。佃煮ですから、ちょっと濃いめに味つけしてくださいね。最後に火を強くして、箸で混ぜながら煮汁をとばし、仕上がりに鰹節をたっぷりまぶして完成です。
ルッコラは胡麻うねつの香りがさわやかな、サラダ用の青菜。玉葱やきゅうりと合わせてどうぞ。
ちょっと変わったところでは、ルッコラとチーズの春巻き。お好みのナチュラルチーズといっしょにルッコラを包んで揚げると、ビールやワインのつまみに最高。夏になったら、青じそを使ってこれをやるとおいしいですよ。
山東菜は別名しろ菜。クセがなく、やわらかいのでサニーレタスの代用として使われることもあります。スライスしたきゅうりといっしょに一夜漬けにしても美味。もちろん、おひたしでもOKです。
小松菜はいうまでもありませんね。来週は予定欄にはありませんが、もしかしたらオカヒジキが入るかもしれません。