稲刈りに思うこと

2008年9月第4週

今週の野菜セット

左から

台風13号。どっかりと腰を据えられた九州はたいへんだったようですが、こちらはほとんど影響もなく、ひさびさの青空が広がっています。今週、予定されている稲刈りも、おかげさまで順調に進みそう・・・。

この晴天が続くようなら、来週あたり新米が入ってきます。そうなると、また一段とご飯が進みそうで、食欲の秋も本番を迎えます。

でも、知ってました?今でこそ、農家もこの時期に新米を口にするようになりましたが、すこし前まで、そんな贅沢は許されなかったんですよ。新米のうち、供出する分を除いた自家用はそのまま米倉に保管され、入れ替わりに出してきた去年の米を食べるというのが一般的でした。

なぜ、そんなことをするかというと、翌年が豊作になるとはかぎらないからで、種籾用の米はもちろん、自分たちが食べる分も、万が一に供えて残しておいたんですね。二十数年前、益子GEFが設立されたころも、農家はそれをやっていました。新米を食べるのは、稲刈りが終わったときと、正月の三が日だけだったのです。さすがに春が過ぎ、気温が高くなってくると、秋に収穫した米を食べるようになりますが、それはもう新米とは呼べません。

そんな中、わたしたちだけが新米を食べるのも気がひけるものですから、年内は去年の米を食べていたものです。それが二十年も経つうちに代が替わり、作り手が若くなってくると、そういう習慣もしだいに廃れて、米を作っている者がまずい米を食べてどうする、という感じになってきました。

おかげでわたしたちも、堂々と新米が口にできるようになり、それはそれでありがたいことなのですが、万が一に備えるという、昔ながらの習慣はすっかり姿を消してしまいました。おいしい暮らしができるようになった反面、その暮らしを持続するという配慮には欠けているわけですから、一寸先は闇みたいなもの。それがちょっと気にかかります。

先の見えないグルメ志向か、ほどほどの安定かというと、やっぱり後者を選びたい。というわけで、この秋はひさびさに残った米をかたづけよう、なんて殊勝なことを考えるのですが、これもエコバック同様、自己満足的な気休めにすぎないのだとしたら、一寸先の枯渇を見据えながら、新米に舌鼓を打っていたほうが逆に健康的かなあ、とも思ったりして、秋風に揺れるススキの心境。

ま、成り行きにまかせることになるのでしょうが、消費者が享楽的なのはしかたがないとして、行政まで刹那的で、行き当たりばったりな政策しか打ち出さないのですから、ひとり農家に責を負わせるというのも酷な話です。ただでさえ、第一次産業は経済発展の犠牲にされ続けてきたのですからね。ここらですこしずつでも方向転換してゆかないと、この国の「食」はお先真っ暗。それとも、不祥事続きの農水省を解体して民営化でもしないかぎり、なにも変わらないのでしょうか。

毎年、田植えや稲刈りの光景を見るたびに感じることですが、携わっているのはほとんどが六十歳以上。八十代の人もけっこういるのです。手伝いに来ている子供たちはほとんどがサラリーマンで、かれらがいつか親の跡を継いで米作りをするかというと、そんな割に合わないことはやりそうもない。

現にうちの地主ですら、三年前に米作りをやめてしまいました。買ったほうが安上がりだというのです。米を作るには耕耘機、田植機に加えて、収穫用のコンバイン、乾燥機とざっと一千万ぐらいの資金が要ります。苗を育てるビニールハウスも必要ですし、手間だってバカになりません。田植えの後、数ヶ月は朝昼晩、数時間置きに水の管理もしなくてはなりませんし、台風でも来ようものなら心配で夜も寝られない。

ようやく収穫に漕ぎつけても、あれやこれや難癖つけて買い叩かれてしまうのですから、米作りはオヤジの代で終わり、という農家が増えるのもしかたがないのかもしれません。こうなってくると、もう来年の米どころか、十年後には今食べる米の心配をしなくてはならなくなります。

稲作という、数千年にわたって営々と受け継がれてきた文化の担い手がいなくなる。これは少子化などよりはるかに深刻な問題だと思うのですが、なぜか話題にも上らないし、景気対策ほど騒がれることもないようです。これだけ食の安全が問題視されているにもかかわらず、それが農政と結びつかないところが摩訶不思議。日本中が金とモノに溢れたところで、食べるものがなくなったのではどうしようもないと思うんですけどね。

今週の野菜とレシピ

今週は里芋を予定していましたが、稲刈りと重なってしまったので、芋掘りの重労働はちょっと無理。というわけで収穫の楽なズイキを使わせてもらいました。

ズイキは芋茎と書きますが、里芋ではなく八頭の茎のこと。里芋の茎はアクが強くて食べられないのですが、八頭のほうはやわらかく、ほんのりとした甘みがあります。

皮をつけたまま4~5センチにざくざく切って、そのまま油炒めしてきんぴらにするか、さっと湯がいて酢味噌和えに・・・。すぐにやわらかくなりますから、火を通しすぎないのがコツ。田舎の秋の味です。

それよりも、なによりもうれしいのが好子さんの京菜小松菜。小ぶりではありますが、やっと食べられるようになりました。小松菜は味噌汁でどうぞ。身体中に染みわたるおいしさですよ。

京菜はサラダ、またはスープで・・・。ベーコンと京菜の中華風スープがうちでは人気です。ちょっととろみをつけて、とき卵でとじるのですが、味つけは塩、胡椒にオイスターソース少々。仕上がりに胡麻油を少量たらすのをお忘れなく。

新しょうがは、薄くスライスして甘酢に漬けると、きれいなピンク色になります。自家製のガリは味も香りも格別で、箸休めにうってつけです。

野菜たっぷりセットの方には、中里友久さんのセロリが入ります。中心部のやわらかいところは生のまま、外葉と茎のほうは炒めものや、スープなどにお使いください。これは来週、全セットに入ります。里芋もまちがいなく来週は入りますからね。