食糧問題

2008年4月第4週

今週の野菜セット

左から時計回り

春の嵐。先週は内陸部でも雨量が多く、風も吹き荒れましたから、海沿いの地方では被害が大きかったのではないでしょうか。

とうとう春にまで台風が来るようになったか、というのが大方の感想で、農家も対応には四苦八苦。春の嵐だというのに、北風が吹いていたりしますから、ほんとうにわけがわからなくなってきました。この番狂わせがどこまで続くのか、農家でなくても気になりますね。

それでも山に入ると新緑は花盛り。新緑を花と呼ぶのはおかしいかもしれませんが、芽を出したばかりで、まだ緑になりきらない葉が、枯れ木に咲いた花のように見えるのです。そんな若葉の下を歩いていると、地上に吹き荒れる風が嘘のよう。頭上の枝が大きく揺れているにもかかわらず、根元ちかくでは平安が保たれているからです。

この樹木という巨大な冷暖房装置の中にいると、寒暖の差がゆるやかで、大雨が降ったところで大部分が吸収されて大水になることもない。逆に旱魃時には、蓄積されていた水分が放出されるので、湿度も安定しているのです。まさに天然のダムですが、そういう林や森を潰して人工のダムが建設されており、その愚かしさが明らかになった今でも、巨額のプロジェクトが進行しているというのですから、これは国潰し。自然破壊の元凶みたいにいわれるゴルフ場など、それに比べたらかわいいものかもしません。

もっとも、いたるところゴルフ場だらけの栃木県に住んでいると、こいつらこそ諸悪の根源、という気がしてくるのですが、よく考えると根源は農業の衰退のほうにあったのです。農業で食べていくことができなくなり、山林や農地がタダ同然で売られようになったから、ああいうものができ、農家の子女の就職口になったわけで、現在過疎が進んでいる村でも、農業が生業として成立できるようになれば、無用のダムなど造らなくてすむようになるのではないでしょうか。

ここへきて朗報がふたつあります。ひとつは毒入りギョウザ事件があぶり出した輸入食材の問題で、もうひとつは穀物市場の高騰です。これのどこが朗報なのか、と思われるかもしれませんが、国内にかぎっていえば、食糧自給率が見直されるきっかけとなるかもしれないからです。

毒入りギョウザ事件の真相は解明されないままですが、日本か中国、どちらで毒物が混入されたにせよ、犯人は憂国の士なのではなかったかとわたしは勝手な想像をめぐらせています。日本人が警鐘を鳴らしたにせよ、中国人が出稼ぎ労働者の苦境を訴えようとしたにせよ、いずれにしてもこんなシステムはまちがっている。即刻やめよ、といっているように思われたんですね。

食のコンビニ化が急速に進んだこの十年は、「食のダンピング」と「労働のダンピング」が同時進行していたわけで、安い輸入食材がワーキングプアを生み出した、この国の社会的矛盾をカバーする形になっていたようです。それでは輸出する側が豊かになっているかといえば、それがそうでもなく、やはり弱い立場にいる者が切り捨てられているのです。。

中国一の野菜生産地である山東省では、近年、日本向けの野菜の生産から小規模農家が排除されるようになりました。零細農家が作ったものは、農薬の使用回数など、監視の目が行き届かないなどの理由で、仲買人が買い入れを拒否するようになったそうで、零細農家はやむなく輸出企業の直営農場や、日本向け冷凍食品を作る工場で働くことになります。安い労働力として組みこまれた上、生まれ故郷を離れ、家族と会うこともままならないような暮らしに追いやられたというわけです。

タイでも同様のことが起こっています。たとえば鶏肉調整品工場では、タイ国内の直営農場で生産された鶏肉をカットし、日本のコンビニや居酒屋から送られて来るレシピに合わせて、焼き鳥や竜田揚げなどが作られているのですが、そこで求められるのは「できるかぎり安く」で、中国のギョウザ作りの現場とおなじことがおこなわれています。

また、タイで作られるキャッサバ芋から採れるタピオカ澱粉。価格はじゃが芋澱粉より安いのに、粘りは十倍もありますから、冷凍うどんや、もちもち感をうたう食パン、インスタントラーメンなどに使われ、日本の台所を支える魔法の粉ともいわれています。その生産地であるタイ東北部、イサーンでは森林が伐採され、広大なキャッサバ畑が作られましたが、森林が消滅したために乾燥化が進み、思うような生産量が得られなくなっているといいます。

大規模化、機械化のために借金をかかえこみ、そこへ旱魃や連作障害、価格の暴落が追い打ちをかけ、農家の借金はここ十年で五倍にふくらんだといいますから、豊かになるどころか、逆に離農を余儀なくされる場合のほうが多いのです。日本の食の崩壊は、その台所を支えるアジアの農家まで巻きこんでいたというわけで、この国の食料自給率の底上げが、けっしてエゴイステイックな願望ではないというのがおわかりいただけると思います。

穀物の高騰も開発途上国にとっては死活問題ですが、この国が減反政策をただちにやめ、余剰米を食料援助にまわすようにすれば、内外の問題が同時に解決されるんじゃないでしょうか。素人考えかもしれませんが、米の買い入れ額など、政府が米軍に貢いでいる額に比べたら微々たるものですし、イラクあたりで給油活動なんかしているより、国際社会の評価も大きいはずです。

さらに放置された畑には大豆と麦を作らせる。それぐらいやってくれないと、農水省は名誉回復できないし、不動産業などに精を出しはじめた農協にも、ここらでガツンと一発、目覚まし効果がほしいものです。

今週の野菜とレシピ

今週はタケノコが入りました。タケノコは鮮度が命ですから、届いたらその日のうちに、添付の米ヌカ、とうがらしといっしょに湯がいてください。竹串がすっと通るぐらいになったら、火を止めてそのまま冷まします。冷水にとり、毎日水を替えてやると、冷蔵庫に入れなくても4~5日は大丈夫です。

姫皮ももったいないので利用してくださいね。梅肉和えにするか、かき揚げがおすすめです。

待望の絹さやも入りました。濃いめの出しでさっと煮て卵とじ。油炒めして卵でとじてもおいしいものです。

きゅうりはまだ小ぶりですが、どうにか全セットがカバーできる数量になってきました。とはいっても、今週はまだ3本ずつ。気温が高くなれば、きゅうりのみずみずしさがおいしく感じられるでしょうね。

小松菜はお吸いもの。京菜はサラダや炒めものでどうぞ。

*今回タケノコをお送りした方には、来週、タケノコの代わりに山うどなど、山菜と玉葱を予定していますが、タケノコ大好き、という方はご一報くだされば、来週もお送りします。