タヌキの冬支度

2008年11月第3週

今週の野菜セット

左から

日が暮れるのが早くなりました。こんなときは別段不安を抱えているわけでもないのに、妙に心細くなったりするものです。

家路に向かっているうちに、あたりがどんどん暗くなってくると、これだけ照明の行きわたった現代ですらこんな心境になるのですから、上古の人たちはさぞ気が滅入ったにちがいありません。それとも軟弱な現代人とちがって、暗闇に慣れている分、毅然としていられたのでしょうか。でも、冬という過酷な季節が着実に近づいているという、切実な緊迫感はあったはずです。

明かりに囲まれ、暖房にも恵まれていながら、冬の足音が近づいてくるにつれ漠然とした不安にかられるというのは、わたしたちの血の中にそういう記憶が残っているせいかもしれません。秋になると食欲が増してくるというのも、もしかしたら太古の名残だったのかもしれませんね。

動物はわたしたちよりはるかに強く、そういう記憶をとどめているようです。犬や猫が家畜化されたのは数千年前のことなのに、野良にかぎらず、家の中でグータラしている犬・猫までがそうなのですから、ちょっとびっくり。とにかくよく食べます。

脂肪がつく上、体毛も増えてくるので、夏の間スリムだったものもころころしてきます。あんたたちは冬眠するわけじゃないんだから、そんなに食べなくてもよろしい、といっても聞く耳持たず。家の中にいるのがそうですから、通いの野良猫が缶詰ふたつに大きなアジまでぺろりと平らげても、ごくごく自然なことなのかもしれません。

夜道をうろつくタヌキも着ぶくれしています。車のライトに照らされて、あわてて藪の中に駆けこむ姿がゆっさゆっさと揺れて見えます。先週、タヌキが柿を好んで食べるという話をしましたが、書き終えてから、じゃあ、うちの畑に出没しているタヌキはいったいなにを食べているんだろう、という疑問が残りました。ウサギが放し飼いになっていたころなら話はわかるのですが、葱やカブしか残っていない殺風景なところでなにをしているんでしょう?

気になったので、先週は朝起きるとすぐに畑を見てまわりました。タヌキは体臭が強いので、朝の早い時間帯にはまだ臭いが残っているのです。臭いがするのは霜除けにモミガラなどを敷きつめたところで、引っ掻きまわした痕跡も残っています。もしかしたらモミガラの中に米粒でも混じっているのだろうか。それをかき混ぜていたとき、答えがみつかりました。

カラスが餌を隠していたんです。わたしの手が探りあてたのは犬用のビーフジャーキー。わたしが前日与えたものです。そのほかにサンマの頭だけを揚げたもの、残りもののギョウザがあったはずですが、そういう匂いの強いものは持ち去られたにちがいありません。カラスが食べてしまったのかもしれませんけどね。

そういえばうちの犬も散歩から帰ってくると、よく落ち葉の中に鼻先を突っこんでいましたっけ。そうやってゲットしたものを食べ、こらあ、カラスのご飯を食うな、と怒鳴られていたものです。それとおなじことをタヌキがやっていたというわけ。

タヌキは犬科、雑食。ドッグフードの上前をはねても、柿などの木の実を食べても不思議はなく、これにて一件落着。おなじ犬科でも、キツネはこういうことをしないのにね。キツネの出没したところにもタヌキとおなじような臭いが残っているけれど、そこには山鳩の羽が散乱していたりして、野生という言葉のイメージを裏切らないのですが、タヌキのしたたかさには愛嬌があり、昔話にかれらがよく登場するのもわかると思いました。

ただ、カラスたちは餌の隠し場所を変えたほうがよさそうですね。

今週の野菜とレシピ

今週は鍋ものセット。白菜、春菊、京菜、椎茸と、鍋をかこむ必需品が揃いました。肉類や魚介類といっしょにどうぞ。

中でも圧巻は下仁田葱。すき焼き用の葱として有名ですが、外観の見事さだけでなく、甘さ、やわらかさにおいてもふつうの葱とはちがいます。すき焼きだけでなく、鶏の水炊きや寄せ鍋にもご利用ください。

柚子もまた、鍋ものには欠かせませんが、うちでポン酢を作るときは柚子の絞り汁:1に対して醤油:3ぐらいの割合で混ぜ、さらに柚子の表皮を薄く削ってみじん切りにしたものを加えています。おろし金でこすってもいいのですが、そうするとおろし金の突起についてとれなくなる分が出てくるので、面倒でもみじん切りにしたほうが無駄がありません。

また、柚子の皮を薄く削りとって冷凍しておくと、茶碗蒸しやお吸い物に利用できるので便利です。種は植物性コラーゲンたっぷりなので、焼酎漬けにしておきます。これにビワの葉やアロエを加えて漬け、化粧水として利用することも可。残りはガーゼで包むなりして、お風呂に入れましょう。

先週の廃物利用の続きみたいになりますが、玉葱の皮も捨てずに取っておいてくださいね。玉葱の表皮、あの茶色い薄皮にはフラボノイドのケルセチンが含まれています。泥のついた外側の皮に含有率が高く、中へ行くほど低くなりますが、二~三枚目ぐらいまでは薬効があるといいます。

玉葱の皮をお茶にすると、血液がさらさらになり、人によっては長年の膝の痛みが消えたりするそうですが、これだと皮の成分を抽出しきるのはむずかしいので、粉末にして繊維まで食べてしまうのがいちばんいいそうです。天日干しよりも、フライパンなどで加熱したほうが甘くなりますから、それをミルで挽いて利用します。一週間もこれをお湯に溶かして飲んでいると、便の臭いがなくなるから不思議。高血圧や血糖値の高い人にもいいそうですが、なぜか外国製の玉葱の皮にはケルセチンがほとんど含有されていないといいます。

カレーやシチューを作るとき、この粉末をスプーンに二~三杯入れると、コクが出ておいしくなります。野菜を炒めるときに入れるのですが、この方法だと玉葱を一時間ちかくも飴色になるまで炒める必要がないぐらい。薬用だけでなく、料理用にもなる優れものです。

そんな面倒なことはしたくないという向きも、とにかく捨てないで取っておくと、鍋を焦がしてしまったときに重宝します。鍋いっぱいに皮を入れ、ひたひたになるまで水を入れ、沸騰後十五分ぐらい弱火にかけます。中身を捨てて木ベラでこすると、頑固な焦げが簡単にはがれ落ちます。