春の声・鳥の声

2008年3月第3週

今週の野菜セット

左上から時計回り

先週末の雨が春を運んできたかのように、あたたかくなりました。庭先ではムスカリがびっしりと青い花をつけ、次いでクロッカスが花を開きはじめました。満開の梅の根元では、スイセンも花芽を伸ばしています。

畑では、そのスイセンにそっくりなニンニクの芽が出そろって、ニンニクとおなじころに種を蒔いた豆類も、冬の間ちぢこまっていたのが葉を広げ、深呼吸でもするように伸びあがっています。その根元では、雑草も大きくなりはじめていますから、農家はこれから忙しくなってきます。わたしのような日曜農家も、ぼやぼやしていられなくなりそうです。

今朝、出がけにウグイスの第一声を耳にしました。まだホーホケキョとは聞こえませんが、春が熟すにつれ上達して、いい喉を聞かせるようになり、夏の間中、鳴き続けます。ウグイスは春を知らせてくれるので、春の鳥と思われがちですが、ほんとうは夏が本番。そして秋になると、どこへともなく姿を消してしまいます。

入れ替わりにやって来るのがヒヨドリやムクドリですが、かれらがいなくなるのはツバメが姿を見せるころ。したがってこの時期は、冬鳥と夏鳥が入り混じるので、鳥の声が一年中でいちばんにぎやかになるのです。それに負けじとスズメのさえずりも大声になってきましたし、遠くからはよく響くキジの雄叫び。豊饒の季節だなあ、としみじみ思います。

朝、小鳥の声で目をさますと、寝起きのわるいわたしでも寝覚めがいいのが不思議です。夜は夜で、布団の中で耳をすますと、三日に一度ぐらいはフクロウの声が響いてきます。フクロウは子育てを終える秋には、夫婦別れをしますが、寒くなるころ、またおなじ相手といっしょになって古巣にもどり、卵をあたためはじめます。だから今ごろ鳴いているのはオスのフクロウ。子育て中のメスに語りかけているにちがいありません。

カラスも営巣中です。枝や枯れ草をくわえて飛んでいる姿を見かけるようになりました。都会のカラスは針金ハンガーで巣作りをするらしく、よく盗まれると聞いたので、軒先に並べておいたことがあるのですが、いっこうになくならない。田舎のカラスは自然素材がお好き、というより、素材に不自由してないのかもしれません。

犬が円形脱毛症になりやすいのもこの時期です。これはストレスのせいではなく、昼寝の最中、カラスに毛を持って行かれるから・・・。山羊が生きていたころ、春になると不自然なハゲができるので、気をもんだことがあるのですが、カラスがたてがみを拝借している現場を見て納得。山羊もさほど気にしていない様子でしたから、犬たちも見て見ぬふりをしているのでしょう。

盗まれた毛は巣の内装用。卵のクッションとして使われるようです。上野動物園周辺のカラスの巣には、シマウマやキリンの毛が入っていたという報告がありますが、これは贅沢。田舎ではそんなゴージャスなインテリアは望めそうもありませんが、ありふれていてもいいじゃないか。カラスをめぐる環境は、こちらのほうがよっぽどいいのですからね。

一方、田圃に残されていたサギの幼鳥たち。今年は寒さが厳しかったので、どうなることかと案じていましたが、無事に越冬できたみたいです。

幼鳥が取り残されるようになったのは十年ぐらい前からで、これも温暖化現象のなせるワザ。冬になっても雪や氷で閉ざされることがなくなったので、幼鳥の食べものぐらいは確保できる。もちろん保障はありませんが、それでも長距離の渡りのリスクにくらべたら、生存率は高いのでしょう。

あちらこちらにぽつん、ぽつんと残された幼鳥が、河川や用水路で餌を探す姿はたよりなげですが、見かけによらずたくましいところもあるようで、池の金魚をみんな食べられてしまったという話があります。幼鳥とはいえ、かなり大型なので、天敵の心配もなさそうです。ときどきカラスのテリトリーに侵入しては、大声で追い払われているみたいですけどね。

今は保護色なのでしょう、グレーの羽根をまとっていますが、田植えが終わって親鳥たちがもどって来るころ、真っ白な羽根に変わって、どれが親やら子供やら見分けがつかなくなってしまいます。この春から、かれらも成鳥。秋には子供を残して飛び立って行くんでしょうね。

このあたりでも、昔にくらべたらサギの姿は激減しています。田圃に撒かれる農薬や除草剤に加えて、用水路がコンクリートのU字溝になったため、餌になるドジョウや小魚がいなくなってしまったからです。営巣できる竹藪もすくなくなりましたしね。それでも環境の変化に対応しながら、気象の温暖化までたくみに利用している姿を見ると、思わずガンバレと声をかけたくなる。

サギの姿がなくなってしまったら、この国の農業もダメになるということにみんなが気づくまで、今しばらく待ってほしい。それまでなんとか無事に生き延びてほしい、という切なる願いでもあるのです。かつてのトキやコウノトリのように、最後の数羽になってから保護政策が取られても、失われたものはなかなか元通りにはなりませんからね。

今週の野菜とレシピ

春大根が終了。ほうれん草もヒヨドリやムクドリに食べられて、ほとんど姿を消してしまいました。渡りを目前にした鳥は食欲旺盛。中にはビニールハウスに侵入してくるものもあるそうです。

かぶはもう少し大きくなるまで待ちたかったのですが、大根がなくなったため、駆り出されました。小ぶりですが、葉もいっしょにおつゆの実、一夜漬けにご利用ください。

ニラは甘みが身上。臭くて、ごわごわして、という印象があるかもしれませんが、有機栽培のニラはやわらかく、甘いものです。2~3センチに切ってさっと湯がき、醤油と胡麻油少々で和えてみてください。

春菊にもほのかな甘みがあります。これはおひたしというより、胡麻酢和えが美味。さっと湯がいた春菊を、酢と砂糖少々をまぜた醤油、擦り胡麻で和えます。茎の部分は残しておいて、これはこれで甘酢に漬けたり、バター炒めなどにして肉や魚料理に添えてくださいね。

横畠さんのじゃが芋の甘さにも定評があります。これを種芋にしても、こちらではなかなかこういう味にはなってくれません。やはりじゃが芋は北海道にはかなわない、とプロも脱帽するぐらい。土壌がちがうんでしょうね。

このじゃが芋の甘みと旨みを損なわないために、湯がくときはなるべく丸ごと。大きいものでも、せめて半割りぐらいで茹でてください。かために茹でたじゃが芋をスライスして、椎茸や春菊の茎といっしょに炒めて塩、胡椒。シンプルな料理ほど、素材の味がよくわかります。