通学路を奪われた子供たち

2008年11月第4週

今週の野菜セット

左から

寒くなりました。

とくに朝晩の冷えこみは厳しいようで、朝、畑に立つと一面真っ白に霜が降りています。日が高くなるにつれ、それがあたためられて蒸発すると霧が立ちこめたようになります。

そういう光景を見て育った子供は、「濃霧」を「農霧」と思いこんでいるらしく、実際に答案用紙にそう書くことがあるそうです。頭のいい子供ほど、そういう誤解をするといいます。都会育ちの先生なら容赦なくバッテンをつけるでしょうが、おなじような光景を見ている人は一瞬、躊躇するでしょうね。でも、漢字のテストが減点されたところで、たいしたことではありません。それよりもそういう誤解のできる環境が、どんどん狭められていることのほうがはるかに深刻。それと同時に、ユーモアのある珍解答も学校から消えてゆくことになるのですから・・・。教育の現場が荒廃しているのも、生徒のレベルが低下しているのではなく、環境の劣化のせいだと思いますよ。

身を切るように冷たい朝の風も、農霧がたちこめるころにはやわらぎます。そのあたりがちょうど子供たちの登校時間。でも、山間部では子供たちが歩いている姿を見かけなくなりました。

少子化にともない、小学校がどんどん併合されているからです。代わりにスクールバスが走るようになり、こんな田舎においてさえ、子供たちは道草をする自由すら奪われてしまった恰好です。教育委員会の管理に締めつけられた先生のいる学校と、教育ママあるいはパパのいる家庭との往復がバスでは、ナマの教育、すなわち身をもって知るという学習の機会が奪われたに等しい。

都会の子供たちには登下校のほかに、塾の行き帰りという管理の手の届かない自由時間がありますが、田舎の子供はそれも車で送り迎え。いくら環境がよくても、子供がそれを享受することはできないのです。都会にくらべて犯罪がすくない、なんて暢気なことをいっていられるのは今のうちで、スクールバスの子供たちが大きくなるころには、地方のほうが逆に物騒になっているかもしれません。

地主のおばあちゃんが小学校時代、通学路に使っていた林道を通ったことがあります。あんなところ、こんな年寄りにはもう歩けないというので、だいたいの場所を聞いて探しまわっていたのです。何年も前のことですが、今でもときどき足を伸ばしたくなるぐらい、おそろしく不便だけどすばらしいところです。

今はほとんど使われることがないらしく、倒木も崩れたところもそのままですが、ちゃんと整備すれば軽トラぐらい走れそうな林道でした。途中にわき水があり、それが小川になっているので、飲み水に不自由することもありません。実際、おいしい水なんです。今は大部分が杉林になっていて暗いのですが、当時はお腹がすけば、季節によってはいくらでもオヤツが食べられたにちがいありません。

こんなところを一時間もかけて通っていたのか、とうらやましくなりました。行きは一時間でも、帰りは二・三時間になったはず。学校の勉強などしなくても、この往復だけでいっぱしの教養人になれると思いました。だって、バーチャルな経験をいくら積んでも、人間は成長できないのですから。テレビゲームのドラゴン退治など、この林道のささやかな冒険にはかなわないはずです。

この道をよく山羊といっしょに歩きました。山羊の好物がいっぱいあるので、時間があるとそこまで足を伸ばしたものです。長時間歩いていると、便意を催してくることがあって、また、それにふさわしい場所がちゃんとあるんですね。あの婆ちゃんもここでウンコをしたにちがいない、などと考えながら、平坦な舗装道路を歩いている今の子供たちが不憫になったものです。

そんな道すら、子供たちから取り上げられて・・・。かれらの将来が案じられますが、子供は天才。なにかしら抜け道を見つけて遊んでいるかもしれません。そうあってほしいものです。

今週の野菜とレシピ

好子さんのコスレタスが入りました。これは結球するタイプのレタスより歯ざわりがよく、サラダだけでなく、炒めものやスープでもシャキシャキ感がしっかり残ります。

サラダを作るときは、水切りを十分にしておきます。野菜に水分が残っていると、水溶性のビタミンがどんどん抜けてしまうからで、味も落ちます。レタスはとくにその傾向が強いので、一枚ずつ布巾かペーパータオルで包むように水気を取り除いてください。乾いたボウルにちぎったレタスを入れたら、そこにサラダ油かオリーブ油をたらし、手でよくなじませます。そうしておくと鮮度も落ちませんし、栄養分の流出もなくなりますから、すこしずつ使う場合には保存もできます。

コスレタス1個に対して、レモン半個の果汁をかけ、塩、胡椒。これだけでおいしいサラダになります。ここに焼き海苔をたっぷり、鋏で細切りにして加え、醤油少々も加えて和えると和風サラダ。これ、わが家で人気のあるサラダです。ここにルッコラも加えて、胡麻風味にしてもいいかもしれませんね。

ようやく霜が降りたので、ほうれん草が登場しました。霜にあたらないほうれん草など、味気がなくて食べられませんものね。おひたし、胡麻和えでお召しあがりください。

香りのいい椎茸と、甘いじゃが芋のビッグオムレツ。じゃが芋は小ぶりのものを湯がいておいて、2~3ミリ厚さに切っておきます。椎茸も薄切りにしてサラダ油かオリーブ油で炒め、じゃが芋も加えて塩、胡椒。それをオムレツの具にしますが、本格的にプレーンオムレツにくるむには技術を要します。そこでわたしは溶き卵に軽く塩、胡椒した中に中身をどっと入れてしまいます。強火で焼きあげるのがコツ。これもルッコラを添えるとおいしいですよ。

先週の柚子が残っていたら、春菊のおひたしに使ってください。春菊は酢と相性がいいのです。柚子の果汁:1に対して、砂糖:1、醤油:3の割合で合わせ酢を作り、たっぷりの擦り胡麻といっしょに湯がいた春菊を和えます。春菊の甘みに柚子の香りと酸味が加わるのですから、おいしくないわけがありません。ひとり暮らしの方は保存容器に入れて冷蔵しておくと、少量ずつ食べられて便利です。